250話

 残念ながら、栞に話と記事を見た誠実たちからの助けは得られなかった。

 ピンチに追い込まれた暁美は咄嗟に栞にこんなことを言い出した。


「わかったわ! 期限をもう少し延ばしてくれたら、伊敷君を生徒会に貸してあげるわ!!」


「え?」


「……それは本当なの?」


「いや、待って。本人置いてけぼりなんですけど……」


「えぇ、本当よ。確か生徒会の書記の席が空席だったわよね?」


「えぇ、そうです。立候補する生徒がいなかったのと、人数的に問題が無かったからです」


「なら、彼を少しの間生徒会で使えば良いわ! あなたもそれは願ってもないことなんじゃない?」


「いや、だから俺の意見は!?」


「………その条件を飲みましょう。会長には私から話を通しておきます」


「栞先輩!?」


「よし、決まりね!! 期限はいつまで伸ばしてくれるの?」


「そうですね……新しい生徒会の発足までですから……二週間といったところでしょうか」


「それだけ伸ばしてもらえれば十分よ!」


「それでは決まりですね」


「いや、勝手に決めないでくださいよ! 俺の意思はどうなるんですか!!」


 勝手に決められてしまった誠実は、二人の間に割って入って文句を言う。

 そんな誠実に暁美は笑顔でなだめるように誠実を説得する。


「大丈夫よぉ~、別に取って食われるわけじゃないんだからぁ~」


「だからって俺を簡単に売らないでくださいよ!!」


「お願いよぉ~写真増やすからぁ~」


「いや、そういう問題じゃ……」


「諦めろ誠実」


「これも写真部の為だ」


「お前らまで何を言ってんだよ!!」


 暁美に続き、武司や健もそんな事を言って食る。

 自分の事じゃないと思って、武司も健も気軽に言っているのだろう。


「では、私はこれで……暁美、良いですか? あとの二週間ですよ?」


「わかってるわよ」


 誠実が納得しないまま、栞は新聞部の部室を後にした。


「はぁ……どうして俺がこんな目に……」


「諦めろ誠実」


「先輩に捕まったのが運の尽きだったな」


「あの人多分、一度言ったら聴かない人だ」


「だよな……はぁ……」


「何よ、まるで私がわがままみたいじゃない」


「「「え?」」」


「何よ! その『この人何言ってるの?』見たいな顔!!」


「「「いえ、別に……」」」


「その呆れた顔もやめなさいよ!!」


 その日はこれで解散になり、誠実はため息を吐きながら、自宅に帰って行った。

 翌日から、誠実たちは新聞部の勧誘を始めた。

 武司は分かるがなぜか健までノリノリで勧誘活動をしており、誠実はそれが不思議だった。

 気になって誠実が健に尋ねると、どうやら健は暁美から新たな報酬を用意されたらしく、その報酬の為に頑張っているらしい。

 武司と健が精を出す中、誠実はというと……。


「はぁ……面倒くせぇ……」


 やる気なく、そうつぶやいていた。

 それもそうだ。

 新聞部が存続しようと無くなろうと、どっちにしろ誠実は、この件が済んだら生徒会の手伝いをしなければならない。

 それが憂鬱で仕方なかった。


「なんで俺だけこんな目に……」


「まぁ、お前は蓬清先輩に好かれてるしな」


「うむ。きっと吉田先輩もそこに目をつけて、お前を生徒会にと行ったんだろう」


「他人事だと思いやがって……俺は放課後は自由に過ごしたいから帰宅部なんだぞ! 生徒会の仕事なんかやりたかねーよ」


「まぁ、気持ちは分かるがこれも山瀬さんの写真の為だろ?」


「うっ……そう言われるとやる気が出る自分が嫌だ!!」


 誠実が辛うじてまだ新聞部に協力する理由。

 それは報酬の綺凛の写真だ。

 誠実はそれだけの為に、こんなにも頑張っている。

 逆を言えば写真が無ければ、こんなことは絶対にしていない。

 誠実たちは放課後や昼休みなどを使って、片っ端¥から生徒に声をかけまくった。

 そして、栞との約束から一週間が経過した。

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