276話
「ただの変態なのは見ればわかる! 早くなんとかしないと!!」
「いや、告白の最中に割って入るのはマナー違反ですよ」
「誠実君状況分かってる!? あれって告白って言うの!?」
「言葉がどうであれ、告白は告白です」
そうだ、告白の最中に横やりを入れるなんて誰にも許されない行為だ。
責めて怜子先輩が返答するのを待つべきだ。
「嫌! でも怜子が変態に!!」
「大丈夫です、本当に嫌だったら罵られて終わりですよ」
「それは相手に取ってはご褒美なのでは?」
「まぁ、とりあえず様子を見てみましょう」
「通報した方が早いような……」
誠実は徹を抑えつつ二人の様子を見守ることにした。
すると、黙っていた怜子が静かに話し始めた。
「あの……すいません、私は恋愛というものが分かりません。なので貴方の思いには……答えられません」
そう怜子先輩が言った瞬間、徹はほっと一安心していた。
しかし、断られた男も簡単には引き下がらない。
「本当に好きなんです! 踏んでほしいんです!!」
(どっちなんだよ……)
呆れながらそんな事を考える誠実。
しかし、怜子の考えは変わらない。
「ごめんなさい、でも踏むのは少し興味あるわ」
(いや、興味持っちゃだめだろ!)
やっぱり変な事に怜子さんは興味を持っているらしい。
「おい! なんか怜子が男を踏もうとしてるぞ」
「一回踏んでさようならって感じなんですかね?」
「そんなのだめだ! 怜子に踏まれて良いのは俺だけだ!!」
「あ! ちょっと!!」
恋をすると周りが見えなくなり、一時的に馬鹿になる。
これは誠実が思っていたことだが、誠実は案外それが当たっているのではないかとこの時そう思った。
盲目の馬鹿になった会長は二人の元に行き勢い任せにこういった。
「怜子!」
「え? 会長?」
「な、なんで生徒会長がここに?」
「こんな奴よりも僕を踏んでくれ!!」
「え?」
きょとんとする怜子。
遠目で見ていた誠実は盛大にずっこけた。
(あの人、生徒会長だけど馬鹿だよなぁ……まぁこんな状況だからかもしれないけど)
「ま、まさか生徒会長も田宮さんを!!」
(あ、告白してた人は状況を理解したっぽいぞ)
「そんな、会長もドMだったなんて!」
(素晴らしい誤解を生んだな)
「うるさい! 君は僕のライバルだ! 僕の方が怜子に踏まれたい!!」
(あぁ、もう会長だめな気がする。テンパって勢い任せにかなりヤバイことを言ってる気がする)
「か、会長がそんな人だったなんて……いつもは頭の良い、統率力のある人だと思っていたのに」
「僕だって人間だ、君のような感情を持っても何の不思議もない」
(あ、これ多分かみ合ってないな。てかかなり面白いことになって来たな)
「さぁ怜子! どっちを踏むんだ!」
「くそっ! 会長だからって負けないぞ! 田宮さん、最後に一回だけ踏んでください!」
(うーん……うちの学校の上級生ってこんなヤバイ奴らしかいないのかな?)
会話のかみ合わないままいがみ合う徹と変態男、そんな二人をみながら誠実はこの学校に進学したのは心配だったのでは無いかと考え始める。
「え、えっと……あの……」
(怜子先輩困惑し始めたぞ、まぁそうだよなぁ……眼の前に変態が二人居て、自分に向かって踏んでくださいって言ってるんだし)
「ど、どっちも踏んでみて良いですか?」
(あぁ、この人も変態なのかもしれない……少し顔赤いし。てか俺は一体何を見せられてるんだ?)
そしてついに怜子が靴のまま徹と変態男の足を交互に踏みつけた。
「あ、ありがとうございます!!」
「い、イタタ!! も、もう良い! 怜子もう良いから!!」
変態男は喜び、徹は踏まれてメチャクチャ痛がっていた。
「なんで俺、こんな事をしてるんだ?」
顔を上げ泥だらけの顔になった徹は我に返り、なんでこんな事をしているのかと自問自答を始めた。
「まさか会長もそう言う性癖だったなんて……俺達仲良く馴れそうですね」
「え? 何の話だい?」
「とぼけないでくださいよ! それじゃぁ俺はもう田宮さんを諦めます。新しい女王様を探しに行きます!」
「あ、あぁそう……」
そう言って変態男はその場を去っていった。
残された徹と怜子はなんだか微妙な空気になっていた。
そして誠実はというと……。
「あ、もしもし武司? この学校もうだめかもしれん」
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