130話

 なんかプロっぽい話しをしている、なんてことを思いながら、誠実は横で水を飲んでいた。 そんな時、誠実のポケットのスマートホンが音を立ててなり始めた。


「あ、すいません」


 誠実は席から立ち上がり、外で電話に出た。


「もしもし?」


『あ、もしもし? 誠実君?』


「あ、沙耶香か…どうかした?」


『うん、明日の事で色々話したくて……今大丈夫?』


「あぁ、悪い今は出先で、家に帰ってからかけ直してもいいか?」


『あ、そうなんだ、ごめんね、大丈夫だよ、外食にでも行ってるの?』


「いや、ちょっとバイトで二日間泊まりで海にな」


『へぇ~そうなんだ、じゃあ今は帰り?』


「あぁ、美奈穂と一緒にこれから飯を……」


『み、美奈穂ちゃん!?」


 美奈穂の名前を出した瞬間、沙耶香は大声を上げた。

 誠実は沙耶香の突然の大声に驚き、咄嗟に電話を耳から話す。


「ど、どうした?」


『え、えっと、なんで美奈穂ちゃんと?』


「あぁ、このバイトを紹介してくれたのが美奈穂でな……」


 誠実はこのバイトをするに至った経緯を説明する。


「……てな訳で、今はその帰りなんだ」


『そ、そうなんだ……じゃ、じゃあ…また……後で……ね…』


「お、おう……どうしたんだ? 急に暗くなって…」


 誠実は通話の切れたスマホの画面を見ながら、首をかしげる。

 何か沙耶香に対してまずい事を言ったであろうかと考えるが、そんな事を言った覚えのない誠実。

 とりあえず今は昼食を取ることにし、誠実は美奈穂と中村の元に戻っていった。





 沙耶香は自室にて、スマホを持ちながら震えていた。


「ま、まずい……」


 夏休みが始まってまだ一週間も立たない内に、沙耶香は出遅れたと感じていた。

 まさか夏休み入って直ぐに、美奈穂が動くとは思わなかった。

 約束を取り付けた自分が、一歩リードだと思って居たのだが、それは油断だったと沙耶香は気がつく。


「こ、これは明日は私も何かしなければ!!」


 このままでは、美奈穂に誠実を取られ兼ねないと思った沙耶香は、明日着ていく服を再び考え始める。

 

「この夏が勝負!」


 そんな事を一人つぶやきながら、沙耶香はクローゼットを開けて服を引っ張り出し服を選び始める。





「それじゃあ、お疲れ様~」


「どうも二日間お世話になりました。それじゃあ」


 誠実と美奈穂は自宅に到着した。

 行き帰りの運転をしてくれた中村にお礼を言い、家の前で下ろしてもらった。

 中村は直ぐに来るまで帰っていき、誠実と美奈穂は自宅に帰宅した。


「あぁ~なんか帰って来たって感じだな……」


「帰ってきたんだから当たり前でしょ、ただいまぁ~」


 玄関の戸を開け、家の中に入る。

 すると、誠実と美奈穂の母親である叶(かなえ)がソファーでくつろぎながらテレビを見ていた。


「あら、お帰り。どうだったの撮影は?」


「いつも通りだよ、それよりおにぃの方が他の子を変な目で見るから、そっちの方が心配だった」


「はぁ~、やっぱりお父さんの子だものね……」


「別に見てねぇよ! 全く、土産買って来てやったのによぉ……」


「あら気が利くわね、お父さんの子なのに」


「親父って一体昔何があったんだよ、そっちが気になってきたわ……」


 誠実はお土産のお菓子を母親に手渡し、そのまま自室に戻る。 

 荷物を置いて、誠実は早速給料の確認を始める。


「おぉ! 本当だ、結構多いな」


 予想していた金額よりも一万ほど多く、誠実はうれしさで顔がにやけてしまった。

 これで明日は安心してデートに迎える、そう考えた時に誠実は沙耶香に電話をかけ直す事を思い出した。

 誠実はスマホを操作し、沙耶香に電話を掛け始める。


「あ、もしもし?」


『もしもし、誠実君?』


「あ、今大丈夫? 俺帰って来たから、かけ直したんだけど」


『うん大丈夫だよ、明日の集合場所とか時間とか決めたくてさ』


「あぁ、そうだなぁ……」


 誠実と沙耶香は、電話で明日の集合場所と時間を話し合い、何時の上映かの確認などをした。


「……じゃあ、その時間に映画館の前で待ち合わせって事で」


『うん、いいよ。……あと、聞きたい事あるんだけど良いかな?』


「ん? どうした?」


『や、やっぱり……その……モデルさんは綺麗だった?!』


「……え?」


 いきなり何を言っているのだろう? 誠実にはそう思えた。

 綺麗かどうかと言われれば、確かに綺麗なモデルさんや可愛いモデルさんも居たが、なぜそれを沙耶香は今聞いたのか、誠実は不思議だった。


「いきなりどうしたんだよ? まぁ、確かに可愛い人とか綺麗な人ばっかりだったけど…」


『や、やっぱりそうだよねぇ……』


(いや、だからどうしたんだよ……)


 などと思いながら、誠実はなんと答えたものかと頭を悩ませていた。


『せ、誠実君……あのね』


「お、おう」


『私は今、ヤキモチを焼いています』


「は、はい?」


『なので、明日はいつも以上に甘えます! 良いですか?!』


「いや、質問の意味が……」


『良いですか!!?』


「ど、どうぞご自由に……」


 誠実は沙耶香の勢いに負け、沙耶香の頼みを了承する。


『で、でわ、また明日』


「あぁ…明日」


 そう言って沙耶香からの電話は切れた。

 誠実は一体何だったのだろうと首をかしげる。


「水でも飲んでくるか……」


 長話をしてしまい、喉の渇いた誠実は、部屋を出て冷蔵庫に飲み物を取りに向かった。

 一階のキッチンに向かうと、そこには部屋着姿で牛乳を飲む、美奈穂が居た。

 叶は買い物に行ったらしく、居なかった。


「俺にも牛乳くれ」


「ん、コップ」


「ほいほい、じゃあこれによろしく」


「ん」


 美奈穂は誠実が出してきたコップに、持っていた紙パックの牛乳を注ぐ。


「どうも、お前も水分補給?」


「まぁね、ちょっと二日間つかれたから、今から寝るのよ」


「まぁ大変そうだったしな……雑誌はいつ発売なんだ?」


「何? 買うの? 女性向けのファッション誌を? 残念ながら、私が載る雑誌と恵理さんの載る雑誌は違うわよ?」


「は? 何を言ってんだよ、お前が乗る雑誌だよ。毎回買ってるのバレちまったし、書店に通うより良いだろ?」


「な……そ、そう……確か来月の中旬よ…」


 誠実の言葉に、美奈穂は顔をそらして表情を誠実から隠す。

 赤くなった顔を冷まそうと、顔をパタパタ仰ぎながら、美奈穂は誠実の質問に答える。


「そっか、じゃあまた買いにいくか……」


「恥ずかしいなら、無理に買わなくても良いけど……」


「ここまで集めたしな、それになんか結局買っちまいそうだし」


 笑顔でいう誠実に、美奈穂の頬は更に赤くなる。


「そ、そう……わ、私もう行くから!」


「あぁ、お休み」


 美奈穂はそう言って、二階の自室に戻って行った。

 残された誠実は、牛乳を飲みながら明日の事を考える。

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