デートなんですね......
131話
土曜日の朝、休みだと言うのに誠実は早起きをし顔を洗って、身だしなみを整えていた。
「ふぁ~あ……ん? 誠実、どこか行くのか?」
「ん? あぁ、親父か。ちょっとな……」
誠実の父親である忠志が寝間着姿で、洗面所で髪型を整える誠実に声を掛ける。
「なんだ? デートか?」
「まぁな~」
「おいおい、誠実。嘘は良くないぞ? お前は俺の息子なんだから、そんな素敵なイベントがあるはずないだろ?」
「親父は自分の事をなんだと思ってんだよ……ま、信じるとは思ってねーよ」
誠実はそう言いながら、洗面所を忠志に譲り、リビングに向かう。
リビングには、エプロン姿で朝食を作る叶と部屋着のままソファーでテレビを見る美奈穂が居た。
「あら、どこか行くの?」
「あぁ、ちょっと遊んでくる。昼飯も外で食うから」
「また、健君と武司君? 高校に入ってもあんたら変わらないわね」
「いや、今日は違う奴だよ、映画見に行くんだ」
「あら、そうなの?」
椅子に座りながら、誠実は叶に今日の事を話す。
映画と言うワードを誠実が出した瞬間、美奈穂はテレビから目を離し誠実の方を向いて尋ねる。
「映画って、誰と行くの?」
「あ……いや、その……」
誠実は美奈穂からそう尋ねられた瞬間、海に行った時の中村の言葉を思い出した。
美奈穂には、今日のデートの事は黙っておけと言われた事を思い出した誠実は、適当にごまかそうと言葉を探す。
「ちょっと、クラスの男友達とな……お前は知らない奴だから、名前を言ってもわかんねーよ?」
「ふーん……行ってらっしゃい」
「お、おう」
ジト目で誠実を凝視した後、美奈穂は視線をテレビの方にもどした。
約束は守ったが、誠実は今更ながら、なんで美奈穂に秘密なのかが不思議だった。
その後、誠実は朝ご飯を食べ、家を出て映画館に向かった。
バスに乗り、そこから徒歩数分で映画館に到着する。
「9時10分か……早く来すぎたな」
約束の時間は9時半、20分ほど早く来てしまったが、どこかで時間を潰すにしても微妙な時間だ。
誠実はとりあえず、約束の場所でスマホでも弄って待っていようと考え、約束の場所に向かった。
「あれ?」
誠実が沙耶香との約束の場所に向かうと、そこには既に沙耶香が居た。
まさか自分より早く来ているとは思わず、誠実は急いで沙耶香の元に駆け寄る。
「沙耶香!」
「あ、誠実君」
「悪い、待たせた。早かったんだな」
「う、うん……楽しみで早く来ちゃった」
「そ、そうか……と、とりあえず席取っちまおうぜ」
いきなり上目遣いでそんな事を言われ、誠実は頬を赤く染める。
沙耶香は、青のミニスカートにオフショルダーの白ブラウスと、肌の露出が多く、誠実はそんな沙耶香の格好にもドキドキしてしまった。
「結構良い席だな」
「そうだね、見やすそう。もう中に入れるみたいだけど、中で座って待つ?」
「そうだな、開演時間も10時だし、座って待てるなら、入場しちまおうぜ」
誠実と沙耶香は、飲み物を買い中に入って上映時間を待つことにした。
ちなみに、飲み物の料金は誠実が出した。
一応デートだからと今日は自分が全部出そうと、誠実は決めていた。
もちろん、沙耶香は遠慮し自分で払うと言ったが、誠実はそれを聞か無かった。
「ありがとね、でも奢ってもらうばっかりじゃ悪いよ」
「気にすんなって、沙耶香には色々と世話になってるし。それに一応デート何だし、俺に見栄を張らせてくれ」
「フフ、ありがと、でもあんまり無理しないでね?」
「バイトもして金はあるから心配すんなって」
誠実と沙耶香は、上映が始まるまでの間、雑談をして過ごした。
元々仲が良かった為、会話が途切れることは無く、上映までの時間はあっと言う間に過ぎて行った。
そして、辺りが暗くなり本編前のCMが流れ始め、少しして本編が始まる。
映画のあらすじは、主人公の女の子が好きな男の子に恋をするところから始まる。しかし、その恋が実ることは無く、二人は成長し大人になって再開し、恋が始まると言ったストーリーだった。
(お、ありそうな設定だけど、以外とおもいしろいな……)
最初は誠実もそう思って見て居たのだが、後半になるにつれて、誠実の考えは変わり始めて行く。
(え! なんで包丁持ってるの?! なんで好きな人を後ろから刺すの?! なんで、お前も死ぬんだよぉぉ!!)
物語後半、両思いになった主人公の女の子だったが、彼が他の女と抱き合う姿を見ておかしくなり始める。
そして、主人公の女の子の彼への思いが暴走し、最後は二人で一緒に命を落とすと言うバッドエンドだった。
このエンディングに誠実は驚き、開いた口が塞がらなかった。
「おもしろかったね!」
「え! あ…そ、そうだな……」
上映後、ニコニコしながらそう言う沙耶香に誠実は苦笑いで答える。
きっと正直に感想を言うと、空気が悪くなると思って気をつかってくれているんだろうと思った誠実だったが、周りの他のお客さん達も口々に「おもいしろかった!」とか「まさかあぁなるとわ……」などと口々に言っており、あの映画が誠実以外の人間には好評な事がわかった。
「なんでなんだ……」
「何か言った?」
「いや、ちょっと自分の価値観がおかしいのかと思って……」
「ん?」
映画の評価に納得出来ないまま、誠実達は昼食を取るために、近くのファミレスに向かっていた。
「時間も丁度お昼だから、込んでるかもな」
「そうだね、それに今日は休日だし」
並んで歩きながら、誠実と沙耶香は仲良く話しをする。
その途中、誠実は周りの視線が少し気になっていた。
周りの声に耳を傾けると、どうやら沙耶香の事を言っている様子だった。
「おい! あの子めっちゃ可愛い! しかもあの胸!」
「やばいな……隣の彼しか? ぱっとしねーな……中途半端って感じ?」
(中途半端で悪かったな!)
心の中でそんな事を叫びながら、誠実はふと沙耶香の方を見る。
確かに、いつも見る制服姿の沙耶香とは違い、私服なのでいつもより可愛く思える。
しかも若干化粧もしているらしく、どことなく大人っぽさも感じる。
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