244話
*
「おにぃ」
「………」
「おにぃ!!」
「え? あ、あぁ美奈穂か……どうした?」
「何ボーっとしてるのよ、早く顔洗ってくれない? 歯磨けないんだけど」
「あ、あぁ……悪い…」
翌朝、誠実は昨日の沙耶香からされたことを考えていた。
昨日起こったことがまるで夢だったのではないかと思うほど、誠実にとって昨日の出来事は衝撃的だった。
学校に行く途中も誠実は昨日のことばかり考えてしまっていた。
「よぉ、誠実」
「ん? あぁ……おはよ」
誠実が教室に入ると、例のごとく武司が声をかけてきた。
「昨日は前橋とどうだったんだ?」
「あぁ……まぁ……いろいろ」
武司は誠実の様子が変だということにすぐ気がついた。
「どうした? お前またなんかやらかしたのか?」
「いや……やらかしたというよりは……やられたというか……」
「一体何があったんだよ……」
武司が誠実の話を聞いていると二人の元に健がやってきた。
健も武司と同じく、昨日の話を誠実から聞きに来たのだが、二人の様子から何かあったことを察した。
「何かあったのか?」
「さぁな、なんかぼーっとしてんだよ」
「珍しいな、誠実がぼーっとするなんて、いつもははしゃぎすぎてうるさいくらいだが……」
「………」
「だめだ、ツッコミも返ってこない」
「む、なんか虚しいぞ……」
健と武司がそんな話をしていると、教室に沙耶香が入ってきた。
誠実はその瞬間、びくっと肩を震わせ沙耶香から視線をそらした。
それに気が付いた健と武司は沙耶香の方を見る。
いつもなら誠実のもとに来るはずの沙耶香が今日はこない、それどころか誠実から顔を逸らしている。
「これは……」
「何かあったな……」
健と武司は二人の間に何かがあったことを察した。
「まぁ、男女のことだ。俺たち外野が口を出すことじゃない」
「確かにそうだ」
「だが誠実よ、何か困ったことがあったら俺たちに相談しろ、俺たちは友達だろ」
「そうだ、相談しろ」
「いや……今は別に……気持ちだけもらっておくよ……」
「馬鹿野郎! 何を言ってやがる! 現在進行形でお前は何か悩みを抱えてるじゃないか!!」
「そうだ、抱えてるだろ?」
武司はそういいながら、誠実の胸倉をつかむ。
健は無表情のまま、誠実の顔を見て武司の後に言葉を続ける」
「い、いや……だから別に……」
「いいから、前橋と何があったのか教えろ! じゃない……相談しろ!!」
「教えろー」
「そんな聞き方ある?」
「何を! 俺たちはお前を心配してるんだぞ!」
「そうだー」
「健は全くそんな感じしないんだが……」
「いいから、昨日起こった前橋との面白そうな話を聞かせろ!!」
「おい、今完全に面白そうって言ったよな? 完全に面白がってるよな?」
「そんなことはない! 俺達はお前の悩みを解決したいだけだ! だよな? 健!」
「いや、俺は面白そうだから」
「正直かっ!」
誠実は健と武司に問い詰められながらも、昨日の話はしなかった。
離したら、武司が自分を殺しにかかってくるのではないかと心配になったからだ。
それに、沙耶香もあんまり人に離されるのは嫌だと思ったからだ。
二人の問い詰めはあホームルームが始まるまで続いたが、チャイムが鳴った瞬間大人しく自分の席に戻っていった。
誠実は朝から健と武司に付き合ったせいでへとへとだった。
今からテストだというのに、誠実の頭と体力は限界を迎えそうな勢いだった。
「はぁ……テスト大丈夫かな?」
誠実がそんなことを思っていると、ふと沙耶香と視線があった。
沙耶香は顔を赤らめ、すぐに正面に向き直った。
昨日勉強したことなんて頭からすっぽり抜け落ち、誠実の頭の中は昨日沙耶香にされたことでいっぱいだった。
そのせいもあったのか、誠実の初日のテストは散々だった。
「うぅー……終わった……」
「お前、昨日勉強したんじゃないの?」
「それを言うな健……」
「どうせ、前橋と保健体育の勉強ばっかやってたんだろ! そうなんだろ!!」
「お前の妄想は最近斜め上を行ってるきがするぞ……」
誠実達は放課後、三人で今日のテストのことについて話ながら帰っていた。
結局誠実は今日、一切沙耶香と話すことはなく、話そうとしても沙耶香から逃げられてしまい、話をすることができなかった。
「まぁ、テストは明日で終わりだ。明日の教科で挽回すれば良いだろ?」
「そうだけどよぉ~」
「安心しろ、お前の下には武司がいる」
「おい、どういう意味だ健」
誠実は二人とそんな話をしながら、今日はそのまま家に帰宅した。
まだまだ暑い日の続く九月、誠実は家に帰って直ぐに自室のエアコンのスイッチを入れ、ベッドに横になる。
「はぁ~あちぃ~」
家にはまだ誠実以外誰も帰ってきてはいいない。
「勉強しないとなぁ~」
そんなことを考える誠実だが、なかなか体が動かない。
部屋が涼しくなりはじめたのと、帰って来たばかりで疲れていたことが合わさり、気が付くと誠実はそのままベッドで眠ってしまっていた。
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