252話

「なんでそんな大事な物を忘れるんだよ!!」


「あれには、投票した男子の名前と誰に投票したかが書かれてるんだぞ」


「しょ、しょうがねぇだろ!! 忘れちまったんだから!」


「とにかく、早く回収しに行くぞ!」


「てかなんで部室に置きっぱなしだったんだよ!」


「作戦会議してすぐに勧誘活動に行ったからだよ!」


 誠実たちは急いで部室に戻り、武司の作ったリストを回収に向かった。

 部室に行くと、まだ暁美が部室に残っていた。

 

「おい、部室に吉田先輩が居るぞ」


「あのリストは吉田先輩に知られるわけにはいかないぞ! どうする?」


「ここは、先輩が居なくなるのを待つ必要があるな」


 誠実たちは部室の外で暁美が出ていくのを待つことにした。

 すると、暁美は電話をし始めたのか、何かを話し始めた。


「もしもし? あ、先輩! お久しぶりです!」


 先輩とは誰なのだろうか?

 そんな事を考えながら、誠実たちは暁美の電話を聞いていた。


「はい……はい……え、えぇ……新聞部はその……問題ありませんよ! 先輩から引き継いだこの部は私が守りますから!」


「「「………」」」


 誠実たちは暁美のそんな話を聞いて、互いに目を合わせて黙ってしまった。

 

「ぶ、部員は少ないけど……それでも活動してますから!!」


 部室のドアの小窓から、暁美は作ったような笑顔でそういう。

 そんな暁美を見て誠実たちはそれぞれ考える。


「なぁ、誠実」


「なんだよ、武司」


「もしかして、先輩……結構ガチでこの部を残したいんじゃねーかな?」


「かもな……」


「……案外、真面目に活動していた部分もあるのかもな」


「確かに……健の言う通りなのかもしれないな」


 誠実たちは暁美の電話を聞きながら、そんな話をしていた。

 ふざけたゴシップ記事ばかり書いていた訳ではなく、真面目な活動も以前はやっていたのではないかと誠実たちは思い初めていた。


「大丈夫ですよ……先輩方に負けないくらいの記事を書きますから!! それじゃあ、失礼しまーす! ………はぁ……」


 電話を終え、暁美は大きなため息を吐いた。

 このまま部員が集まらなければ、この新聞部は廃部だ。

 愛好会でもなくなり、この学校からは完全に姿を消すことになってしまう。


「あ! 先輩出て来るぞ!」


「隠れろ隠れろ!!」


 誠実たちは咄嗟に隣の空き教室に隠れ、暁美をやり過ごした。


「ふぅー……」


「先輩、なん悲しそうな顔してたな」


「あぁ……」


 誠実たちは暁美が出て行ったのを確認し、新聞部の部室に入り、先ほどの電話の事を話しいていた。


「このままだと……先輩はこの新聞部を潰した部長になっちまうのかな……」


「まぁ……事実上はな……」


「……悲しいな」


「「「………」」」


 脅されて始めた勧誘活動だったが、三人は先ほどの暁美の電話を聞き、少し考え方を変え始めていた。


「なぁ」


「ん? なんだよ」


「あと一週間だよな?」


「そうだが、どうかしたのか? 誠実」


「もっと頑張ってみるか! やるだけはやろうぜ!!」


「お前の事だ、そう言うと思ったよ」


「うむ、いつも通りお人好しだな」


「だが、誠実どうする? もう帰宅部で勧誘していない奴はいないぞ?」


「あぁ、リストを使って声を掛けたんだ。もう流石に部活に入っていない生徒は居ないだろう」


「なら、運動部以外の文化部の奴らを勧誘しよう! 幽霊部員になってるやつもいるだろうし!」


「はぁ~まったくよぉ~。明日からまた忙しくなりそうだなぁ~」


「仕方ないだろ? 誠実はこういうやつだ」


「まぁな、厄介な馬鹿とつるんでると大変だな」


「それには同意だ」


 誠実の言葉に対して、武司と健は笑みを浮かべながらそう言う。

 武司も健も誠実のこういうお人好しなところは見慣れており、またいつものが始まったと互いにそう思っていた。

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