221話

「あのさ……私は別におにぃを信用してるけど……お母さんとかに見つかったら、おにぃ殺されるんじゃない?」


「た、確かに……早めに返しておこう……」


「まぁ、これは前座みたいなものなんだけど……」


「今のが前座かよ……それ以上に聞きたい事ってなんだよ……」


 それ以上に聞きたいことなんてあるのか?

 なんて事を思いながら、誠実は美奈穂の話しを聞く。


「おにぃはさ……これから彼女とか作るの?」


「え? なんでだよ? そりゃあ人生長いんだから」


「だから……そうじゃなくてさ……なんか最近モテてんじゃん……」


「うっ……か、関係ねぇだろ……」


「妹なんだから関係あるわよ」


「そうか?」


「そうよ……おにぃの彼女ってことは……私のお姉さんでしょ……」


「まぁそうか……あー……まぁ、色々思うことはあるさ……」


 誠実はいままでの出来事を最近考えていた。 告白する側からされる側になった誠実。

 思いを寄せてくれることは嬉しい、だが……誠実が思いを寄せているのはただ一人。


「……でも、多分俺は当分誰とも付き合わない」


「そう……なんだ……」


「あぁ……俺は多分、まだあの人を……山瀬さんを忘れられないから……そんな気持ちで誰かとなんて付き合えないし……」


 沙耶香や美沙、そして栞の告白、誠実は素直に嬉しかった。

 しかし、嬉しかったからこそ誠実は思っていた。

 このまま自分の事なんか忘れて、他の人を好きになって欲しいと……。

 だから最近、誠実はこの三人と距離を開けようかと考え始めていた。


「そう……じゃあおにぃは当分彼女は作らない?」


「あぁ、お前は妹だから言うけど……そもそも俺がモテるわけが無い……多分あの三人はきっと吊り橋効果みたいなものを感じて、俺を好きになっただけだ……」


「……それは違うと思うけど」


「いや、俺は不細工だし……取り柄ないし……」


「そんな事無いって、なんたって私のおにぃでしょ?」


「気を遣うなよ……俺は……」


「だからそんな事無いって……だからモテるんでしょ? それに……少しは認めないと好きになってくれた人にも失礼」


「……ま、まぁそうだが……」


 美奈穂の思わぬ一言に誠実は顔を赤く染める。

 美奈穂がこんな風に誠実を褒める事は珍しい、だからこそ誠実は美奈穂の言葉に照てしまった。


「私は……おにぃの良いとこ……誰よりも知ってるつもりだから……」


「え? なんか言った?」


「はぁ……アンタはなんでこう言う時に話しを聞いてないのよ……」


「ん? だから何?」


「もう良いわよ、聞きたい事も聞けたし、私はもう寝る」


 美奈穂はそう言って立ち上がり、部屋のドアを開ける。

 誠実はこの瞬間、プレゼントを渡すなら今しか無いと。


「美奈穂、待て」


「何よ?」


「あ、いや……あの……これ、お前に誕生日プレゼント……」


 誠実は美奈穂にそう言いながら、プレゼントを美奈穂に差し出した。


「おにぃから?」


「あぁ……」


「ふぅん……」


「なんだその笑みは! 言っておくけど、大した物じゃないからな!」


「知ってる、開けて良い?」


「好きにしろ」


 誠実に了解を貰い、美奈穂は梱包を丁寧に開けていく。


「これって……」


「あぁ……その……あれだ、今のお前にはこれが一番良いと思った」


「写真立て……」


「一番大事な人と撮った写真を入れておけ、スマホとかデジカメとか、データで残しておくのとは有り難みがちがうからな」


「おにぃ……ありがと」


「おう」


「大切にするよ」


「おう、大切にしろよな」


 美奈穂はそう言うと、そのまま自分の部屋に戻って行った。

 誠実はやり遂げた達成感で一気に力が抜け、ベッドに倒れ込んだ。


「あぁーなんだよ……意外と簡単じゃん……」


 ベッドの上でそんな事を思いながら、誠実は美奈穂の事を考える。


『おにぃちゃん待ってぇー!』


『おにぃちゃん遊ぼ!』


『おにぃ……近寄らないで』


『……おにぃ、話し掛けないで』


『おにぃ……本当に馬鹿だね』


「………あれ? 俺の中の美奈穂ってなんかすっごい冷たい」


 よくよく考えれば、最近仲が良くなって来ているとはいえ、昔の美奈穂は誠実に対してこんな感じだった。

 

「はぁ……まぁあいつも思春期だしな……」


 そんな事を呟きながら、誠実は部屋の明かりを消した。





 深夜0時、家中が寝静まった頃、美奈穂はこっそり部屋を抜け出していた。

 部屋を抜け出して向かったのは、誠実の部屋だった。

 そーっと部屋の戸を開け、美奈穂は誠実の部屋の中に入り、誠実のベッドに近づく。


「……おにぃ……」


「………」


 誠実のベッドの前で美奈穂は静かに呟く。

 もちろん誠実は起きない。

 美奈穂は誠実の寝顔を見つめながら、少しづつ誠実の顔に近づいて行く。


「本当の兄妹じゃないんだ……じゃぁ……良いよね?」


 美奈穂はそんな事を呟きながら、誠実の頬に自分の唇を近づけてキスをする。


「おにぃ……私はおにぃだけだから……」

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