261話

 まさか、告白されて振りましたという訳にも行かず、誠実は言葉を詰まらせてしまった。

 そんな誠実に代わって栞が説明し始める。


「彼と私は良い友人ですわ、会長」


(良かった、栞さんそこは空気を読んでくれえた)


 誠実が栞の気を利かせた一言に安堵した。

 

「あ、そうなんだ、でも学年も違うのに、何で知り合ったの?」


「彼は私を助けてくれたんです。以前お話した、私が襲われた時に」


「あぁ、その助けてくれた一年生が伊敷君か! やるねぇ~」


「あ、いえ……自分も無我夢中で……」


(よかった、これで俺と栞先輩の本当の関係はバレずに済む!)


 誠実はそう思っていたが、実は生徒会のメンバーは全員もう誠実と栞の関係を知っていた。

 それと言うのも、栞が生徒会室に来る度に、異性の気を引く方法や異性の好きな物など色々と質問して回っていたのだ。

 そして、今回の誠実の一件、気が付かない訳がない。

 そして、生徒会のメンバーはこうも思っていた。


(((なんとかこの二人をくっつけよう)))


 それというのも、次期生徒会長は選挙で決まるが、栞が現副会長ということもあり、そのまま生徒会長になると考えている生徒も多く、立候補者はほぼいない。

 だからこそ、栞には是非とも時期生徒会長になってほしい徹なのだが、一つだけ問題があった。

 それは栞が来年度は生徒会を抜けると言っているからである。

 その理由を本人は受験勉強などがあるからと言っているが、生徒会のメンバーはそれが嘘であることに気が付いていた。

 きっと意中の男子生徒を落とすために、もっと時間が必要だと思ったのであろう、だから来年度は生徒会をやめるとまで言ったのだろうと徹は睨んでいた。

 だからこそ、誠実をこのまま生徒会に引き入れ、栞を会長とまでは言わないが生徒会に引き留めようと考えていたのだ。


「さて、自己紹介も終わったし、そろそろ誠実君にも仕事を頼もうかな」


「わかりました、それじゃあさっそく」


「机は栞さんの隣を使ってください」


「はい、じゃあさっそく」


 誠実はそう言って、作業を開始した。

 やることはそこまで難しくなかった。

 誠実は綺凛に好かれようと努力していた時、パソコンなんかの電子機器なんかの扱いも必死に勉強していたため、パソコンでの資料作成は問題無くできた。


 カタカタ……カタカタ……。


「………」


 カタカタ……カタ……カタ……。


「………」


「あ、あの……」


「なんですか? 誠実君?」


「そ、そんなに見られると恥ずかしいんですが……」


「あら、ごめんなさい。つい心配になってしまって」


「あ、あぁ……そうだったんですか」


 隣からの熱の籠った視線に気が付き、誠実は隣の栞にそう言う。

 しかし、栞の視線は以降もずっと誠実を追っていた。


「お、終わりました」


「あら、早いですね、それと……疲れましたか?」


「いえ……ちょっと視線が……」


「はい?」


 誠実は出来上がった資料を怜子に見せに行った。

 怜子は誠実の言葉に首を傾げながら、誠実の作った資料を見る。


「……問題ないようですね」


「あ、本当ですか? じゃあ次は何を?」


「………」


 誠実の作成し資料を見ながら、顎に手を当てて何かを考え始めた。


「あ、あの……先輩?」


「伊敷君、もう少し量を増やしても大丈夫かしら」


「え? あぁ、別にいいですけど……」


「それじゃあ、これとこれもお願い」


「あ、わかりました」


 誠実は怜子からもらった資料を持って、再び自分のパソコンの前に戻って行った。


「怜子ちゃん、流石に初っ端からあの量はないんじゃない?」


「会長は他人の心配よりも自分の心配をしてください」


「うっ……面目ない……」


「それに、彼は恐らく大丈夫です」


「え? なんでそう思うんだい?」


 怜子はそんな会長に誠実が作成した資料を見せる。


「私でも作るのに三十分掛かる資料をあっさり15分で完璧に仕上げています」


「え!? マジで!!」


「ま、偶然かどうかは、今からわかるでしょうが……私は偶然ではない方を期待しています」

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