239話
始業式が始まり、誠実たちは長い校長の話を聞く。
まだまだ暑いというのに、蒸し暑い体育館で校長の長い話を聞くのは結構な苦痛だ。
ようやく始業式が終わった頃には、誠実は頭がボーっとしていた。
「相変わらず長いな……うちの校長の話」
「まぁ、どこもそんなもんだろ……」
「あぁ、俺熱中症かも……」
「安心しろ武司、馬鹿は熱中症にならない」
「そんな言葉ねーよ!」
三人が揃って教室に戻っていると、突然目の前に女子生徒が仁王立ちで現れた。
「待ってたわよ! 三バカトリオ!」
「え?」
「あ?」
「む?」
仁王立ちで現れたのは、新聞部の部長である吉田暁美(よしだ あけみ)だった。
背の低い彼女が胸を張って仁王立ちをしていても、なんとも迫力がない。
「あぁ、吉田先輩っすか」
「何か用ですか?」
「俺達急がしいんですが」
「あんたらねぇ……新聞部の件! 忘れたとは言わせないわよ!!」
「あぁ、そういえば……」
「そんな話もあったな」
「すっかり忘れていた」
夏休み前に誠実たちはこの新聞部部長の暁美から、現在愛好会となっている新聞部を部に昇格させてほしいと相談をされたいた。
「夏休みも終わったし、そろそろ本格的に動いてもらうわよ!」
「はいはい、分かってますよ~」
「先輩! 俺は先輩に全力で協力しますよ!! 俺に彼女が出来る可能性は先輩しかないんです!」
「よし! 武田君はやる気があってよろしい!!」
「はい!!」
暁美は誠実たちに協力を頼む代わりにそれぞれに報酬を用意していた。
武司の場合は女子高に通う暁美の友人を相談してもらうという話だった。
「あ、俺は悪いが抜けるぞ」
「え!? プラチナチケットいらないの!?」
「生憎だが、この夏でファンを引退した」
「な、なんで!? てか一体何があったのよ!!」
「まぁ……色々な……」
「なんでそんな遠くを見つめるのよ……何? 失恋でもしたの?」
「失恋か……まぁ、似たようなものだ」
「あ、失恋ではないのね」
健はアイドルのライブのプラチナチケット成功報酬としてもらう予定だったが、残念ながらアイドルオタクをやめた健には何の価値もないただの紙切れになってしまった。
「でも、承諾したんだから協力しなさい! 男に二言はないでしょ!」
「む……確かに……仕方ない、今回だけ付き合おう……」
「よし! 良く行った!」
「それで、具体的にはどうするんです? 夏休みに話した通りビラでも配ります?」
「ちゃんと作戦は立ててあるわ! とりあえず、テスト最終日の放課後に新聞部の部室に来なさい! そこで説明してあげるわ! その間はちゃんとテスト勉強するのよ!」
「意外と真面目だな」
「まぁ、部長やるくらいの人だしな」
「なんでも良いが、そろそろ行かないと授業が始まるぞ」
*
「はぁ~やっと終わった~」
「って言っても今日は午前で終わりだろ?」
放課後、初日は始業式だけで終わり、誠実達は帰りの支度を始めていた。
誠実たちが帰ろうとしていると、誠実の元に沙耶香がやって来た。
「せ、誠実君!」
「ん? 沙耶香、どうかしたか?」
「あ、あのさ……テスト勉強一緒にしない?」
「え……俺は別にいいけど……なぁ、お前らはどう……ってあれ?」
誠実が武司や健にどうするかを聞こうと二人が居た方をを振り返ると、先ほどまでいたはずの二人の姿が消えていた。
「おっかしいなぁ……どこ行きやがった?」
「あ、あのさ……出来れば……その……二人きりが良いな……」
「え? ふ、二人きり?」
誠実は二人きりと言われた瞬間、少し身構えてしまった。
沙耶香が自分の事を好いていることを誠実はもう知っている。
しかも、諦めずに積極的にアプローチされており、二人きりという状況では何をしてくるか分からないからだ。
「え、えっと……その……じゃ、じゃあどこか店でやるか? うちの喫茶店とか……」
「わ、私の家来ない? その……クーラーもあるし……落ち着けると思うし……」
顔を赤らめながら言う沙耶香に、誠実はどうにか断る方法はないかと考える。
正直沙耶香に色仕掛けなんかされたら、誠実はそれに耐えられる自信がなかった。
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