271話

「っち! 誠実の野郎、前橋さんとイチャイチャしやがって」


「人目が無ければ俺がボコってたぜ」


「俺だって、コンクリ詰めにして海にドボンだ!」


「一緒全員でやっちまうか?」


「そうだな、あいつは最近なんか調子乗ってるし」


「全員で海にドボンだな」


「「「異議なし!!」」」


 不穏な話が聞こえてきて誠実は冷や汗を掻いていた。

 学校という比較的安全な施設で恐怖を感じるのはそうそう無いことだろう。

 しかし、そんなクラスメイト達の殺害予告も今の誠実にはそこまで効果はない。

 なぜなら沙耶香とのキス事件のことが頭から離れないからだ。


「お前、結局前橋も含めて告白してきた女子全員振ったんだよな?」


「まぁ、そう言うことになるな」


「障害に一度きりのモテ期だったのもったいねぇ……てか、それでも好きって言ってくれる前橋達すげーな」


「あぁ、こんな馬鹿はさっさと地獄に落ちればいい」


「という訳で誠実」


「言って見ようか」


 そう言いながら武司と健は誠実をロープで縛り、窓際に追いやる。


「いや、ちょっとまってぇぇぇぇ!! なんで? なんでこんな事になってるの!!」


「安心しろ、ちょっと紐無しでバンジーするだけだ」


「しかもここは二階、多分死なないだろ」


「いや傷害事件になるわ!!」


「うるさい奴だ、見てみろクラスの奴らはわくわくしてるぞ」


 そう言う健の後ろに居た男子達は誠実を見ながら笑みを浮かべて楽しそうに叫んでいた。


「良いぞ落とせ落とせ!!」


「あんなリア充は死ぬべきなんだ!」


「ふひひひっ! 楽には殺さないよ?」


「将来うちのクラスから殺人鬼が出ないか心配だな……」


 狂気に満ちた男子生徒を達を見ながら誠実はそんな事を呟く。

 しかし、現在はかなりのピンチ。

 自分を二階の窓から突き落とそうとする馬鹿二人から誠実は逃れようと必死だ。

 

「ほーら早く落ちろー」


「大丈夫死なないからー」


「馬鹿かお前ら!!」


 最早本気なのか冗談なのかも怪しい感じになってきたその瞬間、誠実達の教室のドアが開いた。


「誠実君!!」


「あ、会長。助けて下さい」


「いや待ってくれ、まず状況を説明してくれないか?」


 ドアを開けた瞬間に目にした光景が縛られた誠実とそれを窓から落とそうとする武司と健の姿は第三者からしたらかなり衝撃的な物だろう。

 もちろん徹もその光景に驚きを隠せなかった。


「まったく、君たちは何をしているんだ」


「すいません、誠実が調子こいてて」


「軽く懲らしめようと思っただけですよ」


「軽くの度合いを越えてる気がするんだけど……」


 徹が来た事で誠実はなんとか難を逃れ一息ついていた。


「はぁ……まったく死ぬかと思ったぜ……」


「そんなのいつものことだろ?」


「まぁな」


「君たちはいつもあんな事をしているのか?」


 自分の学校でこんな狂気が日常的に起こっている事に徹は若干驚いていた。


「それよりどうしたんですか?」


「あ、あぁ実はさっき怜子を放課後に呼び出そうと話をしに行ったんだ……」


「そうだったんですか」


「でも、その場に栞ちゃんも居て……」


「え? 先輩が?」


「あぁ、それで栞ちゃんに断られてしまった」


「はい? え?」


 なんで田宮先輩では無く栞に断られるのかと誠実を含めた三人は全員疑問に思った。


「なんで会長が怜子さんを呼び出したことを栞さんが断るんですか?」


「なんか変ですね」


「何かあったんですか?」


「いや、それが僕にもなんで栞ちゃんが断るのか分からないんだ……僕何かしたかな?」


「栞先輩がなんでなんすかね?」


「わからん、だから今日の放課後告白は出来なくなってしまった」


「うーん、でも栞先輩が会長の邪魔をするなんて……」


「あの蓬清先輩がそんなことすると思うか?」


「いや、あの先輩は男の趣味以外はまともだからな」


「おい、どういう意味だ健」


 栞の突然の介入にその場の四人は頭を悩ませる。

 放課後生徒会に行ったらそれとなく栞に聞いてみようと誠実は思った。

 

「まぁ、もしかしたら何かあったのかもしれない。明日また呼び出してみるさ」


「タイミングとかありますからね」


「間が悪かったのかもな」


「あぁ、じゃぁ誠実君、放課後生徒会の仕事頼んだよ! 僕は明日の為に今日はサボるから」


「いや、ちゃんと来てくださいよ。また怜子先輩に殴られますよ」


「それはそれで……」


「やっぱり会長Mなんじゃ……」

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