194話

「あれ? あれって……」


 誠実が恵理の荷物を持ちながら後ろをついて行っている途中、誠実は知った顔を見たような気がして、後ろを振り返る。

 しかし、そこに知り合いなどおらず、誠実は気のせいだったのかと恵理の後をついて行く。

「どうかしたの?」


「いや、知り合いがいたような……多分気のせいです」


「じゃあ、次! 行ってみようか!」


「……元気っすね」


 誠実は恵理の後を背中を丸めながらついて行った。

 




「居ないわね……」


「何処行ったんだ? あいつめぇ……」


 誠実が恵理の後ろをついてい歩いている丁度その頃、武司と志保は健を探していた。

 二階のフロアをあらかた探したのだが、それらしい人影は見えず、二人は頭を悩ませていた。


「あぁぁ! 何所行きやがったんだあいつぅ~。折角、女と居るところをネタに弄ってやろうと思ったのにぃ~」


「結局アンタの目的はそれなのね……」


 呆れながらそんな事を言う志保。

 しかし志保も同じような理由なので、あまり武司の事を言えない。

 一年の中で一番のイケメンが、どんな女子と歩いていたのか気になっただけで、別に深い意味は無い。

 今度の部活の話しのネタになると思っていた。


「古沢君って、休みの日って何してるの?」


「えっと……部屋でアイドルのCD聞いたり、ライブ行ったりじゃ無いか?」


「だったら、CDショップに居るんじゃない? 新譜のCDとか買ってるかも」


「なるほど! よし、さそくいくぞ!!」


 CDショップは一階のフロアにあるので、武司と志保はそのCDショップに向かう。

 しかし、そこに健は居なかった。

 いつもより人は多かったのだが、その中に健らしき人影は無かった。


「居ないな……」


「そうね、でもなんでこんなに人が居るのかしら?」


「なんか、ライブに行くときの健みたいな奴がいっぱい居るな……」


 健がライブに着ていくようなハッピを着ている集団がおり、武司と志保はその集団に視線を向ける。

 すると、その連中が何やら騒ぎながら話しをしていた。


「え!? リーダーが帰った??」


「あぁ、なんか知らないけど突然……」


「え、だってリーダーゆきほちゃんメッチャ推してたのに……」


「一体何があったと言うんだ!」


 何かあったようだが、武司と志保には関係無い。

 二人は引き続き、健が居ないかを探す。


「結局居ないな……」


「もう帰っちゃったのかな?」


 ショッピングモール内を二人はブラブラ歩いていた。

 いい加減に疲れてきた二人は、肩をがっくりと落とし、健を探すのを諦め近くのベンチに座り、アイスを食べ始める。


「あいつに彼女なんて……そんな訳は無いだろうしなぁ……」


「決めつけは良く無いわよ。もしかしたら、親戚とか?」


「親戚の女の子とは、関わりを持たないようにしてるって言ってたぞ」


「徹底しているのね……」


 女性と言うものにかなりの苦手意識を抱いている健。

 そんな健が女子と二人でお出かけなんて、武司には想像もつかなかった。

 

「はぁ……もう諦めて普通に買い物しようぜ………ってか、何かまだ買うのか?」


「え? うーん……夏服とか」


「へいへい、じゃあコレ食ったら……ん?」


 コレを食ったらさっさと行こう、そう言おうとした武司だったが、その瞬間に視線の先に健の姿を発見し、話すのをやめる。


「いた!」


「え! ホント?!」


 志保は武司の言葉に反応し、後ろを振り向く。

 そこには健と大きな荷物を持ってフードを深く被った女の子がいた。

 二人は、少し離れて歩き、仲良く歩いているようには見えない。

 武司と志保は二人の後をこっそりついて行く。


「なぁ、どう思う?」


「どうって?」


「いや、関係っていうか……」


「そんなの私が知るわけ無いでしょ、アンタより古沢君と親しく無いし」


「まぁ、そうだよなぁ……じゃあ、女子目線ではどう思う?」


「どうって………まぁ、付き合ってる感じでは無いわね……それに仲良しって感じでもなさそう……あ!」


「どうした?」


「フードで分かり難いけど……かなり整った顔してるわよあの子」


「それはつまり?」


「可愛いって意味」


「クソォォォォォォ!!」


「え、ちょっと! 大きな声出さないでよ!」


 志保の言葉に、武司は急に大声を上げる。

 

「なんでだ! 俺には可愛い女の子なんて寄って来ないのに!! なんで……なんで……ドルオタとストーカーの方には女の子が寄ってくるんだよぉぉぉぉ!!」


「ば、ばか! 落ち着きなさい! バレるわよ!」


 志保は武司をなだめながら、健達にバレて居ないかを確認する。

 友人二人がモテるのに、自分が全くモテない事を武司はもの凄く気にしていた。

 そんな武司にこの状況は辛い。


「大体なんであの二人なんだよ! ドルオタだぞ? スト-カーだぞ? 一番まともなのは俺だろぉぉぉ!!」


「顔じゃない?」


「やっぱりかぁぁぁぁ!!」


 志保にとどめの一言を言われ、武司は地面に膝をつく。

 言った志保も、言葉を発した後に「しまった」と思い、口を手で覆う。

 

「顔かぁ……やっぱり顔なのかぁ……」


「そ、そうとも限らないわよ……せ、性格とかも大事だし……」


「お前が言ったんだけどな、顔じゃ無い? って」


「うっ……あ、アンタも今は私と買い物してるじゃない! 十分でしょ!」


「違う! 俺はもっと優しくて思いやりのある子と………あ」


 勢いに任せて、武司はとんでもない事を言ってしまった事に気がつき、顔を青くする。

 恐る恐る、志保の顔を見ると案の定お怒りのご様子だった。


「悪かったわね……厳しくて、思いやりもなくて……」


「い、いや……その……そう言うことじゃってイタタタ!!!」


 武司は志保に腕を固められる。

 

「アンタみたいな無神経な奴が、モテるわけ無いでしょ!」


「イタタタ!!! 痛いって! 謝るから勘弁して! それと心も痛いから、暴言もやめて!!」


「問答無用! アンタは少し反省しなさい!!」


「ぎゃぁぁ!!! お前だってそんなんだから彼氏出来ねーんだよ!!」


「う、うるさいわね!」


「あ、馬鹿! 痛いって! 取れちゃう!! 俺の腕が付け根から取れちゃう!!」


 精一杯の反撃のつもりだったのだが、逆に状況を悪くしてしまった武司。

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