222話

 美奈穂はそう言って、誠実の顔から離れて行く。

 美奈穂はそのまま誠実のベッドの脇に座り、誠実の寝顔を見ていた。


「……おにぃ……私……絶対負けないから」


 美奈穂はそう言うと、立ち上がり部屋を後にしていった。

 




 美奈穂の誕生日の翌日、誠実達家族はお墓に来ていた。


「ここ?」


「あぁ……これが美奈穂のお母さんとお父さんの墓だ」


 そう、忠志と叶は美奈穂を連れて、本当の両親の墓参りに来ていた。

 日差しが照りつけるなか、美奈穂は日傘を差して墓の前に立ち、じーっと墓を見ていた。

「お母さん、お父さん、おにぃ……少し一人にさせて……」


「あぁ……わかったよ」


「向こうに居るから、終わったら来なさい」

 

 誠実達は美奈穂を残し、他のところに移動する。

 残った美奈穂はお墓を見ながら、静かに話し始めた。


「……私は覚えて無いけど……お父さん、お母さん……私、もう中学三年生だよ……」


 もちろん誰も答えてはくれない。

 しかし、美奈穂は言葉を続ける。


「モデルやってるんだ……友達もいっぱいいるし……安心してよ……それに……好きな人も居るんだよ……」


 そう言った美奈穂の顔は笑顔だった。

 

「だから……心配しないで上から見ててよ……私……頑張るから」


 美奈穂はそう言い終えると、誠実や忠志が待っている場所に戻る。


「終わったのか?」


「うん……終わったよ……帰ろ」


「もう……良いの?」


「うん……決意表明してきたから……」


 美奈穂はそう言いながら誠実の方を見る。


「ん? なんだ?」


「何でも無いわよ、早く帰ろうよ」


 美奈穂はそう言って歩き出した。





 夏休み最終日の前日。

 誠実は家でゴロゴロしていた。


「ふぅーやっぱり夏休みは最高だよなぁー」


 リビングのソファーでテレビを見ながら、誠実はスマホを弄る。

 夏休みも明日で終わり、誠実は宿題も早めに終わらせ、残りの夏休みを満喫していた。

 あとはのんびり夏休みを過ごそうとしていた誠実だったが、そんな誠実のスマホが急に鳴り始めた。


「ん? 誰だ?」


 誠実はスマホを手に取り、電話の相手を確認する。


「なんだ、武司か……無視でいいな」


 折角クーラーの効いた部屋でゆっくりしているのだ。

 変な事で呼び出しを食らってはたまったものではないと、誠実は電話を無視した。

 少しして着信も止まり、誠実は安堵して再びテレビの続きを見始める。

 すると、今度は家のインターホンが鳴った。

「なんだよ……人が折角ゆっくりしてるって言うのに……」


 誠実は仕方なく立ち上がり、玄関の方に向かった。


「はーい」


「よお磯野、野球やろうぜ」


「帰れ」


 誠実はそう言って玄関のドアを閉める。

 インターホンを押したのは武司だった。

 日曜の夕方頃にテレビで聞きそうな台詞を言ってきた武司に誠実は少しイラッとした。


「まてよ! 冗談だって! 良いから開けてくれよ!」


「いや、うち磯野じゃないんで」


「冗談だろ!? 良いからとりあえず入れてくれ、暑いんだ……」


「はぁ……」


 誠実は仕方なく武司を家の中に入れる。


「あぁ~やっぱりクーラーは神だよなぁ……」


「何しに来たんだよ……」


 誠実は武司にお茶を出し、武司に尋ねる。 

「いや、夏休みももう終わりなわけだ」


「あぁ、そうだな」


「最後の夏の思い出でも作りに行かないか?」


「行かねーよ」


「なんでだよ!」


「俺はクーラーの効いた部屋でごろごろしてたいんだよ、わかったらそれを飲んで早く帰れ」


「そんな寂しい事言うなよ~、遊ぼうぜ~」


「馬鹿! くっつくな! 気色悪い! 健でも誘えよ!」


「あいつは家にすら入れてくれなかった……」


「まぁ、だろうな……」


 健は武司の思惑を察して家に入れなかったのだろう。

 誠実はしつこい武司をあしらいながら、テレビの続きを見始める。

 

「ん、そう言えば美奈穂ちゃんは?」


「さぁ? 部屋に居るんじゃ無いか? あいつは言っても受験生だからな、勉強してるぞ」


「そうか、じゃあ家では騒げないな、よし外に行こう」


「なんでそうなるんだよ」


「受験生が居る家では遊べないだろ? ほら、さっさと行こうぜ」


「どこにだよ……」


「どこかだよ!」


「はぁ……」


 結局誠実は武司に連れられて外に出てしまった。

 外は家の中とは違い、かなりの暑さだった。

「あっつ……」


 汗を掻きながら、誠実と武司は炎天下の中を歩きファミレスに向かった。


「あぁーやっぱり良いなぁ……」


「結局ファミレスかよ……これなら家でごろごろしてた方が良かったな……」


「まぁ、そう言うなよ、夏ももう終わりだ、何かやり残した事をだな……」


「やり残しなんてねーよ……まったく」


 誠実がそう言いながら、ドリンクバーの飲み物を飲んでいると、誠実達の席で誰かが立ち止まった。


「あれ? 誠実君?」


「ん? あ……沙耶香……」


 そこに居たのは、誠実達と同じクラスの料理部の部長である、前橋沙耶香だった。


「ぐ、偶然だね、何やってるの?」


「あ……いや、武司が無理矢理……」


 いまだに沙耶香と話すのには気を使ってしまう誠実。

 そんな二人を見た武司はやれやれと思いながら、助け船を出す。


「そう言う前橋は何してんだ?」


「えっと……宿題の残りをやり終わったところで、そろそろ帰ろうかと思ってたところだよ」


「そうか、よし! じゃあ前橋も夏にやり残した事をやりに俺たちと行こう!」


「え?」


「おい! 沙耶香を巻き込むなよ! ごめんな、こいつ暑さでおかしくなってるんだ」


「おい! 俺はおかしくなんてなってねーぞ! 前橋だってやり残したことあるだろ?」


 聞かれた沙耶香は、うーんと考え込み、ハッと何かを思いついた様子で話し始める。


「せ、誠実君と……もう少し遊びたかった……かな?」


「え……あ、いや……」


 上目遣いで頬を赤らめてそう言う沙耶香に誠実照れてしまった。

 なんだかんだで誠実は、告白を断ったあの日から、沙耶香とはあまり話しをしていない 突然の沙耶香のそんな発言に誠実は罪悪感を感じてしまう。


「じゃあ、問題ないな! 良し! 三人で遊びに行こう!」


「あ……三人なんだ……」


 武司は発言に、沙耶香はぼそっとそう呟いた。

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