243話

 私の部屋は二階の一番奥の部屋だ。

 今まで男の子を部屋に入れたことなんて、一度もない。

 だから、私は誠実君を部屋に入れることに少し緊張していた。


「どうぞ」


「あ、うん……お邪魔します……」


 一応、部屋は毎日綺麗にしているが、好きな人が部屋に入ると色々心配になって来る。

 下着を出しっぱなしにしてなかったかな?

 ゴミ箱の中空にしてたかな?

 そんないつもならどうでも良いことを必死に考えてしまう。


「部屋、綺麗にしてるんだな」


「う、うん……たまに掃除するからね……あ、お茶持ってくるね!」


「お、おう」


「あ、あの……あんまり部屋の中見ないでね……」


「わ、分かった」


 私は誠実君にそう言って部屋を後にし、一度キッチンに戻った。





 誠実は沙耶香の部屋でソワソワしていた。

 女の子の部屋に入るのが誠実は初めてであり、女の子らしい沙耶香の部屋が落ち着かなかった。

 ちなみに誠実の中で恵理の部屋は女の子の部屋としてカウントしていない。

 どちらかというと、女性の部屋という認識で、感覚が少し違う。


「なんか良い匂いがする……」


 沙耶香を待つ間、誠実は部屋の中を見渡していた。

 あんまり見ないでくれと言われてはいたが、何もやることがないので見てしまう。

 沙耶香の部屋は全体的に黄緑色の配色が多かった。

 明るい感じの部屋で、整理整頓がしっかりされていた。


「俺の部屋より広いな……」


 自分の部屋の1.5倍はありそうな沙耶香の部屋を少し羨ましいと思いながら、誠実は沙耶香の部屋を見る。

 壁には友人と撮った写真が飾られており、笑顔の沙耶香がそこには写っていた。


「あ、この前の海の写真か……」


 飾ってある写真には、この前の海の写真もあった。

 楽しかった夏の日の思い出を写真を見ながら誠実も振り返る。

 

「まぁ、色々あったけど……良い夏休みだったな」


 誠実が写真を見ながらそんな事を思っていると、沙耶香がお茶を持って戻って来た。


「お待たせ~」


「おう、ありがとな」


 沙耶香はトレーに持ってきたコップ二つを机の上に置き、誠実の隣に肩をピッタリとくっつけて座った。


「……近くね」


「もう、それは聞いたよ?」


「いや、聞いてるなら少し離れてくれないか?」


「まぁ……このままでも良いんじゃないかな?」


「いや、俺は困るんだが……」


「あ、そうだ! 私が前に勧めた料理の本、誠実君読みたがってたよね?」


「いや、俺の話を聞いて……」


 沙耶香は誠実の話を無視して、本棚から本を取り出し、再び誠実の隣に戻って一緒に本を読み始める。


「なるほど……これは分かりやすいな……しかも美味そう」


「でしょ? 私はこれを作ってみたくてね」


「おぉ、確かにおいしそうだな!」


 誠実は本を読んでいるうちに、先ほどまで気にしていた事を忘れ、沙耶香と楽しく料理の話をしていた。

 その後も誠実と沙耶香は二人で色々な話をしたり二人でスマホで遊んだりと楽しい時間を過ごした。

 そして、時刻は19時を回った頃、誠実のスマホに一件のメッセージが入る。


「ん?」


「どうかしたの?」


「いや、美奈穂からだ……そろそろ帰って来いってさ、時間も夜の7時だし、あんまり遅くまで居るのもあれだから帰るよ」


「え! あ、うん……そ、そうだよね……」


 沙耶香は結局この二時間何も出来なかったと後悔した。

 折角の部屋で二人きりという状況だったのに、話に夢中で何も行動に移せなかった。


「じゃあ、俺はこれで……飯美味かったよ」


「そ、そっか……それは良かったよ……」


 誠実はそう言って、立ち上がり沙耶香の部屋を後にしようとする。

 何事も無くて良かった。

 誠実がそんな事を考えながら、玄関に向かうと、玄関の戸がガチャガチャと揺れていた。


「ん? なんだ?」


 もしかして家の人が帰ってきたのだろうか?

 誠実がそんな事を考えていると、後ろから沙耶香がやって来た。


「せ、誠実君!!」


「え?」


「ご、ごめん!!」


 そう沙耶香が言った瞬間、誠実の唇に柔らかい感触が当たった。

 沙耶香は目をつむり、誠実の唇に自分の唇を当てた。

 それと同時に沙耶香の家の玄関の扉は開き、誰かが入って来た。


「沙耶香ちゃんただいまぁ~、お姉ちゃん結局帰ってき……え?」


 ドアを開けて入って来たのは、沙耶香の姉だった。

 誠実は背中を向けていたため、顔を見ることは出来なかった。

 しかし、玄関の方を向いていた沙耶香は閉じていた目を開いた瞬間、沙耶香は驚いて咄嗟に誠実から離れた。


「お、お姉ちゃん!? な、なんで……」


「い、いや……それはこっちのセリフなんだけど……それとあ、貴方は?」


 誠実は沙耶香からされた突然のキスに、思考が追い付いておらず、その場でフリーズしていたが、沙耶香の姉の声で我に返った。


「え? えっと……お、俺! これで失礼します!!」


「え!? あ、ちょっと!!」


 誠実は沙耶香の姉の方に振り返った瞬間、顔を真っ赤にして沙耶香の家から走りだした。


「えぇ……ど、どういう状況?」


「もぉ!! お姉ちゃんなんで今帰ってきちゃうの!!」


「え!? 私が悪いの!?」


 沙耶香の姉は状況がわからず、アタフタしていた。

 沙耶香はそのままその場に座り込み、深いため息を吐くいた。

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