219話




「あ、そう言えば」


「どうしたの?」


「いや、一人連絡しないといけない人が……」


 誠実は直ぐにスマホを操作し、ある人に電話を掛け始める。

 

「あ、もしもし」


『誠実君? 妹さんは見つかりました?』


「はい、おかげさまで……ありがとうございました」


『それは良かったです』


「今度何かお礼をさせて下さい、色々心配もお掛けしましたし……」


『それでは、今度私とデートして貰えますか?』


「は? で、デートですか?」


『はい、それでは』


「あ、ちょっと先輩!? 切れた……」


 誠実は栞の申し出に戸惑っていた。

 デート、普通なら栞のような綺麗な先輩とのデートは嬉しいのだが、花火大会での一件もあるので、誠実はあまり乗り気にはなれなかった。


「誰と電話してたの?」


「え? あぁ、蓬清先輩だよ、お前を探すのを手伝って貰ってたんだ……」


「ふーん……デートって言うのは?」


「あぁ、いやそれは先輩がからかって言ったんだよ……多分ただ買いものに付き合えって意味だと思う」


「ふーん……」


「なんだよ」


 ジト目でジーッと誠実を見つめる美奈穂。 そんな美奈穂に誠実は疑問を浮かべる。


「ねぇ、今度また買いものに付き合ってよ」


「え? あぁ、別に良いぞ」


「良いんだ……意外」


「なんだよそれ……今日くらいは……お前に優しくするっての……」


「へ~じゃあいつもは優しくしてくれないんだ~」


「それは、お前の態度にもよる」


「なによ、お兄ちゃん大好き~とか言ってれば優しくしてくれんの?」


「それは一週回ってキモイが……まぁ、優しくはなるかもな」


「キモイって何よ、キモイって」


「イデデデ!! 頬を引っ張るな!! それより……親父とお袋にも……謝るんだぞ」


 そう言うと、美奈穂の誠実の手を握る力が強くなった。

 

「そうだね………でも、怖いな……なんか話し聞くの……」


「美奈穂……」


 美奈穂の不安そうな顔を見て、誠実は美奈穂に声を掛ける。


「心配するな、辛いかもしれねーけど、俺がいる……」


 誠実はそう言うと美奈穂の頭をポンポンと手で優しく叩いた。

 美奈穂は頬を薄ら赤く染め、誠実の方を見る。

 

「ねぇ……」


「ん? どうした?」


「おにぃは……私の事を……どんな目で見てた?」


「え? それはどう言う意味だ?」


「そのまんま……妹として? それとも……一人の女として見てた?」


「お前……そんなの妹としか……」


「ちゃんと答えて」


 誠実が笑いながら答えた瞬間、美奈穂は真剣な眼差しで誠実に尋ねる。

 誠実はそんな美奈穂の目を見て、これは正直に答えた方が良いと悟った。

 なぜこんな事を聞くのか、誠実には良くわからなかった。

 しかし、今日だけは美奈穂に嘘をついてはいけないと誠実はそう思った。


「……基本的は妹としか見てねーよ」


「……そっか………」


「まぁでも……海の撮影の時は……妹としては見てなかったかもしれない……すまん」


「え? ……そ、そう……」


「引くなよ……仕方ないだろ……お前はモデルだし、顔立ちだって俺と違って整ってんだ……たまに女として見ちまうよ」


 そう言われた美奈穂の頬はどんどん赤くなっていった。

 そんな自分に気がついた美奈穂は、頬を抑えながら、誠実に背を向ける。


「変態……」


「な! お、お前が正直に言えって言ったんだろ!!」


「……良かったわね、私みたいな可愛い子が妹で~、毎日目の保養になるでしょ?」


「うっ……否定出来ない……」


「妹をエロい目で見る兄貴なんて、普通はサイテーだよねぇ~」


「う、うるせーよ」


 そんな話しをしながら誠実達は家に帰って行く。

 夕日が沈み、もう間もなく日が落ちる。

 本番はこれからだと誠実は考えながら、美奈穂を連れて自宅に戻った。

 

「ただいまぁー、ほら美奈穂」


「うん……」


 家に着いた誠実と美奈穂。

 先に誠実が家に入り、美奈穂は後から入った。


「……ただいま」


「おかえり、美奈穂」


 誠実は美奈穂に笑顔でそう言った。

 少しして、忠志と叶も帰ってきた。

 二人ともまずは娘が見つかった事に安堵したが、直ぐに申し訳なさそうな顔で美奈穂を見る。


「……いままで隠していてすまない」


「ごめんなさい……」


 忠志と叶はリビングのダイニングテーブルに座り、向かいに座る美奈穂に対して謝罪する。


「………教えてよ……私の本当の両親の事について……」


「………そうだな」


 忠志は少し悩んだ後、美奈穂の本当の両親について話し始めた。

 この話しは誠実もあまり詳しくは聞いた事が無い。


「父さんと母さんの高校時代からの友達だった……」


 忠志が話し始めると、叶は写真を出して美奈穂に見せる。

 そこにはムスッとした表情の若かりし頃の誠実達の両親と、笑顔で笑っている二人の男女が写っていた。


「これ……もしかして親父とお袋?」


「そうだ、大学の夏休みの時の写真だ……美奈穂、この二人がお前の両親だ」


「この人たちが……」


 そこに写っているのは、顔立ちが整っている、爽やかな雰囲気のイケメンと、麦わら帽子を被った、おっとりした雰囲気の美少女だった。

 美奈穂はそんな二人をじーっと見ていた。


「目はお父さん、スタイルの良さはお母さんに似たのね……」


「これは結婚式の写真だ……身内だけでやったんだ」


 ウエディングドレスを着た美奈穂の本当の母親。

 綺麗な人だった、そして同時に誠実はこうも思った。


「なんか……美奈穂に似てるな……やっぱり」


「だろう? しかし、母さんも昔は綺麗だったんだぞ?」


「え!? これ? 別人だろ……」


「うむ、俺も結婚して騙された」


 叶の写真を見て盛り上がる誠実と忠志。

 そんな二人を叶は無言で殴る。


「今はそんな事を言ってる場合じゃないでしょ!!」


「「はい……すんません」」


 誠実と忠志は頭に大きなたんこぶを作り、テーブルに突っ伏して叶に謝罪する。

 その間も美奈穂はずっと写真を見ていた。

 

「これが……本当のお父さんとお母さん……」


 そんな美奈穂を見て、忠志は真剣な表情で美奈穂に話し始める。


「今から14年前の事だ……」


「……うん」


 美奈穂も忠志の話しを真剣に聞き始める。

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