245話

「……ぃ」


「うーん……もう少し……」


「お……に……」


 誰かが眠っている誠実を起こそうとしていた。

 誠実はまだ眠いのか、冷めかけていた目を固く閉じ、再び眠りの中に落ちようとする。


「良いから、起きて!」


「あうっ!」


 そんな誠実の腹にいきなり強い衝撃を受けた。

 誠実は痛みと苦しみで目を覚まし、ベッドから起き上がった。


「な、なんだぁ!?」


「やっと起きた」


「え? 美奈穂!? な、なんでお前が俺の部屋に居るんだよ!」


 誠実をたたき起こしたのは、美奈穂だった。

 美奈穂はなぜか汗を掻いており、息も上がっていた。


「私の部屋のエアコン壊れたみたいだから、当分おにぃの部屋貸して」


「はぁ!?」


 突然美奈穂はそう言い、誠実の机に座って参考書を開いて勉強を始めた。

 

「え? なんで……」


「暑い中で勉強なんてしたくないの」


「いや、それなら一階のリビングで勉強するとか……」


「嫌よ、お父さんが居て集中出来ない」


「親父は何もしないだろ……」


 娘に散々な事を言われている父親を気の毒に思いながら、誠実はため息を吐いて、美奈穂に尋ねる。


「まぁ、良いけど……ところで今何時?」


「18時だけど」


「結構寝ちまったな……じゃあ、俺は一階にいくわ」


「別に居ても良いわよ、静かにしててくれるなら」


「良いよ、お前受験勉強しなきゃだろ?」


 誠実はそう言って誠実は部屋を後にし、一階のリビングに行った。

 

「ん、お帰り」


「ただいま、美奈穂から聞いた?」


「あぁ、エアコンが壊れたんだろ? まぁ仕方ないだろ……」


「修理も明後日にならないと来れないって言うし……それまで美奈穂をどこに寝かせようかしら……まだ夜は寝苦しいし……」


「リビングで良いんじゃね?」


「そうね、お父さんをリビングで寝かせましょう、そうすればお父さんのベッドが空くわ」


「親父……」


 母親からも酷い扱いを受ける父親を可哀想に思いながら、誠実はリビングのソファーに座り、スマホを弄り始める。

 少しして誠実の父親も仕事から帰ってきた。

 帰って来て早々に美奈穂の部屋のエアコンの話を聞き、誠実の父親である忠志は、母親である叶と相談を始めた。


「確かに寝苦しいし、そのままエアコンなしで自分の部屋に寝かせるってのは可哀想か……よし誠実、お前は今日からリビングで寝ろ」


「親父、俺の同情を返せ」


 そう言われた瞬間、誠実はこんな親父を可哀想だと思うんじゃなかったと思った。

 

「貴方がリビングで寝ればいいじゃない?」


「えぇ……俺は叶と寝たい……」


「気持ち悪いから、これからずっとリビングで寝てくれる?」


「冷たい……」


「子供がいる前でそう言う話するのやめてもらえない?」


 そんな話をしているうちに、晩飯の用意が出来た様子だった。

 晩飯の時も美奈穂がどこで寝るかの話になっていた。


「じゃあ、おにぃの部屋で一緒に寝るから良いわよ」


「え? なんで……」


「リビングで寝るよりマシ、それにお父さんのベッドはなんか嫌」


「酷い!!」


 まさかの美奈穂の選択に誠実は驚く。

 

「良いの? お兄ちゃんの部屋で? 襲われるかもしれないわよ?」


「おい」


「大丈夫よ、その場合は社会的におにぃを殺すから」


「誰がお前なんか襲うんだよ……」


「ふん!」


「あいてっ!!」


 誠実に腹を立てた美奈穂が、誠実の足を踏みつける。


「おにぃが下で私がベッドね」


「なんでだよ! 俺の部屋だぞ!」


「妹には優しくするのが兄でしょ?」


「それは妹が兄に優しかった場合のみだ!」


 そんなこんなで誠実と美奈穂は一緒に部屋で寝る事になってしまった。

 

「はぁ……なんでこんな事に……」


 誠実は自分の部屋に戻り、自分で寝る布団を敷いていた。

 言い争いの末、誠実は結局下で寝ることになってしまった。


「はぁ……さて、あいつが来る前に寝ちまうかな……少し早いけど」


 誠実は布団に入りながらそんな事を考えていた。

 美奈穂はまだ風呂に入っており、まだ誠実の部屋にはいない。


「あ、やっべ……あいつに見つからないうちにエロ本をどこかに……」


 誠実は自分の机の上から三番目の引き出しに隠した、エロ本を思い出し布団から起き上がった。

 引き出しを開け、一番下に隠したエロ本を取り出そうと引き出しの中身を取り出すと、一枚の紙が出てきた。


【捨てたから】


 それは紛れもなく、美奈穂の字だった。


「み、美奈穂ぉぉぉぉぉ!!」


(まさかこんな場所に隠したエロ本を捨てられるなんて……)


 誠実は引き出しの前で膝をついてため息を吐く。

 なんでここの隠し場所がわかったのは知らないが、まさか捨てられてしまうなんて……。


「あいつめぇ……妹のくせに、兄の物を勝手にぃ~」


(これは説教が必要だな……)


 風呂から上がって来た美奈穂に説教しようと誠実が考えていると、誠実のスマホが布団んの上で震え始めた。


「ん? 電話か?」


 誠実がスマホを取りに布団の上に戻り、スマホの画面を確認する。

 スマホの画面には【前橋沙耶香】の文字が表示されており、誠実はそれを見た瞬間ドキッとした。


「さ、沙耶香から……電話か……」


 昨日のことだろうか?

 そんな事を考えながら、誠実は悩んだ末に電話に出た。

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