231話

「さて、それではもう一戦行きましょうか」


「まだやるんですか!?」


「当然!」


 誠実が美沙を撫で終えると、沙耶香と栞は再びカードを持ってゲームの準備を始める。

 既に三回も負けている誠実はいい加減ゲームにも飽きてきていた。


「なんでこうなる……」


 誠実がため息を吐いていると、家の玄関の鍵が開く音が聞こえた。


「ただい……ま?」


「あ、お帰り」


 玄関の鍵を開けたのは美奈穂だった。

 どうやら勉強を終えて、帰って来たらしい。

 誠実の言葉を無視し、美奈穂は誠実以外の三人の顔を見る。


「あの……なんでいるんですか?」


「まぁまぁ、そんな怖い顔しないでよぉ~美奈穂ちゃん」


「もともとこういう顔です、美沙さん」


「ご、ごめんね! 急に来ちゃって!」


「美奈穂ちゃん、勉強ははかどりましたか?」


「別に来るはいいですけど……」


 美奈穂はそう言うと、誠実の方にジロリと視線を向ける。

 

「良い御身分ね、ハーレムじゃない」


「お、おい美奈穂! それは失礼だろ!!」


「はいはい、それでおにぃは皆さんと何をしてたんですか?」


 とげとげしい口調で美奈穂は誠実にそう尋ねる。

 誠実はため息を吐きながら、先ほどまで何をやっていたかの説明を始める。


「なるほど……それでおにぃは皆さんにいやらしい命令を出していたと?」


「なんでだよ! どっちかって言うと俺は負けっぱなしだよ!」


「そうですよ美奈穂ちゃん、残念ながら頬へのキスも拒否されてしまいました……でも手の甲にしていただけまして」


「へぇ……」


「先輩! そう言ういらない情報はこいつに言わないでください!!」


 美奈穂の誠実を見る視線が冷たくなる。

 外はすっかり夕焼け空になっており、時間も遅くなってきていた。


「もう、今日は解散しましょう。明後日からは学校も始まりますし……」


「それもそうですね、それにあまり遅くまでお邪魔するのも悪いですし」


「そうだね、私もそろそろ……」


「じゃあ、私は泊っていく」


「寝言は寝て言えよ、美沙」


「えぇ~誠実君私にだけ冷た~い」


「お前がアホな事を言うからだ! お前も帰れ!」


 三人は美奈穂と入れ替わる形で誠実を家を後にした。

 

「はぁ……疲れた……」


「まったく、お母さんとお父さんが居ないからって、女の子を連れ込むなんて……おにぃも随分成長しましたねぇ~」


「勝手にきたんだよ。お前もなんでそんな機嫌悪いんだよ……」


「別にそんな事ないし、私自分の部屋で勉強してるから」


「あいよ、俺も親父達が帰って来るまで部屋でゆっくりしてるわ」


 誠実は美奈穂にそう言い、二階の自分の部屋に行こうと階段に足を掛けた。

 しかし、その瞬間誠実は後ろから美奈穂に服を引っ張られた。


「ん? どうした?」


「その……おにぃはさ……なんで誰とも付き合あわないの?」


「え? なんだよいきなり」


「だって、今日改めておにぃに告白した人たち見たけど……みんな可愛いじゃん……」


「ま、まぁ……確かにそうだけど……」


「それなのに、なんでおにぃは誰とも付き合おうとしないの?」


 その理由は誠実が綺凛の事をいまだに好きでいるからだ。

 他の女の子が好きなのに、別な女の子と付き合うのは、その子に対して失礼と考え、誠実は告白を断り続けている。


「まぁ、あれだ……まだ失恋の悲しみから抜け出せてないんだよ」


「ふーん……そう……ち、ちなみにだけど……」


「今度はなんだ?」


「と、年下とかはどうなのよ……」


 美奈穂は顔を赤く染めながら、誠実にそう尋ねる。

 

「年下かぁ……ぶっちゃけ俺って年上好きだったりするんだよねぇ~」


「ふん!」


「いぎゃっ!!」


 美奈穂は誠実がそう言った瞬間、誠実の背中を思いっきり蹴り飛ばした。


「い、いきなり何しやがる!!」


「別に! フン!!」


「あだだだ!! ふ、踏んでいくな!!」


 美奈穂は倒れた誠実を踏んで、そのまま自分の部屋に戻って行った。

 

「あいてて……なんなんだあいつ……」


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