224話

「夏休み最後だから何かしようって話になったんだが、これと言ってやることが思いつかなくてな」


「そうなんだ、明後日から学校だもんね」


 笑顔でそういう綺凛に誠実は思わず頬を赤らめる。

 それを見て面白くなかったのか、美沙と沙耶香は誠実をジト目で見る。

 

「あーあぁ~今年は何も良いことの無い夏休みだったなぁ~、誠実君には振られるしぃ~」


「ぐっ! そ、その節大変なご迷惑を……」


「私も誠実君に振られたし、しかも一緒に花火大会行ってくれなかった……」


「うっ! み、美沙も沙耶香も俺を攻撃するのはやめてくれ……」


 よくよく考えてみれば、いまここに居る女子と誠実の関係は複雑そのものだった。

 それでもこうやって冗談を言い合えるような関係なのは良いことだと誠実は思っていた。


「おい! 良いからオオクワガタ捕獲に行こうぜ!!」


「あんたは少し黙ってなさい」


「あがっ! わ、脇腹を小突くな……」


 志保はうるさい武司を連れてどこかに行ってしまった。


「行っちまったな……」


「あの二人中々関係が進まないわね」


「美沙、お前は何を言ってるんだ?」


「別にぃ~、そんな事よりここで会ったのも何かの縁だし、みんなで何かする? オオクワガタの捕獲以外で」


「結局何かはするのかよ……じゃあ、そうだなぁ……」






「う~ん! 美味しいぃ~」


「夏って言ったらやっぱりこれだよね?」


「そうね」


 誠実たちは図書館から移動して、誠実と綺凛がバイトをしている喫茶店に来ていた。

 夏と言えばという事で、誠実たちは店にかき氷を食べにきていた。


「誠実君! あと一個だから頑張って!」


「いや、なんで客として来た俺がかき氷作ってるんですか!!」


 誠実は厨房でかき氷機を回しながら店長にそういう。


「いやぁ~折角来たんだし、手伝ってもらおうかと思って」


「時給もらいますよ……」


「かき氷代、サービスするから」


「だからってなんでこんな暑い日に……はぁ……そう言えば今日は木崎さんは?」


「あぁ、彼女は今は里帰りしてるよ。お盆休みを一週間ズラしてとってたからね」


「なるほど……だから今日は店長一人なんですね」


「あぁ、でも今日は平日だから楽勝さ」


 厨房でそんな話をしながら、誠実は自分用のかき氷を完成させる。

 店長が奮発して買ったかき氷機の性能は良かった。

 きめ細かく、ふわふわのかき氷が作れるため、人気もあった。


「持っていくの面倒だし、ここで食べていいですか?」


「別に構わないけど、良いのかい? 彼女たちのところに行かなくて?」


「まぁ……なんとういか……あの三人と俺は結構複雑な関係なんですよ……」


「そうなのかい? まぁ、良いけど。あ、それより来週のシフト早めに出しておいてね」


「わかってますよ」


 誠実は店長にそんな事を言いながら、かき氷を食べていた。

 すると店にお客さんが来たらしく、ドアの開く音とベルの鳴る音が聞こえてきた。


「いらっしゃいませぇ」


 誠実は厨房からこっそ入口の方を覗く、するとそこには私服姿の栞が立っていた。


「あれ? 栞先輩じゃないですか!」


「あら、皆さんどうされたんですか? 偶然ですね」


 栞に気が付いた美沙が栞に声をかける。

 栞は美紗や綺凛達の座る席に近づき、話を始めた。

 誠実はますます関係がややこしくなってきたと思いながら、こっそり厨房の奥に引っ込んだ。


「栞先輩、ここどうぞ」


「あら、ありがとう」


「いえいえ、どうぞ」


「うふふ、ありがとう」


(いや、うふふじゃねぇぇぇぇ! 出ずらい! 非常に出ずらくなってしまったぞ!!)


 誠実は厨房からこっそりみんなが座る席を見ながらそう思っていた。


「栞先輩はどうしてここに?」


 そう尋ねたのは沙耶香だった。

 沙耶香はかき氷を食べながら、正面に座った栞にメニューを渡す。


「ここで誠実君はアルバイトをしていると聞いたから、もしかしたら居るかなって思ってね」


「あぁ、誠実君だったら私たちと一緒に来ましたよ。たしか厨房に行ったっきり戻ってこないんですよ」


(……まずい)


 誠実は心の中でそう思っていた。

 こんな非常に関係性が複雑な女性陣の中には誰だって入りたくはない。

 しかも男は誠実一人だけだ。


「あ!! そういえば栞先輩!! 花火大会の日! 誠実君に告ったって言ってましたけどどうなったんですか!!」


(や、やめろぉぉぉぉぉぉ! もっとややこしいい事になるだろうがぁぁぁ!!)


 誠実が厨房の奥でそんな事を思っていると、栞は寂しそうな表情を浮かべながら、美沙と沙耶香に向かって話した。

 

「……あなた達と同じ結末になってしまったわ……」


「あ……」


「す、すいません……私余計なことを……」


 美沙はなんだか申し訳なくなり、栞に謝罪する。

 しかし、栞は怒るどころか優しい笑顔でこう言った。


「良いのよ、でも私もまだ諦める気はないの」


「え?」


「そ、それって……」


「えぇ、絶対に彼を私に振り向かせて見せるわ」


 そう栞が宣言した瞬間、その席に座っていた栞以外の三人は驚きのあまり言葉が出なかった。


「え? じゃあ、栞先輩ってまだライバルなんですか?」


「まだってなんですか? もちろんですよ」


「いやいや、きっぱり諦めないと嫌われますよ?」


「美沙ちゃんやめて、その言葉は私たちに跳ね返ってくるから……」


 美沙の言葉に沙耶香がそういう。

 ますますややこしい事になって来たなと思いながら、誠実は厨房から席の様子を観察していた。

 そんな誠実に店長は……。


「何やってるの?」

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