141話

 誠実が健と話しをしている間、沙耶香と美沙は先ほどの話しの続きをしていた。


「そんなのずるいわよ! お祭りって言ったら浴衣着れるし! 夜も二人で入れるし! デートよりもチャンス多いじゃない!」


「沙耶香は先に誠実君と二人でデートしたんでしょ? それなら今回は私に譲ろうよ~。その方がフェアだし」


「どこがよ! 誠実君が浴衣萌えとかだったらどうするのよ!!」


 二人の会話を聞きながら、誠実は確かに自分が止めに入ったら更に面倒くさそうになりそうだと、黙って二人の会話を聞いていた。

 周りの志保や綺凜は、もう気が済むまでやったら良いと言う感じで呆れながら二人を見ていた。


「武司、俺ちょっとトイレに行ってくる」


「そうしろ、お前に話しが飛び火したら余計にややこしくなる……」


 誠実は自分に話しが移らないように、二人に気がつかれないように席を立ち、男子トイレに向かった。


「はぁ……でも、そこまで仲悪そうじゃなくて良かった……」


 美沙と沙耶香の事を考えながら、誠実はトイレで用を済ませ、手を洗う。

 するとポケットのスマホが音を立てて振動し始めた。


「電話か…誰だ?」


 手を洗い、ポケットからスマホを取り出し誠実は誰からの着信かを確認する。

 スマホのディスプレイには「伊敷美奈穂」と表示されていた。


「なんだ美奈穂か」


 誠実はそうつぶやき、店の外に出て通話ボタンを押す。


「もしもし? どうした?」


『あ、おにぃ今どこいるの?』


「ファミレスだけど、何かあったか?」


『なんかアンタにお客さんだけど、直ぐに帰ってこれる?』


「お客さん? 誰だ?」


 電話越しの美奈穂は、なんだか疲れているような感じの声で話しをしていた。


『恵理さんよ』


 その名前に誠実は驚いた。

 夏休みの始めに、美奈穂のモデルのバイトで海に行った時に仲良くなった大学生の綺麗なお姉さん、仁科恵理が自分を訪ねて来るなんて思ってもいなかったからだ。


「えっと……二十分もしない内に家に帰れると思う」


『そう、なら帰ってきて、あんまり待たせるのも悪いから早めに』


「おう」


 誠実はそう言って電話を切り、スマホをポケットに閉まった。

 旅行の大まかな日程は決まったし、別に用事が出来て抜けても大丈夫だろうと考え誠実は家に急いで帰る事を選んだ。

 恵理がなぜ自分を訪ねて家に来たのかも気になったので、誠実は急いで席に戻る。


「悪い、ちょっと用事が出来た」


「え? 誠実君帰っちゃうの?」


「悪い、ちょっと俺にお客さんらしくて、じゃあまたな」


「あ! 誠実君!」


 誠実は皆に別れを告げ、自分の分会計分を机において店を出て行った。

 残されたメンバーは誠実の突然の行動に、疑問を浮かべていた。


「怪しいわね……」


 そう口に出したのは美沙だった。

 その意見に沙耶香は同調し、興奮気味に声を上げる。


「確かに! なんで急にお客さんが来るんだろう?」


「いや、なんかあったんだろ? なにがそんなに怪しいんだ?」


 美沙と沙耶香に不思議そうに尋ねたのは武司だった。


「だって…誠実君って、最近いつの間にか女の子と仲良くなってる事が多いから……今回ももしかしてと……」


「どんだけ誠実のこと好きなんだよ……まぁ、確かにあながち間違いではないが……」


 沙耶香の言葉に苦笑いをしながらも、武司は確かにそうかもしれないと思いながらドリンクバーのコップを口元に運ぶ。


「でも、いくら誠実が最近モテると言ったって、それはないだろ?」


 先ほどまで鈴と戯れていた健が話しに混ざって来る。

 もう鈴の事は諦めた用で、鈴が手を絡めていても気にしていない様子だった。


「しかし、確かに気になる、誠実の来客って誰なんだ?」


「中学時代の友達とかか?」


「それなら前もって連絡するだろ? あいつ中学の頃からスマホ変えてないからな」


「だから怪しーって言ってんじゃん!」


 美沙の言うとおり確かに怪しいと思い始めた健と武司。

 

「ま、確かに怪しいけど、あいつの事だからな、くだらねー事だろ?」


「確かにそうだな、笹原と前橋は誠実の事に関して気にしすぎだ」


 やれやれとため息を吐きながら、健と武司は美沙と沙耶香にそう言い、視線を戻す。

 

「恋する乙女は辛いわね」


 志保は微笑みながら、沙耶香に言うと、沙耶香は深くため息を吐く。


「本当だよ……はぁ……」


「まぁ、あんまり好き好き言っても嫌われちゃうし、ほどほどの距離が一番なのよ」


 落ち込む沙耶香に美沙がそう言うと、沙耶香は美沙の方を見て口を開いた。


「美沙だけには言われたくない」


「あはは、それもそうだ。それよりも皆水着買った?」


 美沙が尋ねると、その他の女子全員が買っていないと答えた。


「じゃあ、今から皆で買いに行かない? 必要でしょ?」


「確かにそうね、去年は受験で海に行く暇もなかったし……」


 あごに手を当てながら考え込む志保。

 沙耶香は自分の胸を見ながらなにやらぶつぶつとつぶやき、綺凜は財布の残金を確認し始めた。


「私のサイズ……あるかな……」


「私は良いわよ、お金も大丈夫」


「鈴も大丈夫~」


「じゃあ、今から買いに行きますか~、そこの男二人も付いてくる?」


 美沙に聞かれ、武司と健は手をパタパタと振って答える。


「俺らはこの前買ったから、ここで分かれるわ」


「あぁ、俺もCDアルバムの予約に行かなければならない」


「そっか、じゃあ女子だけで行こうか」


 美沙の提案でその場は解散となり、女性陣は水着を買いに向かい。

 健と武司は帰宅した。

 そして先に帰った誠実はと言うと、汗だくになりながら自転車を走らせ、ようやく家に到着したところだった。

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