236話

「あ、すいません」


「おぉ~お~そんなに怖かったかい?」


「そ、そんなわけ無いじゃないですか……まだこんなに明るいのに……」


 誠実は恵理の傍を離れ、再び画面に目をやる。

 

「怖かったら、もっと傍に来ても良いんだよ?」


「いえ、大丈夫です」


 と言いつつも、誠実はこの手の映画はあまり得意では無かった。

 時間が昼間だからまだ良いが、夜だったら誠実は絶対にこの手の映画を一人で見ることは出来ない。

 強がってはいるが、誠実はもうこの映画を見たくないとさえ思っていた。


「うぉっ!」


 再び急に化け物が画面に現れた。

 誠実は心臓をバクバク言わせながら、声を出して若干後ろに下がる。


「むふふ~そんなに怖い?」


「う、うるさいなぁ……」


 そんな誠実を見て、恵理は小悪魔のような笑みを浮かべて誠実にそう尋ねる。

 恵理は映画そっちのけで、誠実のリアクションを見るのを楽しんでいた。


「うふふ~まさか誠実君がホラー映画ダメだったんなてねぇ~」


「べ、別にダメではないですよ……」


「へぇ~じゃあなんでさっきから目を逸らしてるのかなぁ~?」


「そ、そんなことは無いですよ」


 映画ももう終盤、段々表現も過激になっていき、誠実の心臓は今にも爆発しそうな勢いだった。

 

「ほらほらぁ~怖かったらお姉さんのところに来ても良いんだぞ~」


「誰がそんな安心感の無い場所に行きますか、このクッションの方がまだ安心できます」


「もう、強がっちゃって! 私のところにもクッションついてるわよ!」


 恵理はそう言って自分の胸を持ち上げる。


「そう言うセクハラ、マジでやめて下さい」


「だからなんでそんな感じ!? 折角お姉さんがサービスしてあげてるのに!」


「なんか、恵理さんがそう言う事やるのは違う」


「違うって何がよ!!」


 恵理が誠実にそう言ったのと同時に、急にパソコンの画面に大量の化け物が映し出された。


「ぎゃぁぁぁ!!」


「いやぁぁぁっ!!」


 その瞬間、誠実と恵理は二人で驚き、お互いに抱き合う形で画面を見ていた。


「はぁはぁ……こ、これは卑怯でしょ……」


「だ、誰だって驚くわね……」


「そうです……って、うわぁ! す、すいません……」


「え? あ、あぁ……」


 そこで誠実と恵理はようやくお互いが抱き合っていることに気が付いた。

 誠実は直ぐに恵理から離れる。

 恵理は頬を赤く染め、塩らしい態度の誠実に言う。


「も、もう! やっぱりお姉さんが良いんじゃな~い!」


「いや、あんたも驚いてたじゃん……」


「わ、私はびっくりしただけよ」


「この映画怖すぎません……」


「まぁ、脅かし要素は多いわね……」


 誠実と恵理がそんな事をしている間に、映画終わってしまった。

 しかもクライマックスは最後まで生き残った主人公が、出口を目の前にして化け物に襲われて死ぬという最後だった。


「最後も酷いな……」


「この世に希望なんて無いのね……」


「嫌な映画だ……」


 後味の悪い映画を見終えると、すでに時間はもう夕方だった。

 誠実は完全に休日を無駄に過ごしたと思いながら、今度こそはと立ち上がり恵理の家を出ようとする。


「じゃ、俺はそろそろこれで」


「えぇ~晩御飯わぁ~?」


「自分で作って下さい、俺はもういい加減帰りたいんです」


「冷たいなぁ~」


「誰かさんのせいで貴重な夏休み最後の一日を無駄にしたんです、冷たくもなりますよ」


「ぶー」


「膨れてもダメです、じゃあ俺はこれで」


「気を付けて帰りなよ」


「大丈夫ですよ、子供じゃないんですから」


 誠実は恵理にそう言って、部屋を後にする。

 一人部屋に残った恵理は、一人になった部屋で寂しさを感じていた。


「なんでだろ……なんでこんなに寂しいんだろ……」


 最近感じるこの孤独感はなんだろうかと考えながら、恵理はベッドに寝頃がる。


「誠実君……明日から学校か……」


 ますます会えなくなるのではないだろうか?

 なんてことを考えると、恵理の孤独感は一層強くなった。

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