273話



「なんか二人で話してるみたいだな」


「良く聞こえないっすね」


「全く、覗きなんて悪趣味な……」


 誠実と栞が話をしている頃、教室の外では生徒会の三人が二人の様子を覗いていた。

 

「いやでも、放課後の空き教室とかなんかこう起きそうじゃないですか?」


「まぁ、否定はしないがあの二人に限ってそれはないだろ?」


「そうです、わかったら早く生徒会室に……」


「誠実君少し踏んで見ていいかしら?」


 中から聞こえて来る栞のその言葉に三人は顔を見合わせた。


「え!? マジ?」


「ま、まさか栞ちゃんが?」


「ほ、蓬清さん貴方まで……」


「いやいや、何かの聞き間違いですよね?」


「三人が三人同じ聞き間違いなんてしないだろ!」


「やっぱり踏むと楽しいのかしら?」


「田宮先輩何言ってんすか? ま、まって下さいなんかまた何か話してます!」


「なに!!」


 侑大のその言葉に三人は教室のドアに耳を当てる。


「……そう言うのは……好きですけど……」


「じゃぁ……良いでしょ?」


「し、仕方ないっすね」


「ここなら誰も来ないから大丈夫だから」


「は、はい」


 聞こえてくる誠実と栞の怪しげな会話。

 外で聞いていた三人はもしかしたらこれからこの教室でかなりいかがわしいことが起こるのではと思い慌てて教室に入る。


「お、お前ら! いくら若いからってそんなアブノーマルな!!」


「そうだぞ! 興味を持つのは分かるがやっぱりまずはノーマルなところからだな……」


「蓬清さん踏んでみた感想を詳しく!!」


「え?」


「あら、どうかしたんですか?」


 急にやって来た三人に誠実と栞は驚きつつ尋ねる。

 三人は興奮気味に先ほどまでの誠実と栞のやり取りについて尋ねた。


「お前らさぁ、そう言うのは家帰ってやれよ」


「趣味を否定はしないし、性癖も自由だ。しかしここは学校で僕は生徒会長なんだ。口を出す権利が発生する」


「それで踏まれた感想を教えて欲しいのですが?」


「あの、何か勘違いしてませんか?」


「え? いやあの……流石に言い難いが……その……やろうとしてたんじゃ……」


「何をですか?」


「だ、だからその……」


「エロい事だよ」


「ちょっ! 侑大! お前何ストレートに聞いてんだよ!!」


「回りくどく聞いても仕方ないでしょ? で、どうなんだ?」


「いや、そんなんするわけないでしょ」


 侑大の質問に誠実は呆れた様子で答える。

 

「一体何を考えているんですか、そんなこと学校でするわけないでしょ? 何を考えてるんですか」


「いや、でもさっきなんか踏むとか踏まないとか言ってなかった?」


「いや、踏むってASMR動画のことですよ、ほら落ち葉踏む音とか雪を踏む音とかって結構いい音するじゃないですか、最近そういう動画に先輩がハマってるそうで」


「え?」


「じゃ、じゃぁ踏む踏まないってのは……」


「チョークを踏む音なんかもいい音がするんじゃ無いかって話をしていたんですよ。丁度そこにチョークはあるんですけど、流石に踏むのはって話をしてたんです」


「どんな音がするのかきになりまして」


 恥ずかしそうにいう栞。

 三人はその話を聞き一斉にため息を吐いた。


「なんだよ、つまんねー」


「だから僕は言ったんだ、早く戻って仕事をするべきだと」


「会長、それを言ったのは私です」


 三人はそう言って生徒会室に戻って行った。





「なんとか誤魔化せましたね」


「そうですね、まさか盗み聞ぎしてくるなんて……」


 誠実と栞は三人が生徒会室に帰ったあとも教室で話をしていた。

 もちろんその内容は徹と怜子の件だ。

 先ほど三人が入ってきた時はヤバイ聞かれたと思った二人だったが、三人が変な誤解をしてくれたおかげで話の内容はバレなかった。


「とにかく、今の状況で告白しても会長……OK貰えませんよね?」


「恐らくそうですね。多分保留にされると思います」


「てか、その怜子先輩に告った男はどうなるんですかね? その男にも怜子先輩返事をしてないんですよね?」


「はい、正直私は二人を知っているので会長と一緒になってほしい気持ちもあります。でも……振られる辛さは良く分かっているので」


 そう言いながら栞はちらりと誠実の方を見る。


「あ、あぁ……そ、そうですよねぇ……」


 一気に気まずくなってしまった誠実。

 栞から視線を反らすがそんな誠実の視線に栞は笑顔で入ってくる。


「だから、先輩の気持ちが固まるまで会長には告白して欲しくなんです。同時に告白なんてされたら先輩きっとパニックになって変な性癖に目覚めてしまうかもしれません」


「もう目覚める寸前では?」


「とにかく、誠実君からも行ってください。少なくとも先輩が告白してきた男性に気持ちを伝えるまでは動かないように見ていて下さい」


「いや、そんな事を言われましても……会長結構本気ですよ?」


「お願いします、お世話になった二人のためなんです!」


「それはそうですけど……」


 あのやる気満々の会長を止められるのかと誠実は不安だった。

 会長は結構行動派なところがある。

 正直少しだけ自分に似ていると誠実は思っていた。

 だからこそわかるのだ。

 告白をすると決めたら周りが見えなくなり、思い人に真っすぐ向かっていくということが。







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