193話

「まぁ、俺が言うのも何だけど、アイドルやっててこれっぽっちも良かった事が無かったのか?」


「さぁ……どうだったかしらね」


「まぁ、アイドル業ってやつは、人気商売だからな。色々あるのはわかるけどよ。ファンあってこそだろ?」


「そうね、でも私はそれが嫌なの! ストーカーに気持ちの悪い電話! この前なんて家の前までついて来た奴だっていたのよ! もううんざりよ!」


 綾清は頭を抑えながら、眉間にシワを寄せてそう言う。

 コレがあのゆきほちゃんだなんて、ファンが見たら泣き出しそうだな……。

 まぁ、本人にも色々あるんだろうが……ファンでも無い俺が気にする事でもないな……。

 話しながら歩いているうちに、外に出た。

 綾清はキョロキョロと周りを確認しながら、ショッピングモールの外に出て行く。


「じゃあ、もう私一人で大丈夫だから。ここまでありがと、コレは喫茶店でのお金」


「ん…どうも。じゃあな」


 俺はショッピングモールの駐車場で綾清と別れた。

 最後まで自分勝手な奴だ。

 これだから現実の女なんて嫌いなのだ。

 俺は綾清を見送った後、自分も帰ろうと逆の道を歩き始める。

 すると後ろに、見慣れた顔が二つ見えた。

 何やら言い争っているようだ。


「ん? 武司と……古賀か?」





 健が綾清と二人でショッピングモールに入ってからと言うもの、武司と志保は健の事を尾行していた。

 イケメンなのに、女っ気が全く無く、アイドルという存在をこよなく愛している残念なイケメン。

 それが健の学校での印象だった。

 その整った容姿と、落ち着いた性格が人気で、入学当時は女子生徒から告白されまくり、男版山瀬綺凜と呼ばれていた。

 しかし、健はハッキリしていた。

 告白してくる女子が、可愛い可愛く無いに関わらず、全員にこう言っていた。


『俺、アイドルにしか興味無いから』


 この言葉で、ほとんどの女子は健はアイドルオタクである事み気がつき離れて行く。

 今では健のドルオタぶりが校内に知れ渡り、告白してくる女子生徒はあまりいない。


「で、健は何をやってんだ? それに隣のあの子は……」


「ねぇ……どうでも良いけど、なによアンタのその帽子」


 武司と志保は、健の後ろを尾行して追いかけていた。

 近くの店で買った帽子を頭に被り、二人は健と隣を歩く少女の後を追いかけていた。


「何って……カッコイイだろ?」


「ダサイわよ! 何よ、その男って書かれた帽子は! もっとマシなのあったでしょ!」


「はぁ!? コレの何所がダサイんだよ!」


「全部よ!」


 武司の買って来た帽子は黒をベースに、帽子のつばの上に「男」と赤い文字でプリントされた物だった。

 対して志保は、普通の麦わら帽子を購入し、それを深く被っていた。


「んなことどうでも良いだろ! 今は健だろ!? ……って、見失ったじゃねーか!!」


「アンタが変な帽子なんか被ってるからでしょ!」


「人のせいにするんじゃねー!!」


 言い争っているうちに、二人は健の姿を見失ってしまった。

 二人は溜息を吐き、健が誰と一緒に居たのかを考え始める。


「一体誰と一緒だったんだ? あのアイドル馬鹿が……」


「ねぇ、聞いて見たかったんだけどさ、なんで古沢君って女の子が嫌いなの? 折角イケメンなのに」


「あぁ……それはちょっとな……勝手には言えないんだわ……でも、あいつの女嫌いは仕方ないんだ……」


 志保が尋ねた瞬間、武司は何かを思い出し目を伏せる。

 その様子から、志保は何か聞いてはいけないことを察し、それ以上は何も聞かなかった。


「ま、あいつにも色々とあるからよ……あんま詮索しないでやってくれ」


「それはわかったけど……あれだけ女子嫌いな健君が、なんで女の子と居るのよ?」


「それは……俺にもわからん。ただ、あいつが女子と付き合うなんて……今のあいつじゃ有り得ないからな……」


「じゃあ、訳ありって事?」


「多分……なんかあったとしか……それかあの子がアイドル関係の何かって事か……」


「ふぅん……気になるわね」


「おぉ、珍しく意見が合うな」


「じゃあ、そう言う訳で……」


「探すぞ、健を!」


 こうして二人は、健を探し始めた。





 武司と志保が健を追いかけ始めた頃、誠実と恵理はようやくプレゼントの候補を見つけていた。

 一つはアクセサリー、そしてもう一つは写真立てだ。


「うーむ……」


「どうするの? そろそろ二十分だけど」


「もう少しだけ待って下さい」


「むー……私飽きてきたんだけどー」


「じゃあ、またご飯作りに行きますから」


「ホント?! ならもう少し待ってあげる」


「それはどうも」


 誠実は恵理にそう言い、プレゼント選びを再開する。


(そう言えば……あいつの誕生日だって行ってたな……あの日は……)


 俺はとある事を思い出し、プレゼントを決定した。

 誠実はその思い出を思い出した瞬間、プレゼントはコレしかないと思った。


「恵理さん、決まりました」


「お、ようやく?」


「はい、買ってきました」


 誠実は恵理に購入した商品の袋を見せる。


「じゃ、これだけお姉さんを連れ回したんだから、ちょっと今からお姉さんに付き合ってくれるわよね?」


「はいはい、仕方ないですね」


 恵理は誠実にそう言うと、誠実の手を取って歩き始める。

 誠実はそんな恵理について行く。

 あれだけ歩き回ったと言うのに、この人は元気だなと誠実は歩きながら思っていた。


「さて、じゃあ今度はお姉さんのお買い物に行こうか!」


「さっきあれだけ買ってたのに……」


 大学生って金もあるのかな?

 なんて事を考えながら、誠実はまたしてもアパレルショップにつれて行かれる。


「まだ買うんですか?」


「夏服全然買ってないんだもん」


「いや、さっきも買ってたじゃないですか…」


 両手に持たされた、恵理の買い物袋を持ち上げながら、誠実は言う。

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