238話

「悪いな」


「しかし、まさかお前らが兄妹じゃなかったとは……」


「まぁ、これの妹が美奈穂ちゃんなんて、ありえないだろ?」


「確かに……」


「お前ら失礼だな……」


「でも、あれか……ってことは変な話しだけど、美奈穂ちゃんとお前は結婚出来るって事だろ?」


「バカ、変な事言うなよ。今まで兄妹として育ってきてるんだぜ? そんな関係になるわけないだろ?」


「はぁ……お前って結構酷いな」


「は? なんでだよ?」


「誠実、それは絶対に美奈穂ちゃん本人には言うなよ」


「健までなんなんだよ? 別に普通の事じゃないか?」


「「はぁ……こんなバカな兄貴をもって美奈穂ちゃんは可哀想だ」」


「二人してなんなんだよ!!」


 そんな話している間に、チャイムが鳴り、教室に担任の小川智晴(おがわ ともはる)が入って来た。


「おーし、お前ら席につけー、ホームルームの時間だぞー」


 小川は出席を取り、連絡事項などをクラスに説明する。

 

「まぁ、こんなとこか……明日からテストだから頑張れよー、以上」


「「「「えぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」」


「あと課題の提出も忘れるなよー」


「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」」


「あと、次お前らえぇぇぇとか言ったら、夏休み開け初日から課題出すからな」


「「「「…………」」」」


「よろしい、それじゃあ今から始業式だから体育館に行け~、遅れるなよぉ~」


「「「「はーい」」」」


 ホームルームを終えると小川は出て行き、誠実たちも体育館に移動を始めた。


「はぁ~あ、なんかあっという間だったなぁ~」


「まぁ、夏休みなんてそんなもんだろ?」


「ところで誠実、お前はこの夏、結局何か進展はあったのか?」


「は? 進展って?」


「笹原や前橋とだよ、振ったのは知ってるが、あの二人はあきらめてないんだろ?」


「ま、まぁ……そうだな……」


「人生で一度あるかないかと言われてるモテキが、今お前に来てんだぞ、さっさとどっちかと付き合っちまえよ」


「武司、お前なぁ……そんな軽く言うなよ……俺だって色々考えてだなぁ……」


「まだ山瀬さん引きずってると?」


「うっ………」


 誠実は武司にそう言われ、ばつの悪そうな顔をする。

 誠実自身はそう感じていなくても、心の奥底では多少なりともそうなのかもしれないという疑惑があったからだ。


「べ、別に引きずってなんか……」


「あら、では私はなぜ振られてしまったのですか?」


「へ?」


 背後からに急に誰かが誠実たちの会話に入って来た。

 誠実が後ろを振り向くと、そこには笑顔の栞が居た。


「せ、先輩……ど、どうもおはようございます」


「はい、おはようございます。皆さん元気そうですね」


 栞は笑顔で誠実や武司に挨拶をする。


「え? 何? 振られたって?」


「誠実、お前まさか……」


 誠実は青い顔でその場に立ち尽くしていた。

 誠実が栞に告白され、振った事を武司と健は知らない。

 まさか、こんなところでバレるなんて予想もしていなかった誠実は、体中から変な汗をかくのを感じた。


「はい、私夏休みに誠実君から見事に振られてしまって……」


「せ、先輩!? は、早くいかないといけないんじゃないですか? ほ、ほら! 先輩副会長だし!!」


「あら、そうでしたわ、では誠実君また後で……」


「は、はい……」


 栞はそう言って、誠実達の元を離れて体育館の方に向かっていった。


「……さて、俺達も急ぐか……」


「「ちょっと待て」」


「二人とも……痛い……」


 健と武司は栞の言葉を聞き、誠実の肩を掴む。

 全く話を聞いていない健と武司にとっては、詳しい話を誠実から聞きたかったからだ。


「お前、マジで蓬清先輩振ったのか!?」


「ま、まぁ……結果的には……」


「お前、多分一生分の運を使ってるぞ」


「そ、そうかもしれないけど……」


「上手くいけば玉の輿だぞ! なんでそんなもったいない事を!!」


「武司、お前がモテない理由がなんかわかった。それとどこからか出したその縄は仕舞ってくれ、俺に何をする気だ」


「しかし、あの様子じゃ蓬清先輩も諦めてないんだろ?」


「ま、まぁそんな感じだ……」


「なんでこんな優柔不断な奴がモテて、俺はモテないんだ!」


「それはお前が不細工だからだぞ、武司」


「健! お前までそんなことを言うのか!!」


「悪かった、性格も不細工だった」


「追い打ちかけてどうすんだよ!」


 三人は言い争いながら、体育館に到着した。

 自分のクラスの列に並び、始業式が始まるのを待つ間も健と武司は誠実を質問責めにしていた。


「お前は贅沢だと思うぞ」


「な、何がだよ」


「あんな可愛い子に好かれて、みんな振るなんて……羨ましい!!」


「武司、お前のはただの嫉妬だ」


「誠実の状況を聞いて嫉妬しない男なんていないだろ!」


「俺は別に」


「お前はイケメンだもんな! 死ね!!」


「もう良いだろ、この話は……」


「よくねーよ! お前、どんだけ山瀬さんに未練のこしてんだよ! さっさと誰かと付き合って、その未練を断ち切れ! 嫉妬で俺がおかしくなる!」


「武司の場合は俺に彼女が出来ても嫉妬でおかしくなってそうだけど……」


「多分そうだよ!」


「じゃあ、俺はどうすれば良いんだよ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る