233話

「見てわからない?」


「いや、分かるわけないじゃないですか」


 誠実は恵理を玄関先に引き戻してこっそり話を聞く。


「彼女大学の友達なのよ……」


「なるほど、そこまでは分かりました」


「えぇ、それで彼女……どうやら私の事が好きらしいのよ」


「なるほど、それは分かりません」


「まぁ、要するに女の子を恋愛対象として見てる女の子ってことね」


「それはレズというやつですか?」


「まぁ、そうね……」


「なるほど、あの人は恵理さんを女性として好きと」


「そうよ」


「それと俺が何の関係が?」


「ここまで話せば大体わかるでしょ!」


「いえ、全く」


「だから! 私の事を諦めさせるために、誠実君にはもう一回私の彼氏役をしてほしいのよ!」


「えぇ~……」


「露骨に嫌そうな顔しないの!」


「いや……だって……なんかあの人、気強そうですし……」


「お願いよぉ~、今度私の下着くらいなら見せてあげるから!」


「いえ、吐き気がするので結構です」


「女性にそれはひどくない!?」


 誠実と恵理がコソコソそんな話をしていると、我慢できなくなったのか、座っていた恵理の友人が二人に声をかける。


「ねぇ、私は放置?」


「あ、ごめんね真弓(まゆみ)! 今行くから!」


「え? あ! ちょ、ちょっと!!」


 誠実は恵理に引っ張られ、部屋の中に入っていく。

 誠実は真弓と呼ばれた恵理の友人の目の前に座らせられる。


「えっと……それでさっき話た私の彼氏が、この伊敷誠実君」


「こんなのっぺりしたのが?」


(どういう意味だ! それは顔か! それとも性格か!!)


「ど、どうも」


 誠実がそう言って挨拶をすると、真弓は誠実を睨みつけ、腕を組む。

 

「何年?」


「え?」


「付き合って何年って聞いてるのよ」


「あ、あぁ……えっと確か……こ、この前で半年だっけ?」


「そ、そうね! そうよね!」


「ふーん……告白はいつ? どこで?」


「あ、あれですよね? 確かじゅ…塾の帰りでしたよね?」


「そ、そうね! 12月だったわよね!」


「そ、そうでしたね!」


「ふーん」


 真弓はジーっと誠実の事を見る。

 誠実はそんな真弓から視線を逸らす。


「あ、あの……何か……」


「じゃあ、もうキスしたの?」


「へ!? き、キス!?」


「えぇ、半年も付き合ってたらもうそこまで済ませててもおかしくないでしょ?」


「あ、いや……えっと……」


 誠実は何と答えたら良いか分からなくなり、恵理に視線を送る。


「し、したわよ!」


「いつ? どこで? 何回?」


「何回!?」


「え、えっと……そ、そう! あれは春で……確か場所はこ、公園だったわよね?」


「あ、あぁ! あの公園ですよね! あの桜が綺麗な!」


「た、確かさ、三回くらいだったかしら?」


「え!? 三回!?」


(普通一回だろ! 恵理さんの脳内で俺は何をしてるんだ!!)


 誠実がそんな事を思っていると、誠実の目の前の真弓は眉をひそめながら誠実に尋ねる。

 

「……ねぇ、アンタは本当に恵理の事好きなの?」


「え? そんなわけなアダッ!!」


「好きよねぇ? 愛してるわよねぇ?」


「あい……」


 思わず口を滑らせようとした誠実の頭を叩き、恵理は誠実の言葉を遮る。

 誠実は不服そうな顔をしながら、恵理の方を見る。


「……なんで……」


「え?」


「なんで私じゃんなくて、こんなノッペリした冴えない男なのよ!!」


「ノッペリ……」


「い、いや……わ、私は普通に男性が好きだし……」


 誠実は真弓から言われた言葉にため息を吐く。

 真弓は誠実を放って、恵理に迫る。


「男なんて最低よ! だらしないし、汚いし! エロいことしか考えていないド変態よ!」


「ぜ、全員がそうではないと思うけど……」


「男なんてみんな狼よ! ねぇ、私なら貴方を幸せに出来るわ……」


「え、いや……あの……」


 真弓はそう言いながら、恵理に迫っていく。

 完全に真弓は誠実の存在を忘れ、恵理の手を握り顔を近づける。

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