241話

 誠実は沙耶香と作ったチャーハンを食べ、そのままリビングで勉強を始めた。

 とは言っても、夏休み明けのテストは基本的に出された課題から出題される。

 課題をしっかりやっていれば解けない問題ではないし、なんだったらわからない問題をそのまま丸暗記してもそれなりの点数は取れる。

 そこまで頑張って勉強をするほどの事ではなく、夏休み中も真面目に課題に取り組んでいたかを確認するテストなのだ。


「沙耶香、ここってどうやるの?」


「あ、そこはね……」


 誠実は夏休みの宿題を一応は真面目にやっていた。

 その為、そこまでわからない問題も無いので、正直テスト勉強をするつもりは無かった。

 だが、こうなってしまった以上は真面目に取り組もうと、問題集と向き合っていた。

 そんな時だった、誠実は偶然にも目の前に座る沙耶香の胸に視線が行ってしまった。


(……相変わらず……あれだな……デカいな……)


 勉強ばかりで飽きが来ていたというのもあったのだろう、誠実は無意識のうちに沙耶香の胸に視線を向けていた。


(重くないのかな?)


 誠実はそんな事を考えながら、妹の美奈穂の胸を思い出して鼻で笑う。

 

(まぁ、あいつも成長期だしこれからだろ……)


 なんて失礼な事を誠実が考えていると、沙耶香が誠実の視線に気が付いた。


「えっと、どうかした?」


「え!? あ、いや……ちょ、ちょっと疲れてボーっとしててな!」


「あ、もう一時間だもんね、休憩しようか?」


「そ、そうだな!」


 誠実は危ない危ないと胸をホッと撫でおろしていた。

 邪な事を考えたからバチがあったたのだろうか?

 なんてことを考えながら、誠実は自分のスマホに視線を移した。


「ん? メッセージ?」


 スマホを見た瞬間、誰かからメッセージが来ていることに気が付いた誠実。

 誰だろうと思いながらスマホのロックを外して確認すると、相手は栞だった。


【誠実君、今日は何かご予定はありますか? 良ければ、この間の罰ゲームの勉強を教える件、本日にでもと思い連絡しました。明日からテストですので丁度良いと思いますがいかがでしょうか?】


「あぁ~そういえばそんな事言ってたっけなぁ~」


 誠実はこの前のトランプでの罰ゲームの事を思い出し、栞にメッセージを返信した。


【すいません、今日は友人と勉強の約束をしていて、今そいつと勉強中なんです。また今度でお願いします】


「これで良し」


 メッセージが来ていたのが五分前で助かった。

 一時間も返信が遅れたら、栞さんの場合家に来るかもしれない。

 待たせなくてよかったと誠実が安心していると、栞からの返信が来た。


【そうですか、残念です。ちなみに一緒にいるのはどなたですか?】


「ん?」


 変にぼかしたのがまずかったと、誠実は返信を見て思った。

 嘘はついていないが、ここで沙耶香ですというのは少し問題があるような気がした。

 栞の気持ちを知っている誠実からすれば、他の女の子と二人きりなのだという事を栞には極力言いたくなかった。

 もしかしたら栞を傷つけるかもしれないというのもあるが、それ以上にまた面倒なことになる予感がしてならなかった。

 なので、誠実はこう返信した。


【クラスの奴ですよ、一緒に勉強しようってことになって、すいませんそれじゃあそろそろ勉強に戻りますね】


(完璧な返信だな!)


 誠実はそう思いながら、意気揚々と送信ボタンを押す。

 嘘もついていないし、自然に会話を止めることもできた。

 これで栞からメッセージが来ることはひとまずないだろう。

 誠実がそんな事を思っていると、誠実の予想に反して、またしても誠実のスマホにメッセージが来た。


「え? また?」


 誠実がまた栞からだろうかと思いながらスマホを確認すると、メッセージの相手は美奈穂だった。


【いつ帰って来るの?】


「あ、やっべ……」


 美奈穂のメッセージを見て、誠実が家に連絡を入れるのをすっかり忘れていた事に気が付いた。


【悪い! 友達と勉強して帰るから、少し遅くなる!!】


「はぁ……あいつ怒ってるかな?」


 常日頃から、連絡は早めにと美奈穂に言われているため、こういう事があると美奈穂はうるさいのだ。


「そういえば、おいしいお茶があるけど飲まない?」


「あ、じゃあもらおうかな」


 誠実がスマホの返信を終えると、笑顔の沙耶香が誠実にそう言ってきた。

 沙耶香は誠実の返答を聞くと、お茶を入れにキッチンに向かっていった。

 自分も手伝おうかと立ち上がった瞬間、またしても誠実のスマホにメッセ―ジが来た。

 しかも今度は二件だ。

 誰からだろうと、誠実は確認すると美奈穂と栞からだった。

 まず美奈穂からは……。


【どこの女の家?】


「いや、なんでわかるんだよ! 怖いよ!!」


 そして栞からは……。


【残念です……沙耶香さんに先を越されてしまいました……】


「だからなんでわかるの!?」


 二人の返信を見て、誠実はその場でフリーズした。

 女は怖いと父親から言われていたが、確かにその通りだと、誠実はこの時そう思った。


「おまたせ~、あれ? どうしたの?」


「あ、いや……な、なんでも……女って怖いなって……」


「この数秒で一体何が!?」

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