265話
「とにかく気を付けてください、危険は常に近くにありますから」
栞は誠実の隣で笑みを浮かべる沙耶香を見ながら誠実にそう言う。
誠実は背後の沙耶香からの視線に冷や汗を掻く。
「じゃ、じゃあまた明日学校で」
「はい、それでは」
「先輩、また明日」
「沙耶香さんも気を付けてね」
誠実と沙耶香は暗くなった夜道を歩いていた。
沙耶香とはあのキス事件以来久しぶりに二人きりになり、誠実は少し緊張していた。
「さ、最近部活はどうだ?」
「う、うん楽しいよ! 最近は体育祭でおにぎりを配ることになって、みんなやる気だよ!」
「そっか、そのおにぎり俺も絶対買いに行くよ」
「ほ、本当!? じゃ、じゃあ美味しいの作って待ってるから!」
「おう」
沙耶香の料理の腕は誠実も知っていた。
体育祭の時の昼飯をどうしようかと考えていた誠実にとって、この話はありがたかった。
「あ、あのさ……こ、この前の事なんだけど……」
「え? あ、あぁ……あれの事?」
「そ、その……急にごめん……」
「え、いや……その……ま、まぁ俺は気にしてないから……」
本当はめちゃくちゃ気にしていた。
女子とキスをしたのが初めての誠実にとって、沙耶香とのあのキスは衝撃的すぎて、昨日のことのように覚えている。
そんな話をしていると、沙耶香の家に到着した。
「じゃあ、また明日な」
「う、うん、送ってくれてありがとう」
誠実がそう言って沙耶香を家に送り届け、自分も帰宅しようとしていると、誠実たちに続いて誰かが沙耶香の家にやって来た。
「あら、沙耶香、今日は遅かったわね」
「あ、お姉ちゃん」
「あら? もしかしてこの子……」
「ど、どうも」
沙耶香の家にやって来たのは、沙耶香の姉だった。
初対面が沙耶香とキスをしているところだったので、誠実は少し気まずくなってしまう。
「あぁ! 沙耶香が連れ込んでた男!」
(一体俺は沙耶香の姉にどう思われてるんだ……)
「そ、その節はお騒がせしました……」
「ん? この声って……」
そう言って、沙耶香の姉の後ろからもう一人別な女性が出てきた。
そして、その人物を見た瞬間、誠実は目を見開いて驚いた。
「あ! え、恵理さん!?」
「え? 誠実君? なんで君がここに?」
「恵理さんこそ、なんで沙耶香の家に?」
「私は薫(かおる)の家に遊びに来ただけだけど……って誠実君ってもしかして、薫の妹ちゃんと知り合い?」
「ま、まぁ……」
沙耶香の姉の背後から現れたのは恵理だった。
なんでも恵理と沙耶香の姉、薫は同じ大学同じ学部らしく、時々こうして互いの家に良く行くらしい。
「え? 恵理が言ってた男の子ってこの子? 私はてっきり沙耶香ちゃんの彼氏だと思ってたんだけど?」
「だ、だからそれは違うって言ったでしょ! お姉ちゃん!」
「でも、あんたキスしてたじゃない」
「え!? キス!!」
「いや、これには色々と訳が……ないな」
ただ単にキスされただけ、しかもその理由は沙耶香が誠実を好きだから。
なんと分かりやすい理由であろうか。
驚く恵理に誠実はため息を吐く。
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