210話



「あーあ、終わっちゃったね」


「夏休みももう少しで終わりだし……あぁ、受験勉強嫌だな……」


 誠実が栞とはぐれたその頃、美奈穂は友人と花火を見て帰る途中だった。

 花火が終わり、美奈穂達は話をしながら会場内を歩いていた。


「まだ夏休みが終わったわけじゃないでしょ?」


「そうだけどさぁ~、この夏休み最後の一週間とか虚しくなるのよねぇ~、あと何日しか夏休みが無いと思うと憂鬱でさぁ~」


「あーそれわかる」


 美奈穂は女子の友人二人と共に話しをしながら歩いていた。

 男子三人はその後ろを歩いており、何やらコソコソ話しをしていた。


「おい! 何もしないまま帰りじゃねーか!!」


「関口! さっさと言っちまえよ!」


「わ、分かってるんだが……タイミングが……」


「「さっさとしろ! このヘタレ!」」


「わ、わかったよ……」


 二人の友人に言われ、関口は勇気を出して美奈穂に声を掛ける。

 

「い、伊敷! ちょっと良いか?」


「ん? どうかしたの?」


 美奈穂は立ち止まり、関口の方を振り返る。


「あ、じゃあ先に行ってるね~」


「また、あとで~関口頑張れよ~」


 空気を呼んだ美奈穂の友人達は、ニヤニヤしながらそんな事を言って先に歩いて行った。

 美奈穂はこの時点で、今から関口が何を言うかが予想出来てしまった。

 人通りの少ない場所に移動し、美奈穂と関口は向かい合う。

 美奈穂にとっては今までも何度も経験したこのイベント。

 正直に言ってしまうと、答えは決まっていた。

 

「あ、あのさ……い、伊敷って……付き合ってるやつとか居るのか?」


「居ないけど……なんで?」


「そ、それは……」


 関口は顔を真っ赤にして口ごもる。

 美奈穂はそんな関口を見ながら、早く言わないものかと若干イライラし始める。

 別にイライラしているのは、関口のせいだけではない。

 大方の理由は、誠実と栞が一緒に居るのを見てしまったからだ。

 しかも、栞のあの言葉に美奈穂の怒りは頂点まで来ていた。


「お、俺は……伊敷の事が……」


 そう関口が言いかけた瞬間、美奈穂の視界の中にとある人物の姿が写り込んだ。


「俺は伊敷の事が好きなんだ!!」


 関口がそう言った瞬間、美奈穂は関口では無く誠実を見ていた。

 誠実は美奈穂達から少し離れた屋台の裏側にいた。

 しかも誠実は綺凛と一緒にいた。

 関口の勇気を振り絞った告白だったが、その言葉は美奈穂には届いていなかった。

 それどころか、美奈穂は今関口を見てすらいない。


「えっと……い、伊敷?」


「え? あ、ごめん、なんだっけ?」


「ま、マジか……」


 関口は真っ赤だった顔を元に戻し、肩をガックリと落とす。

 しかし、美奈穂はそんな関口の事よりも今は誠実の事が気になって仕方なかった。


「も、もう一回言うけど……俺、意識の事が好きなんだ!」


「ごめん、私そういうの興味ないから」


「即答!? 早すぎない!」


「ごめん、それと急用思い出したから、もう行くね」


「しかも帰るの!?」


 美奈穂は関口にそう言うと、誠実の元に向かって小走りを始めた。

 関口は美奈穂に一瞬で振られ、その場に膝をつく。

 傍の茂みで様子を伺っていた、美奈穂の他の友人達はなんとも気まずそうな顔で様子を見ていた。





 誠実は綺凛と共に、、栞を探していた。

 屋台の通りを探したり、元来た道を探してみたりと二人であっちこっちを歩き回っていた。


「居ないね」


「どこに行ったのかしら……」


 美沙の姿もなかなか見つからず、二人は途方に暮れていた。

 広い会場の中を誠実と綺凛は当てもなく探し回る。

 そんな中、誠実はこの状況を若干喜んでいた。 

 振られたとは言え、憧れの人と一緒というこの状況を喜ばない方が無理であろう。


「向こうを探してみようか」


「そうだね……でも本当にどこに……」


 綺凛はキョロキョロと周囲を見ながら、会場を歩き回る。

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