228話

「え? あ、あぁ……そ、そうか……」


 言われた誠実も頬を赤く染め、沙耶香から視線を逸らす。


「と、とりあえず……入る?」


「う、うん……お邪魔します……」


 とりあえず誠実は、沙耶香を家の中に入れた。

 自分の部屋は散らかっているため、誠実は沙耶香をとりあえずリビングに案内する。


「麦茶で良いか?」


「あ、ありがとう」


 ソファーに沙耶香を座らせ、誠実は麦茶を用意する。

 沙耶香が何をしにきたのか、誠実はさっぱりわからなかった。

 沙耶香と二人きりという状況も久しぶりだし、何より正直何を離して良いのか誠実は分からなかった。


「はいよ」


「あ、ありがとう」


 誠実は沙耶香の目の前に麦茶を出した。

 誠実は沙耶香の目の前に座り、自分用に持ってきた麦茶を飲む。


「……」


「……」


 会話がない。

 少し前だったら、気兼ねなく話が出来たのに、誠実は今の沙耶香には気を使っていた。

 そんな気まずい状況に誠実は耐えられず、何か話さなくてはと思い、沙耶香に話掛けた。


「あ、あれだな……毎日暑くて嫌になるな」


「そ、そうだね……あはは……」


 会話はそこで終了した。

 お互いに気まずい雰囲気を察しているのか、二人とも何かを話さなくてはと必死に考えてはいるものの何を話したら良いか分からない。

 そんな雰囲気の中、沙耶香は誠実にとある質問をする。


「あ、あのさ……」


「な、なんだ?」


「み、美奈穂ちゃんて……本当に血……繋がってないの?」


「あぁ……親父達もそう言ってたし、あいつの本当の両親の墓もあるしな……」


「そ、そうなんだ……美奈穂ちゃん、辛かっただろうね……」


「あいつもあんな感じで今日も話てたけど……多分、今もまだ心の整理はついてないのかもしれないな……」


「そっか……」


「でも、あいつは俺よりもメンタル強いから、多分大丈夫だと思うよ」


「うふふ、誠実君も十分強いでしょ? 何回も振られて立ち直ってきたくせに」


「そうかな?」


「そうだよ、見てるこっちが可哀想になっちゃったよ」


「あはは、あの時は必死だったからなぁ……」


「でも、早いよね……料理部に誠実君がやって来たあの日から、もう三カ月も経ってるなんて……」


「こんな感じで学園生活なんてすぐ終わっちまうのかな?」


 誠実たちがしみじみそんな話をしていると、またしても誠実の家のインターホンが鳴った。


「なんだ? また客か?」


 誠実は立ち上がり、玄関に向かい玄関のドアを開ける。

 

「はーい……って、先輩?」


「こんにちは、誠実君」


 ドアの開けてそこに立っていたのは、栞だった。

 栞は日傘をさし、誠実に笑いかける。


「ど、どうしたんですか?」


「うちの両親から、誠実君の両親にパリのお土産を渡しに行ってほしいと頼まれまして、私も誠実君と会いたかったので、それを口実にこうして会いに来たのです」


「あの、それは言わない方が良いんじゃ……」


「あら、確かにそうですね、私はどうも貴方の前だと緊張して、余計な事を言ってしまうようです」


 微笑みながら栞は誠実にそういう。

 そんな栞を見ながら、誠実はやっぱり顔をそらした。

 言葉の意味を理解していない誠実ではない。

 そんな事を言われては誠実も照れてしまう。


「あ、外は暑いですし中にどうぞ」


「えぇ、ありがとう……あら? 他にもお客様が?」


「あ、えっと……今は沙耶香が来てまして……」


 誠実は栞にそう言われた瞬間、咄嗟にまずいと思った。

 この二人を一緒に部屋の部屋に入れて良かっただろうか?

 気まずくならないだろうか?

 というか、自分で自分の首を絞めているのはないだろうか?

 誠実はそんな事を考えながら、栞をリビングに案内する。


「あ……」


「あら、前橋さん」


「蓬清先輩……」


 互いの存在に気が付いた沙耶香と栞。

 二人は笑顔で挨拶を交わす。


「いらしていたんですね、先ほどはどうも」


「先輩も来たんですね」


 誠実にはそんな笑顔の二人が逆に怖く感じた。


「せ、先輩もソファーに座っていて下さい。直ぐに麦茶を用意しますんで」


「ありがとうございます」


 誠実はそう言って再び麦茶を取りに戻る。

 

(まいったなぁ……これじゃあさっきの喫茶店と何も変わらないよ……)


 誠実はそんな事を考えながら、栞の前に麦茶を出す。


「どうぞ」


「ありがとう。ところで……誠実君と前橋さんは、二人きりでに何をしてたんですか?」


「え?」


 栞は二人きりの部分を強調して、誠実と沙耶香に尋ねる。

 

「い、いや別に……ただ話をしてただけですよ」


「そうなんですか……前橋さんはどうして誠実君の家に?」


「わ、私は……ただ誠実君に会いにきただけです」


 沙耶香は少しムキになって栞にそういう。

 ギスギスした雰囲気の中、誠実は冷や汗を搔きながら場の雰囲気を良くしようと、話題を変える。


「あ、あの……三人でトランプでもしませんか?」


「トランプですか?」


「はい、折角三人いますし」


「わ、私は良いけど……」


「私も構いませんよ、でも普通にやるのでは面白くないので、負けたら罰ゲームというのはどうですか?」


「え? 罰ゲームですか? 良いですけど、どんな罰ゲームにしますか?」

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