227話

「まぁ、何にせよあの場を抜け出せたのは良かった」


 あのまま居たら、気まずさやらストレスやらで精神的に参ってしまっただろうと考える誠実。

 結局一人になってしまった誠実は、大人しく自宅に帰ろうと自宅に帰る道を歩いていた。


「さて、残り少なり休日だし……エアコンの効いた部屋でゴロゴロしますかねぇ~」


 誠実がそんな事を考えながら、歩いていると道端で偶然の健と会った。


「よっ! 健じゃないか、何をしてるんだ?」


「ん? あぁ、誠実か……実は今さっきリサイクルショップに行ってきたところなんだ」


「リサイクルショップ? 何かしに行ったのか?」


「あぁ、ちょっと物を売りに」


「なんだよ、あの山のようなアイドルグッズでも売って来たのか?」


「正解だ、なぜわかった?」


「いや、お前の部屋って基本アイドルグッズしかないし……てか売った!? あんなに大切にしてたのにか!?」


「何を驚いている? たかがアイドルオタクをやめたくらいで」


「いや、お前の個性が……って、そうじゃなくて! なんでだよ、お前かなり金と時間を掛けてたじゃないか!」


「冷めた」


「理由普通だな! もっと込み入った理由とかじゃないのかよ!」


「お前がそこまで気にすることでもないだろ、それよりお前は何をしてるんだ?」


「あぁ、いや実はな……」


 誠実は近くの公園に移動し、先ほどまで何をやっていたかを健に話す。


「なるほどな、それは大変だったな」


「全くだよ……まぁ、全部俺が蒔いた種なんだけどな」


「そうは言っても、お前はちゃんと全員振ったんだろ? それならお前は何も気にする必要はない」


「そ、そうか?」


 日陰のあるベンチに座りながら、健は誠実にそう言う。

 確かに冷静に考えてみると健の言う通りなのだ。

 誠実はしっかりと告白に対しての返事を出しており、それでもお構いなしに誠実に迫っているのは、振られた三人の方なのだ。


「逆にお前は少し厳しく言った方が良いんじゃないか? 彼女でも無い癖にうるさいと」


「い、いやいくらなんでもそれは……」


「大体だ、お前は優しすぎるぞ。武司の件もそうだ、家に来た時点で塩を撒いて追い払えばよかったんだ」


「いや、それはひどすぎるだろ。武司泣くぞ」


 健の辛辣な言葉を聞きながら、誠実は自分のTシャツをパタパタと揺らす。


「しっかし、あっちぃ~な~」


「そうだな……折角だ暇つぶしにゲーセンでも行かないか?」


「おっ! 良いなそれ!」


「女共の相手で疲れただろ? ゲーセンで溜まったうっぷんを晴らすぞ」


「そうだな! って、ちょっと待ってくれ……あっ……悪い、やっぱり俺パス」


「む? どうした?」


「夏休みで金使い過ぎて金欠……」


「なんだよ、借してやるか?」


「金を借りるのは悪いし、やっぱり遠慮するよ。俺は大人しく家に帰るよ」


「なんだ、つまらん。なら俺も帰るとしよう」


 誠実は少し話をして健と別れ、そのまま家に帰ってきた。

 

「はぁ~あ、金も無いし、休みも少ないし。こういう日はゴロゴロするに限るよなぁ~」


 誠実はそんな事を考えながら、自室のベッドで横になり、スマホで動画を見始める。

 今から訪れる嵐に気が付かづに……。



 誠実が帰った後、喫茶店にいたメンバーも早々に解散していた。

 美奈穂はファミレスに残り、そのまま勉強をし、その他のメンバーはそれぞれ自宅に帰っていった。

 しかし、そんな中で沙耶香はこっそり誠実の家に向かっていた。


「まさか誠実君と美奈穂ちゃんが本当の兄妹じゃないなんて……」


 沙耶香はついさっき知ったその事実を思い出しながら、誠実の家に向かって歩いていた。

 夏休みだというのに、誠実とは全くと言っていいほど進展のなかった沙耶香。

 このままではヤバイ。

 そう考えた沙耶香はいてもたってもいられず、誠実に会いに向かっていた。


「私だって、誠実君の事好きだもん……」


 他の三人は確実に誠実との距離を縮め始めていた。

 沙耶香は三人にこれ以上差をつけられないようにと必死だった。


「でも……行ってどうしたら……」


 沙耶香はそんな事を考えながら、つい先日同じ料理部の志保が読んでいた雑誌の内容を思い出す。


「夏場は開放的になるから、ぐっと押して押して押し切る……押し切る………頑張ろう!」


 沙耶香は頬を赤く染めながら、自分の今日の下着の色を思い出す。


「うぅ~一回家に帰って用意すればよかった……」


 沙耶香がそんな事を思った直後、誠実の家の屋根が見えてきてしまった。

 今から準備してきたのでは、時間が掛かりすぎてしまうため、沙耶香はそのまま誠実の家に向かった。

 誠実と会う前に、バックの中から清感スプレーを取り出して自分の体に吹き付ける。


「よし!」


 最低限の準備を整え、沙耶香は誠実の家のインターホンを押す。


「はーい」


 家の中から聞こえてくる誠実の声に、沙耶香は一瞬ドキッとする。

 考えてみれば、二人きりで会うのは少し久しぶりだった。


「ん? 沙耶香じゃないか、どうした?」


 沙耶香はそう誠実に尋ねられ、照れながら誠実に正直に言う。


「あ、えっと……あの……その……誠実君に会いたくて……」


 沙耶香は顔を真っ赤にしてそういった。

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