そんな事より海に行こう

140話

 七月の最終日、誠実達は海に行く段取りを決める為、集まる事になった。

 場所は学校近くのファミレスで、誠実は一番乗りでやってきていた。

 一応言い出しっぺなので、早めに来た方が良いと思い、早めに来て場所を取っていた。


「うぃーっす、誠実だけか?」


「武司、健、早いな」


 席について、先にドリンクバーを頼み席で待っていると、健と武司が荷物を持ってやってきた。

 8人掛けのテーブルに誠実と武司が並び、その向かいに健が座った。


「で、あと何人来る予定なんだ?」


「女子5人」


「多いな……まぁ女子ばっかりだし、悪い気はしないな~」


「いろいろあって、女子の知り合い増えたからな」


 健と武司もドリンクバーを注文し、雑談をしながら女子を待つ。

 少しして沙耶香と志保、そして料理部の島崎鈴がやってきた。

 鈴は健を見つけると、いち早く健の隣を陣取り、健はそんな鈴から逃げようと立ち上がろうとする。


「どこに行くの? 健君?」


「お前という悪魔から逃げる」


「酷いなぁ~、勉強教えてあげたのに~」


「あぁ、嫌でも頭に入ったよ……だが、俺はお前が嫌いだ!」


「私は大好きだぜ!」


「黙れ! 誠実、俺は聞いて無いぞ! こいつも一緒なんて!」


 鈴はがっちりと健の腕を掴み、健は無表情のまま声を荒げて、誠実に文句をいう。


「え? お前と島崎って仲よさそうだったし、問題無いかと思ったんだが……」


「問題だらけだ! 良いか! こいつは女の皮を被ったうぐっ!」


 話しの途中で、健はとつぜん机に頭をつく形で倒れてしまった。


「健君大丈夫~? もう仕方ないなぁ~よしよし」


「おい健! 大丈夫か!」


 健を身を案じる誠実に、鈴が健の頭をさすりながら答える。


「熱中症だよ~、大丈夫大丈夫、私が隣で介抱するから~」


「熱中症ってそんな症状だっけ?」


 健の隣に鈴が座り、その隣に沙耶香が座り、その正面の武司の隣に志保が座った。

 そして程なくして、綺凜と美沙がそろってやってきた。


「ごめんね~ちょい遅れちゃった」


「大丈夫よ、時間通り綺凜はそっちで、美沙はこっちに座って」


 沙耶香が美沙と綺凜にそう言い、二人は席に着いた。

 色々と心配していた誠実は驚いた。

 沙耶香が美沙と綺凜を名前で呼んでいるうえに、なんだか自分よりも親しそうだったからだ。


「なんか、そこ仲良いな」


 武司が誠実の疑問を代弁するかのように沙耶香に尋ねる。

 すると、沙耶香と綺凜は笑顔で答える。


「仲良しだよ、色々あってね~」


「そうね、ウフフ」


 一体何があったのだろうと、疑問に思いながら、武司と誠実は本題に入り始める。

 どこの海に行くか、そしてどこに宿泊するか、日程の調整などが主な話し合いの内容だった。


「…海水浴場と宿はここで決まりだな……問題は日程だが、皆行けない日とかある?」


「俺はお盆以外なら、女性陣は?」


 誠実の質問に、武司が答える。

 ちなみに健はいまだに目が覚めず、机の上で寝ている。


「私もお盆以外なら、あとは部活のある日を避けてもらえれば」


「沙耶ちゃん、料理部は夏休みの活動は3回しかないよ?」


「え! 嘘!」


「予定表見てないの沙耶香? 絶対に大丈夫よ」


 料理部の面々は全員お盆以外ならいつでも大丈夫な様子だった。

 美沙と綺凜もお盆以外なら大丈夫らしく、本格的に日程を決める段取りに入り始めた。


「じゃあ、お盆の後か前でどう?」


「あ、それならお盆前ににしてもらっても良い?」


 そう言ったのは美沙だった。

 

「俺は良いが、皆は?」


「別に問題無いわよ」


「私も志保と同じ、大丈夫だよ」


「俺も問題無いけど、何か理由でもあるの?」


 武司が美沙の方を見て尋ねると、美沙は頬を赤らめながら誠実の方を見て答える。


「お盆明けは、誠実君をお祭りデートに誘いたくて」


「「はぁいぃぃぃぃ!?」」


 美沙のまさかの回答に声を上げたのは、誠実と沙耶香だった。


「せ、誠実君! 行くの!」


「え、いや……俺も今言われたし……」


「沙耶香は夏休みの始めにデートしたんでしょ? なら今回は私に譲ってよ」


「そういう問題じゃないよ! 私も誠実君とお祭り行きたい!」


 沙耶香に詰め寄られる、誠実は戸惑い、美沙はニコニコしながら誠実に視線を送っていた。 志保はそんな様子を見ながらため息をつき、綺凜は苦笑いでその様子を見ていた。


「はいはい、今はそんな事よりも日程を決める方が先だろ?」


「うぅぅ……」


「まぁ、それもそうだね」


 武司の言葉に、沙耶香は悔しそうな顔をしつつも武司の言うとおり、席に座り、美沙もそれ以上はなにも言わなかった。


「じゃ、じゃぁ……日程はこの日で……あとは……」


 その後は何の問題も無く予定が決まった。

 思ったよりもスムーズに予定を組むことが出来たおかげで、そこまで時間が経っておらず、このまま解散ももったいないので、雑談する事になった。


「そういえば古沢君の意見聞かづに決めちゃったけど、大丈夫かな?」


「あぁ、こいつはバイトして金もあるし、日程もほぼ暇人だから大丈夫だろ?」


「うぅ……お、俺は一体……」


「お、目が覚めたか」


 沙耶香と誠実が話しをしていると、ようやく健が目を覚まし起き上がった。


「健君大丈夫~? 予定決まっちゃったよ?」


「げ、まだ居たのか……」


「失礼だなぁ~、げって何よぉ~」


「うるさい、それより予定決まったのか?」


 軽く鈴をあしらいながら、健は誠実に尋ねる。

 聞かれた誠実は、メモしておいた予定を健に見せる。


「おまえは、この日程で大丈夫か?」


「あぁ問題ないが……こいつとは極力一緒に居たくない」


「本当に何があったんだよ……」


 健は隣の鈴を指差しながら誠実に言う。

 誠実は、本当にこの二人に何が合ったのだろうかと思いながら、とりあえず鈴に注意を促す。


「あぁ、島崎…ほどほどに頼む」


「はーい、大丈夫だよ、私と健君仲良いから!」


「良くない」


 健は腕を絡める鈴から逃れながら、淡々と答える。

 そうこうしている間に、隣の沙耶香達がワーワーとなにやら騒ぎ始めた。

 誠実は、隣の武司に何があったのかを尋ねる。


「おい、どうしたんだよ?」


「お前は出て行くな……ややこしくなる」


「は?」


 武司はそう言って飲み物を飲み、深いため息を吐く。

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