211話

 誠実も周囲を注意深く見ながら栞を探す。

 どこを見ても、栞も美沙もどこにも見当たらない。

 一体二人はどこに行ってしまったのだろうかと考えながら誠実は綺凜と共に歩き続ける。


「山瀬さん、時間は大丈夫? けっこう時間遅いけど……」


「えぇ、大丈夫です。どうせ家には私一人ですので」


 時刻は22時近かった。

 夜から深夜になりつつあり、高志は少し焦っていた。

 遅くまで栞を一人にしておくのが心配であり、また出会った時のように、よからぬ連中に絡まれていないかが心配だった。


「……先輩」


「えっと、一つ聞いても良いですか?」


「え? 何かな?」


「誠実君は先輩の事が好きなんですか?」


「え!? と、突然何を……」


「あ、いや……一緒に花火なんて……まるで恋人同士みたいだなって……」


 誠実は少し複雑な気持ちだった。

 振られた相手から、そんな事を聞かれるなんて思ってもいなかった誠実。

 正直にただ遊びに来ただけだと言おうと思った誠実だったが、そこで誠実は先ほどの栞の言葉を思い出す。


『誠実君……私、貴方が好きみたいです』


 その言葉を聞いてしまった誠実は気がついてしまった。

 栞からそう言われた瞬間、誠実の脳裏には綺凜が写っていた。

 それで誠実は気がついた、自分はまだ綺凜の事が好きだという事に……。

 だからこそ、誠実は栞の気持ちに応えることは出来ない。


「山瀬さん……俺と先輩はそういう関係じゃないよ……」


「そ、そうだったんだ……ご、ごめんね変な事を聞いて」


「いや、良いよ。それにしてもさ……山瀬さん」


「はい?」


「告白を断るのって……大変だね」


「え、急にどうしたの?」


「いや……なんか、ここ最近さ、山瀬さんの気持ちがわかる気がするんだ……」


 誠実はどこか寂しそうな表情で空を見ながら、綺凛にそう言う。

 そんな誠実の言葉に、綺凛の胸もなんだか痛くなった。

 綺凛にしつこく告白してきた誠実は、告白を断られることの辛さは嫌というほどわかってはいた。

 しかし、誠実は最近になってようやく気がつた。

 好意を向けてくれた相手の好意を真っ向から否定することの辛さを……。

 だから、誠実は今頃になって反省していた。

 あれだけの告白を綺凛にしていた事を……。


「やめよう……ごめん、変な話だったね」


「ううん、大丈夫。早く二人を探そう」


「………そうだね」


 誠実と綺凛はそう言うと、再び二人は栞と美沙を探し始めた。





「栞先輩って、お金持ちなんですよね? だったらお連れさんを探してもらえないんですか?」


「多分、今頃血眼になって探してるわ……」


「なんで血眼で?」


「色々ありまして……」


 栞と美沙は誠実達とは反対側の出口に居た。

 出口に居れば、いつかやって来るのではないかと思ってのことだが、なかなか二人は現れない。

 栞の家の執事である義雄も会場を探しているようなのでが、いまだに連絡が無い。


「栞先輩は誰とお祭りに?」


「えっと……お友達ですかね」


「本当ですかぁ~? もしかして彼氏とかぁ?」


「ち、違いますよ。本当にただのお友達です……まだ」


「え、まだ!? まだって言いましたよね!? ってことは、もしかして……」


「………消して誠実君ではありませんよ?」


「じゃあ何なんですかその間は!!」


「き、気のせいですよ……」


「嘘だ! やっぱり誠実君と来てるんだ! ズルいです! 私も誠実君と一緒が良かった!!」


「み、美沙さんはこの前海に一緒に行ってきたんでしょ!? これくらい良いじゃないですか!」


「二人っきりじゃないですもん! それに振られましたもん!」


「え……振られたんですか?」


 美沙の放った一言に、栞は開いた口が塞がらなかった。

 振られたのに、この子はなぜこんなに明るいのだろう?

 先ほど告白し、まだ返事を聞いていない栞は不安だった。

 断られたら、今後も友人として接してくれるのだろうか?

 もちろん栞は、誠実が自分を振っても仲良くしてくれる人だと信じていた。

 しかし、やっぱり怖い。


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