242話
*
時間が過ぎて行き、誠実が沙耶香の家に来てから三時間が立った。
「もうこんな時間か……」
「結構勉強したねぇ~」
沙耶香は大きく伸びをしながら、誠実にそう言う。
夕方の5時になり、外には夕日が出ていた。
「さて、あんまり長居するのもあれだし、俺はそろそろ帰ろうかな」
「え! も、もう少しゆっくりして行けばいいよ、どうせお父さんもお母さんもまだ帰ってこないから」
「でも、あんまり遅くまで居るのは……」
「も、もう少し…その……誠実君と一緒に居たいなって……なんちゃって……ごめん! これじゃあただの私のわがままだよね?」
「う、うーむ……」
結局誠実はもう少し沙耶香の家に居ることにした。
あんな事を言われては、誠実も帰るとは言えない。
*
私、前橋沙耶香は悩んでいた。
最近誠実君の周りには綺麗な女の子や可愛い女の子ばかりが集まってきてる。
少し前まで敵は山瀬さんだけだと思っていたのに、予想外に誠実君の周りに女の子が集まってきていた。
このままではまずい……。
そう思った私は勇気を出して、彼を家に誘った。
このままでは私以外の誰かに誠実君を取られてしまう、だからこそ私は頑張ろうと決めたのだ。
「お菓子あるけど、食べる?」
「悪いな、じゃあもらうよ」
今は勉強を終えて、二人でテレビを見ていた。
お母さんとお父さんは今夜は仕事で遅くなると言っていた。
このチャンスを逃す手はない。
私は戸棚のお菓子をお皿に盛り、誠実君の元に戻る。
さっきまでは対面で座っていたけど、今回は思い切って隣に座ってみよう」
「お、おまたせ」
「あぁ、ありがとう……」
無反応!?
思い切って隣に座ってみたが、誠実君は無反応だった。
まぁ、先ほどまで私が座っていた位置からテレビは見えないから、移動してきたのだろうと思われたのだろうけど……。
何か手ごたえが欲しい。
そう思った私は今度は誠実君にピッタリくっ付いてみた。
「……沙耶香……」
「な、なに?」
「ち、近くないか?」
「そ、そうかな?」
「いや、近いって言うか、もうくっ付いてるよ……」
「そ、そうかな?」
「そうだよ!」
今度は手ごたえがあった。
誠実君の顔も少し赤くなっている。
よしよし!
この調子で今日はいけるところまで行こう!
今日の私は少しだけ積極的なんだから!!
私はそう意気込み、誠実君の肩に自分の頭をくっつける。
「さ、沙耶香さん……」
「な、何かな?」
「くっつきすぎではなかろうか?」
「そ、そんなことは無いよ! 普通だよ!」
「普通とは……」
誠実君の顔がどんどん赤くなっていくのがわかった。
よし、この調子でどんどん行こう!
そう思った私は、今度は自分の最大の武器を使うことにした。
「はぁ……な、なんか暑いね……」
「こんなにくっ付いてるからじゃね?」
「く、クーラー聞いてないのかな?」
「あの、俺の話聞こえてます? 離れれば涼しいんじゃない?」
「も、もう嫌になっちゃうねぇ~九月なのに暑くて~」
「誰か~! 医者を呼んでくれ! この子耳が聞こえないみたいだ!!」
私はそう言いながら、自分が着ていたワイシャツの第二ボタンを外す。
「ん……す、少し涼しいかも……」
「そんな事しなくても、離れれば涼しくなれるよ!?」
誠実君はそんな事を言いつつも私の胸に視線を向けていた。
やっぱり誠実君も男の子だ。
女の子の体に興味が無いわけがない。
「私の胸がどうかしたのぉ~?」
「え!? あ、いや……見てない! 俺は何も見てない!!」
私がそう言って誠実君をからかうと、誠実君は顔を真っ赤にして両手で自分顔を隠した。
照れてる誠実君も可愛い……こんな反応をされると、もっと悪戯したくなってしまう。
「うふふ……ボタンもう一個外しちゃおうかなぁ~」
「さ、沙耶香! もうお前は着替えろ! なるべく胸元の隠れた暑苦しい服に着替えろ!!」
「えぇ~なんでそんな必死に止めるのぉ~?」
「い、良いから!」
誠実君は指の隙間から、チラチラと私の胸を見ていた。
言っていることと行動が全然合ってなくて、私は少し笑ってしまった。
別にどうどうと見ても良いのになぁ……どうせ二人しかいないし……。
散々誠実君をからかった後、私は次の作戦に出るべく行動を開始した。
「ねぇ、私の部屋……来る?」
「え? なぜ?」
「いや、リビングだと急にお父さんとか帰ってきたらビックリするでしょ?」
「ま、まぁ確かに……」
「勉強も終わったし、あとは私の部屋で遊ぼうよ」
私がそう言うと誠実君は色々考えている様子だった。
きっと色々と思うところがあるのだろうけど、そんなの今は忘れて、私だけを見てほしい。
私はふとそんな事を思ってしまった。
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