195話

「お前ら何してんだ?」


「「あ……」」


 声を掛けて来たのは、志保と武司が尾行をしていた健だった。

 呆れた様子で二人を見ながら、健は溜息を吐く。


「今日は厄介な奴らに会うな……お前らは……デートか?」


「「違う!!」」


 健の言葉に志保と武司は声を揃えて否定する。

 三人は近くのベンチに座り、飲み物を飲みながら話しを始めた。

 健は今日の出来事を二人に話し、武司と志保も二人で買い物に来た理由を説明する。


「なるほど、武司はただの荷物持ちか」


「そ、そうよ! 当たり前よ!」


「まぁ、古賀がそれで良いなら俺は何も言わんよ」


「ど、どう言う意味かしら!? 古沢君!!」


「別に」


 顔を真っ赤にする志保を他所に、武司は健の話しの事を考えていた。


「お前の方も色々あったんだろ? それに良いのか? そのアイドル引き留めなくて」


「だって、もう俺ファンじゃねーし」


「そうか? まぁ、お前の昔を知ってるからな……お前のその態度も納得だけど、CDショップの前でお前の仲間らしき人たちが不安がってたぞ?」


「あぁ……あいつらか……」


 健は武司の話しを聞き、改めて悪いことをしてしまったと自分を責める。

 理由はどうあれ、自分の身勝手で仲間との約束をほっぽり出してしまった。

 リーダーと言って、慕ってくれていた仲間を裏切ってしまったと、健は後悔していた。


「あいつらのところに行くだけ行くか……もう今日のライブは中止だろうけど……」


「そうしてやれよ」


 武司に言われ、健は仲間の元に戻る事にする。

 もうライブは中止だろうが、元々約束をしていたことなので、リーダーとして約束を守ろうとCDショップに向かう事にする。


「じゃあ、俺はあいつらのとこに行ってみるわ」


「あぁ、じゃあな」


 健はそう言って、武司達の元を離れて行く。


「しっかし、やっぱりイケメンには美少女が寄ってくるのかね?」


「漫画みたいな展開だったわね…」


「あぁ、しかも普通そこから恋が始まるよな? 始まるどころか後退してるぜ?」


「珍しい展開よね」


「全くだ、俺の友人達は変な恋ばっかりしてるな……」


「アンタは恋すらしてないじゃない」


「う、うるせーな! 俺は好きな人が居ないだけ!」


「あっそ。さーて、買い物の続きをしましょ」


「あ、やっぱり?」


「そうよ、ほら行くわよ!」


「へいへい」


 武司と志保は健が行った数分後に、ベンチを離れた。

 二人は近くのアパレルショップに入り、買い物の続きを始める。





 健は武司達と別れ、一人でCDショップに向かっていた。

 ゲリラライブを聞きつけてか、CDショップ周辺は人が多かった。

 健は人混みの中に入って行き、仲間を探す。


「あ! リーダー! やっぱり来たんですね!」


「あぁ、お前らとの約束を急にすっぽかすのもどうかと思ってな……悪かったな、さっきちょっと色々あってな」


 健は仲間の皆にそう言い、綾清と出会った事を伏せ、今日のゲリラライブは中止かもしれないと、皆に伝える。


「え! マジですか!? リーダーそれはどこ情報ですか!? SNSにもそんな事書いて無いですよ?」


「あぁ……独自ルートだ」


「「「リーダーすげー……」」」


 流石にメンバーの一人の逃亡を俺が手伝ったからとは言えない健。

 上手く説明を済ませて直ぐにその場で解散する事になった。


「なんか残念だな……折角エメラルドスターズの生歌を間近で聞けると思ったのに……」


「仕方ないだろ? 最近知名度も上がってきたから、忙しいんだ」


「そうだよなぁ……」


 ガッカリする一同を見て、健は心が痛む。

 あの時、自分が綾清を説得でもしていれば、今日のライブは予定通り開催されたかもしれない。

 健はまだ綾清は駅に居るだろうかと考え始めた。

 そんな時だった。


「居たか!?」


「居ないっす!! 荷物も無くなってて!!」


「勘弁してほしいよ全く……まぁ、ゲリラライブだから、告知とかしてないのが救いだけど、SNSとかで感ず居てる人がこんなに居るんだぞ?」


「もう一回見て来るっす!」


 恐らくイベントのスタッフだろう、綾清を探しているらしく、急がしそうだ。

 色々な人に迷惑を掛けているなと感じながら、健は考える。

 それに荷担した自分も同罪なのだろうと……。

 しかし、綾清も色々と思うことがあっての事だと、健は知っている。

 知っているからこそ、一方的に綾清を責める事が出来ない。

 

「はぁー楽しみだったんだけどなぁ……」


「またやるかもしれないし、気長に待とうぜ」


 仲間のそんな言葉を聞き、健は走り出した。


「あれ? リーダー??」


「すまん、用事を思い出した」


 健は走り出し、駅に向かっていた。

 向かうのはもちろん綾清のところだ。

 しかし、健は綾清を説得に行くわけでは無い。

 自分が説得しても、綾清の気持ちが変わらない事を何となく感づいているからだ。

 しかし、現状を伝える事は出来るだろうと、健は走り出した。

 ショッピングモールを出て、健は走って駅に向かう。

 歩いていたので、駅に着く前に見つけられるかと思ったが、そうはいかなかった。

 駅に着き、健は綾清を探す。


「どこだ……」


 駅のホーム内を掛け、綾清を探す。

 数分探した時、改札に並ぶ綾清を発見する。


「いた!」


 健は走って綾清の元に向かい、切符を入れようとした左腕を掴んで止める。


「え! な、なに?」


 突然腕を捕まれた綾清は驚き、健を見て目を見開く。

 綾清が話し始める前に、健は綾清を改札から連れ出す。


「ちょっと! 何よアンタ!」


「別に……ただ少し言いたいことがあってきた」


「言いたいこと? 何よ?」


 健は綾清に、今日の会場の様子を伝える。

 ファンが楽しみにしていた事、そして色々な人に迷惑を掛けている事を……。

 しかし綾清は……。

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