136話
「おぉ、やっぱり元が良い子は何を着ても似合うね」
「本当ね~、若いって良いなぁ~」
呼び込みをすることになり、綺凜は店のユニフォームを貸してもらい、それを着て呼び込みをすることになった。
「じゃあ、早速……と言いたいところだけど、呼び込みで配るビラの改良もしなくてはいけない」
「確かにあれじゃぁちょっと……もう少しカラフルにしてみましょうよ」
「よし! 早速パソコンで!」
着々と喫茶店の経営回復作戦は進行していった。
*
「なぁ、誠実」
「なんだよ武司」
誠実は今、武司と共にゲームセンターに来ていた。
「朝っぱらから呼び出して、男二人でゲーセンに二時間も……なんか現実に戻った気分」
「うるせーっての、お前は良いよな! 昨日はデートで、この前はバイトで海、もう既に夏を満喫しすぎだろ!」
ゲームセンターのベンチに腰掛けながら、誠実と武司はジュースを飲みながら話していた。 ちなみに健はバイトで居ない、夏のライブのために資金を貯めているらしい。
「俺も女子と海行きてーよぉ~」
「だから、バイトしろって言ったじゃねーか、健は大丈夫そうだけど、お前はどうすんだよ!?」
「新聞配達のバイト短期バイト募集してたから、明日面接言ってくる。来週一週間やれば、旅行代になるだろ」
「以外と考えてたんだな……まぁ、それなら後は日程を決めるだけだな」
海に行く計画は着々と進行していた。
メンバーも大体決まって来ており、行く場所の目処も立て始めていた。
皆の予定もあるので、行くのは8月に入ってからになるが、それでもまだ余裕だった。
「なぁ、そろそろ帰ろうぜ? 流石に飽きた」
「そうだな、俺もバイトしたとはいえ、あんまり無駄遣いはしたくない」
開店時間から居たので、もう既に誠実と武司はゲームセンターに飽きており、家に帰る相談を始める。
「ん、おい誠実、この通りって近くじゃないか?」
「あぁ、それがどうかしたのか?」
「いや、可愛い子が喫茶店の呼び込みやってるらしくて、今SNSで流れて来てさ」
「へ~面白そうだな、見に行って見るか?」
「そうだな、折角だし見に行って見るか」
武司が誠実に、見せたSNSの書き込みには「やばい! 可愛いウェイターの女の子が呼び込みやってる!! アイドルレベル!」と書いており、写真にはそのお店を含めた景色が写っていた。
誠実と武司は面白半分で、その喫茶店に向かって自転車をこぎ始めた。
*
「よかったらお願いしまーす」
綺凜と木崎は店の制服である、ワイシャツに黒いパンツ、そしてギャルソンエプロンを腰に巻きビラを配っていた。
「お願いします」
「あ、えっと…は、はい!」
綺凜が笑顔でビラを渡すと、大抵の男はビラを受け取って店内に入って行った。
綺凜の容姿につられて入っているのは目に見えてわかったが、それでもお客さんは店の売り上げに貢献してくれるので、今はそれでよかった。
しかし、ビラを配り始めて数分、問題が発生してしまった。
「た、大変だ!」
「店長さん、どうかしたんですか?」
「実は、客が一気に来たから、私一人じゃ対応仕切れないんだ! 兎に角、一旦二人は中を手伝ってくれないか?」
「え! でも、私はお店の仕事全然わからないですよ?!」
「大丈夫! 注文を聞いてきてもらえればそれで良いから! 兎に角お願い!」
そう言って、店長に連れられ綺凜は店内を手伝う事になった。
店内は、ほぼ満席でお客さんがいっぱいだった。
「じゃあ、とりあえず私がメニューを聞いてくるから、綺凜ちゃんも同じようにやってみて」
「あ、わかりました」
そう言って木崎は、テーブルのお客さんに注文を聞きに行く。
流れはメニューを聞いて、メモを取り、その後に復唱して間違いないか尋ねて、それを店長に伝える。
シンプルな流れだが、綺凜にとっては初の接客なので、少し不安だった。
「じゃ、ちょっとお願いね、私はあっちのお客さんの注文取ってくるから!」
「はい!」
綺凜は緊張しながら、お客さんの元に行き、注文を聞く。
「い、いらっしゃいませ…ご注文はいかがなさいますか?」
「じゃあ、カフェオレとサンドイッチを」
「はい、カフェオレがお一つとサンドイッチがお一つで……」
「はい、それでお願いします」
「かしこまりました。それでは少々お待ちください」
意外にも失敗せずに難無く注文を取ってくる事が出来た綺凜。
注文を店長に伝えるために、厨房に向かった瞬間、またしても店長が慌ててやってきた。
「大変だぁ~」
「ど、どうしたんですか?」
「忙しすぎて厨房が回らない! しかも材料も足りない~」
「えぇ! ど、どうするんですか!?」
「どう…しよう……」
今までここまで混んだ事がない店なので、急な大勢のお客さんに上手く対応出来ない。
どうしたものかと考えていると、またしてもお客さんが入って来た。
「ここって、喫茶店だったんだな、武司知ってたか?」
「いや、俺は普通に民家だと思ってたからよ、でも可愛い子なんてどこにも居なかったな」
入ってきたお客さんを見て、綺凜は驚いた。
そこには、綺凜が良く知る学校の知り合い……いや、友人である伊敷誠実とその友人の武田武司が居たのだから。
「い、伊敷君?!」
「え……えぇぇぇ! や、山瀬さんがなんでここに?」
驚く綺凜と誠実。
しかし、今は店の緊急時。そんな事を気にしている場合ではなかった。
「伊敷君! 武田君! お願い! 力を貸して!!」
「「え?」」
一体どうしたんだと、誠実と武司は二人で顔を合わせて首をかしげる。
綺凜は二人を店の裏に引っ張り、今の状況を説明する。
「なるほど、この店は山瀬さんの行きつけで、潰れそうなところを山瀬さんがなんとかしようと手伝っていたと」
「そうなの……でも予想外に人が来たから、三人じゃとても対応出来なくて……」
「それで俺たちに協力を求めたって事か……どうする誠実?」
誠実にどうするかを問う武司。
しかし、武司は聞く必要が無かったと行った後で気がついた。
誠実は既に制服を木崎から受け取り、手伝う気満々だった。
「よし! じゃあ俺は店長さんと厨房をする! 武司はチャリで買い出しだ!」
「だと思ったよ……バイト代出してくださいよ~、よし俺も行ってくる! 店長さん、何を買ってくれば良いかメモを書いてくれ、それと資金!」
綺凜を手伝う事にした二人は、それぞれ行動を開始した。
「見ず知らずの少年達ありがとう! 早速準備をしよう!」
「綺凜ちゃん凄いね、流石可愛いとモテるんだね~」
「そう言うんじゃないです……彼らは……凄く優しいいい人なんです……」
綺凜は店長と木崎さんに、寂しそうな表情でそう言った。
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