234話

「え! ち、近い近い!! 誠実君! 見てないでなんとかして!!」


「恵理……」


「ま、真弓落ち着いて!!」


 なんとかと言われてもどうすれば良いか誠実は分からない。

 誠実はとりあえず、真弓を恵理から引きはがすことにした。


「とりあえず一回落ち着いてください」


「何よ! 汚い手で私に触らないで!」


「え? あぁ、すいません……」


「いや、良いから助けてよ!!」


 見知らぬ女性から結構キツイ一言を言われ、誠実は思わず身構えてしまう。 

 よく知らない、しかも女性にはあまり乱暴なことが出来ない誠実。

 そんな誠実に恵理は必死で助けを求める。


「まぁ、そういうわけなので失礼します」


「あ、コラ! 離しなさい!!」


 誠実は改めて真弓を恵理から引きはがすと、恵理と真弓の間に割って入る。


「いや、一応彼氏なので、恵理さんにそう言う事されると我慢できないです」


「うぅ~何よ! 年下のくせに彼氏面しちゃって!」


「いや、彼氏なので」


 そう誠実が言っている後ろで恵理は思わず顔を赤らめていた。 

 そんな恵理の様子に真弓は気が付き、何かを察して真弓は涙を流し始める。


「うわぁぁぁぁん!!」


「ちょっ! いきなりなんですか、急に泣き出したりして……」


 急に泣き出してしまった真弓に誠実は戸惑ってしまう。

 恵理も流石に心配になり、誠実の影から様子を見る。


「だって……だって……私振られたって事なのよ! これが泣かずにいられる!?」


「いや、まぁ気持ちはわかりますけど……」


(俺も実際は好きな人から振られてるし……)


 誠実は泣きわめく真弓を見て、何となく他人事とは思えなくなってしまった。

 好きな人から振られる悲しみを誠実は良く知っている。

 だからこそ、誠実はなんだか真弓が可哀想になってきてしまった。


「あ、あの……そんな気を落とさなくても他に良い人が……」


「恵理以外の女なんて考えられない!」


「いや、女性以外とか……」


「ありえない!」


(なんでこの人はそんなに男性が嫌いなんだよ……)


 真弓を見ながら誠実はそんな事を考える。

 もしかしたら過去に何かあったのだろうか?

 なんてことを誠実が考えていると、真弓は急に立ち上がり誠実をにらみつける。


「覚えてなさいよ! 絶対に恵理を取り戻して見せるんだから!!」


「え? あ……は、はい?」


「いや、はいじゃないでしょ!」


 真弓はそう言うと、そのまま鞄を持って部屋を出て行ってしまった。

 少ししてバイクの走り去る音が聞こえ、誠実はため息を吐いて腰を下ろすと、無言で恵理の方を見た。


「………」


「……ごめん」


 誠実の言いたいことが分かったのか、恵理は誠実にそういう。


「はぁ……随分モテるんですね、男女問わずに」


「ち、違うのよ! あの子は大学で仲良くしてた友達で!」


「いえ、別に他人の恋愛事情を詮索する気はありません」


「そ、そう……で、でも私も今日急に言われてびっくりして……」


「それで思わず彼氏がいるって嘘をついて、自分を呼び出したと?」


「うん、お姉さんすごく助かっちゃった。お礼にお姉さんの持ってる下着を一枚見せてあげよう」


「いえ、大丈夫です」


「遠慮するなよぉ~女子大生の下着だぞぉ~」


 そう言って恵理は自分の部屋のタンスをごそごそと漁る、


「ちょっ! セクハラはやめて下さい!!」


「えぇ……男の子がそれ言う? しかも割とガチトーンで……」


「はぁ……別にお礼とか良いですよ、じゃあ自分はこれで……」


 そう言って誠実が帰ろうとする、しかしそんな誠実の腕を恵理が掴んで止める。


「まぁまぁ少年。少しゆっくりしていくと良いよ~」


「いや、嫌ですよ」


「そんな綺麗な目でサラリと傷つくことを言わないでよ」


「いや、明日から学校なんですよ! 夏休み最後の日くらいゆっくりしていたいんです!」


「あら、そうなの? そんな事よりお腹減ったから何か作って」


「貴方は俺の話を聞く気があるんですか……」

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