136話

「おぉ、やっぱり元が良い子は何を着ても似合うね」


「本当ね~、若いって良いなぁ~」


 呼び込みをすることになり、綺凜は店のユニフォームを貸してもらい、それを着て呼び込みをすることになった。


「じゃあ、早速……と言いたいところだけど、呼び込みで配るビラの改良もしなくてはいけない」


「確かにあれじゃぁちょっと……もう少しカラフルにしてみましょうよ」


「よし! 早速パソコンで!」


 着々と喫茶店の経営回復作戦は進行していった。





「なぁ、誠実」


「なんだよ武司」


 誠実は今、武司と共にゲームセンターに来ていた。


「朝っぱらから呼び出して、男二人でゲーセンに二時間も……なんか現実に戻った気分」


「うるせーっての、お前は良いよな! 昨日はデートで、この前はバイトで海、もう既に夏を満喫しすぎだろ!」


 ゲームセンターのベンチに腰掛けながら、誠実と武司はジュースを飲みながら話していた。 ちなみに健はバイトで居ない、夏のライブのために資金を貯めているらしい。


「俺も女子と海行きてーよぉ~」


「だから、バイトしろって言ったじゃねーか、健は大丈夫そうだけど、お前はどうすんだよ!?」


「新聞配達のバイト短期バイト募集してたから、明日面接言ってくる。来週一週間やれば、旅行代になるだろ」


「以外と考えてたんだな……まぁ、それなら後は日程を決めるだけだな」


 海に行く計画は着々と進行していた。

 メンバーも大体決まって来ており、行く場所の目処も立て始めていた。

 皆の予定もあるので、行くのは8月に入ってからになるが、それでもまだ余裕だった。


「なぁ、そろそろ帰ろうぜ? 流石に飽きた」


「そうだな、俺もバイトしたとはいえ、あんまり無駄遣いはしたくない」


 開店時間から居たので、もう既に誠実と武司はゲームセンターに飽きており、家に帰る相談を始める。


「ん、おい誠実、この通りって近くじゃないか?」


「あぁ、それがどうかしたのか?」


「いや、可愛い子が喫茶店の呼び込みやってるらしくて、今SNSで流れて来てさ」


「へ~面白そうだな、見に行って見るか?」


「そうだな、折角だし見に行って見るか」


 武司が誠実に、見せたSNSの書き込みには「やばい! 可愛いウェイターの女の子が呼び込みやってる!! アイドルレベル!」と書いており、写真にはそのお店を含めた景色が写っていた。

 誠実と武司は面白半分で、その喫茶店に向かって自転車をこぎ始めた。





「よかったらお願いしまーす」


 綺凜と木崎は店の制服である、ワイシャツに黒いパンツ、そしてギャルソンエプロンを腰に巻きビラを配っていた。


「お願いします」


「あ、えっと…は、はい!」


 綺凜が笑顔でビラを渡すと、大抵の男はビラを受け取って店内に入って行った。

 綺凜の容姿につられて入っているのは目に見えてわかったが、それでもお客さんは店の売り上げに貢献してくれるので、今はそれでよかった。

 しかし、ビラを配り始めて数分、問題が発生してしまった。


「た、大変だ!」


「店長さん、どうかしたんですか?」


「実は、客が一気に来たから、私一人じゃ対応仕切れないんだ! 兎に角、一旦二人は中を手伝ってくれないか?」


「え! でも、私はお店の仕事全然わからないですよ?!」


「大丈夫! 注文を聞いてきてもらえればそれで良いから! 兎に角お願い!」


 そう言って、店長に連れられ綺凜は店内を手伝う事になった。

 店内は、ほぼ満席でお客さんがいっぱいだった。


「じゃあ、とりあえず私がメニューを聞いてくるから、綺凜ちゃんも同じようにやってみて」


「あ、わかりました」


 そう言って木崎は、テーブルのお客さんに注文を聞きに行く。

 流れはメニューを聞いて、メモを取り、その後に復唱して間違いないか尋ねて、それを店長に伝える。

 シンプルな流れだが、綺凜にとっては初の接客なので、少し不安だった。


「じゃ、ちょっとお願いね、私はあっちのお客さんの注文取ってくるから!」


「はい!」


 綺凜は緊張しながら、お客さんの元に行き、注文を聞く。


「い、いらっしゃいませ…ご注文はいかがなさいますか?」


「じゃあ、カフェオレとサンドイッチを」


「はい、カフェオレがお一つとサンドイッチがお一つで……」


「はい、それでお願いします」


「かしこまりました。それでは少々お待ちください」


 意外にも失敗せずに難無く注文を取ってくる事が出来た綺凜。

 注文を店長に伝えるために、厨房に向かった瞬間、またしても店長が慌ててやってきた。


「大変だぁ~」


「ど、どうしたんですか?」


「忙しすぎて厨房が回らない! しかも材料も足りない~」


「えぇ! ど、どうするんですか!?」


「どう…しよう……」


 今までここまで混んだ事がない店なので、急な大勢のお客さんに上手く対応出来ない。

 どうしたものかと考えていると、またしてもお客さんが入って来た。


「ここって、喫茶店だったんだな、武司知ってたか?」


「いや、俺は普通に民家だと思ってたからよ、でも可愛い子なんてどこにも居なかったな」


 入ってきたお客さんを見て、綺凜は驚いた。

 そこには、綺凜が良く知る学校の知り合い……いや、友人である伊敷誠実とその友人の武田武司が居たのだから。


「い、伊敷君?!」


「え……えぇぇぇ! や、山瀬さんがなんでここに?」


 驚く綺凜と誠実。

 しかし、今は店の緊急時。そんな事を気にしている場合ではなかった。


「伊敷君! 武田君! お願い! 力を貸して!!」


「「え?」」


 一体どうしたんだと、誠実と武司は二人で顔を合わせて首をかしげる。

 綺凜は二人を店の裏に引っ張り、今の状況を説明する。


「なるほど、この店は山瀬さんの行きつけで、潰れそうなところを山瀬さんがなんとかしようと手伝っていたと」


「そうなの……でも予想外に人が来たから、三人じゃとても対応出来なくて……」


「それで俺たちに協力を求めたって事か……どうする誠実?」


 誠実にどうするかを問う武司。

 しかし、武司は聞く必要が無かったと行った後で気がついた。

 誠実は既に制服を木崎から受け取り、手伝う気満々だった。


「よし! じゃあ俺は店長さんと厨房をする! 武司はチャリで買い出しだ!」


「だと思ったよ……バイト代出してくださいよ~、よし俺も行ってくる! 店長さん、何を買ってくれば良いかメモを書いてくれ、それと資金!」


 綺凜を手伝う事にした二人は、それぞれ行動を開始した。


「見ず知らずの少年達ありがとう! 早速準備をしよう!」


「綺凜ちゃん凄いね、流石可愛いとモテるんだね~」


「そう言うんじゃないです……彼らは……凄く優しいいい人なんです……」


 綺凜は店長と木崎さんに、寂しそうな表情でそう言った。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る