220話

「生まれて間もない美奈穂を連れて、うちにやってくる途中だった……交通事故に合って二人は死んだ……」


「……」


「その時、一緒に乗っていた美奈穂は、母親に守られて無事だった……」


 美奈穂は話しを聞きながら写真を凝視していた。

 

「美奈穂の両親は、二人とも孤児院育ちで親戚も居なかった。だから、身よりの無くなった美奈穂を俺たち夫婦が引き取ることにしたんだ」


 忠志は話しを終えると、もう一冊アルバムを出して美奈穂に見せる。

 

「これは、美奈穂が生まれた時の写真だ」


 忠志が美奈穂に見せた写真は、美奈穂の母親が赤ん坊を抱き、その隣に美奈穂の父親、そしてその二人を挟んで忠志と叶が写っている写真だった。

 その写真では、叶も赤ん坊を抱いていた。

 それを見た誠実は一目でこの赤ん坊の正体が分かった。


「これ……俺か?」


「そうよ……アンタは良く夜泣きする子だったけど、美奈穂は全然だったわ……」


「将来、息子達が良い友達になれたら良い……なんて話しをしてたのに……まさか兄妹になっちまうとはな……」


 しみじみしながら忠志はそう呟く。

 誠実と美奈穂を交互に見て、忠志は優しい笑顔で二人に言う。


「大きく……なったな……」


「えぇ……本当に……」


 叶は涙を流し、美奈穂が生まれた時の写真の上に手を置く。


「これが、美奈穂の両親と美奈穂が家族になった理由だ。今まで黙っていて悪かった」


「ごめんね……美奈穂ちゃん……」


 忠志と叶は美奈穂に頭を下げる。

 美奈穂はそんな二人を見ながら、何かを考えながら口を開く。


「ねぇ……」


「なんだ? 美奈穂」


「私は……この家に居ても良いの……」


 そう尋ねる美奈穂の目は弱々しかった。

 そんな目を見た忠志は、美奈穂を安心させるために笑顔で美奈穂に言う。


「当たり前だろ……美奈穂は家族だ、これからもそれは変わらない」


「そうよ、美奈穂は家族なのよ……居なくなれば心配するわ……だから……もう……居なくなったりしないでね……」


「お母さん……」


 叶の涙を流しながらの訴えに、美奈穂も涙を流す。

 自分が一体何者なのか、それが分からず美奈穂は不安になってしまっていた。

 しかし、自分の正体、そして家族だと両親の口から言って貰ったことで、美奈穂の不安は次第に解消されていった。


「ありがとう……お父さん、お母さん……」


 美奈穂は涙を流しながら、笑みを浮かべ両親にそう言う。





 美奈穂の両親の話しを聞いた後、俺たち家族は美奈穂の誕生日を祝った。

 色々あった一日だったが、逆に良かったのかもしれないと誠実は思っていた。

 今まで隠していた事を話し、家族の間に隠し事は無くなった。

 もしかしたら、今日この日、自分たちは本当の家族になれたのかもしれない。

 誠実はそう思いながら、自室のベッドの上で美奈穂に買ったプレゼントと睨めっこしていた。


「なんか丸く収まったけど……これをどのタイミングで渡すか……」


 飯を食べ終え、風呂にも入り、後は寝るだけ。

 早く渡さなければ、美奈穂の誕生日が終わってしまう。

 

「うーむ……よし! 考えていても仕方ない! 普通に渡そう!」


 誠実はそう思い、勢いよくベッドの上から立ち上がる。

 すると、それと同時に誠実の部屋のドアが二回ノックされた。


「おにぃ、居る?」


「え? み、美奈穂か!! ま、まて! 少しまて! 今開ける!」


「え? 一体何してるの? そんな慌てて……」


 誠実の手には美奈穂の誕生日プレゼントが握られている。

 誠実は早くこれを隠さなくてはと焦って声を出していた。

 しかし、そんな兄の様子を不振に思った美奈穂は誠実に早くドアを開けるように言う。


「居るなら早く開けてよ」


「ちょ、ちょっと待て!!」


 誠実はなんと言えば部屋に入って来れないかを考え美奈穂に説明する。


「今自家発電中だから、入って来るな!!」


「は?」


「あっ……」


 誠実は焦ってとんでもない事を美奈穂に暴露してしまった。


「……じゃあ、終わったら教えて……なんかごめん」


「おい! 謝るなよ! なんかいつもと反応違くて怖いんだけど!!」


「いや……なんか血が繋がってないって知ったら……」


「だから気にするなよ! いつも通りで居てくれよ! 逆に気を使うわ!!」


 そんな事を話している間に、誠実はプレゼントをベッドの下に隠し終え、ドアを開ける。

「……手洗ってね」


「冗談だよ! いい加減気がつけ……」


「いや、おにぃも男の人だし……色々あるのかなって……」


「おい、なんでさっきから目を合わせない」


「別に……なんでも……」


「そしてなんで離れて行く……」

 

 説明し、なんとか分かって貰えた誠実。

 自室に美奈穂を入れて何の用なのか話しを聞く。


「それで、どうしたんだ?」


「ん……いや……まだちゃんとお礼言って無かったから……ありがと……探しに来てくれて……」


「なんだ、そんな事か……妹なんだ、普通だろ?」


「でも……本当の妹じゃないのに……」


「お前なぁ……もうそれ禁止な」


「え……」


「その本当の妹じゃ無いとか、もう言うな……お前は正真正銘、俺の妹なんだから」


「……うん」


 誠実にそう言われ、美奈穂は頬を赤く染めてうなずく。

 

「用はそれだけか?」


「いや……あのさ……」


「ん? どうした?」


「ずっと、私はおにぃに聞きたい事があったの……」


「聞きたい事?」


「うん……ずっと聞きたかったんだけど……怖くて聞けなかった……それを今、聞きたいんだ……」


 誠実は真剣な様子の美奈穂に身構えてしまう。

 一体何を聞かれるのだろうか?

 そんな事を誠実が考えていると、美奈穂は背後から一冊の本を出して誠実に尋ねる。


「おにぃは私にこう言う事を望んでるの?」


「こ、これは!!」


 それは誠実がクラスメイトから借りていた、R指定の付いてある本……いわゆるエロ本だ。 しかもそのジャンルは妹物、誠実は自分の顔がどんどん青ざめていくのを感じた。

 タイトルは「いけない禁断の関係、私お兄ちゃんになら何をされても大丈夫」だった。


「ま、まって! そ、そんな物どこから!? って今はそんなのどうでも良い! 違う! これは同じクラスの田中君がだな……」


「ちょっと、あんまりこっちに来ないで……」


「完全に警戒している!!」

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