99回告白したけどダメでした

124話

　時刻は丁度お昼になり、スタッフをはじめモデルの皆が弁当を食べ始めた頃、中村は再び誠実の元にやってきていた。

「お兄さん」

「あ、お疲れ様です。どうかしましたか？」

「いえね、美奈穂ちゃんの事なんだけど……」

「あ、もしかして何か言ってくれたんですか？」」

「まぁ……一応ね」

「あいつ…機嫌直りましたかね？」

　そう聞かれ、なんと答えたものかと考える中村。

　機嫌はもちろん直っていない、むしろ悪いままだ。

「いやね……その……なんて言うのかしらね……」

「あ、大丈夫ですよ。どうせ頑固でまだ怒ってるんですよね？　なんとなく察しがつきます」

「そうなのよ……でも、お兄さんも少しデリカシーがないんじゃない？」

「まぁ、そうですよね……」

「あら？　自覚はあるのね」

「まぁ、考えて見ればあいつを起こして隣のベッドに行くように言えば、こんな事にならなかったのかなって……妹って言っても難しい歳頃ですから、そこは配慮するべきだったかなと……」

(お兄さんはお兄さんで反省しているのね……)

　誠実の話しを聞き、中村はやはり美奈穂が理不尽に怒りすぎなのではないかと思い始める。　やはり誠実も健全な男の子だ、綺麗な年上のお姉さんに興味があってもおかしい話しではない。

「お兄さんは本当に美奈穂ちゃんの事が大事なのね……」

「えぇ、一応兄妹ですし…」

　そう一言だけ残し、中村は今度は美奈穂の元に向かう。

　美奈穂はモデル仲間の子達とお弁当を食べていた。

　あからさまに不機嫌な美奈穂に、他のモデルの子達は表情を引きつらせながら弁当を食べていた。

「えっと……美奈穂なんかあった？」

「別に…なんでも」

「いやいや、なんかすっごい不機嫌じゃん！」

「私らで良かったら、相談のるよ？」

　なにやら話しをしている様子で、中村は声を掛けるタイミングを隠れて伺っていた。

　会話の聞こえる距離で、中村はこっそり美奈穂達の会話を聞く。

「へぇ～、昨晩そんなことが……」

「そうよ、あれは女だったら誰でもいいのよ」

　おそらくあれと言うのは誠実の事だろう、美奈穂は昨晩の出来事をモデル仲間の子達に愚痴っていた。

「でも、そんな人には見えなかったけど？　昨日私の撮影が終わった後にドリンク差し入れてくれたし」

「あ、私ももらったよ。結構気が回るよね～」

「そんなの好感度稼いでるだけよ、それにそんなの仕事だからでしょ？」

「でも、自腹切ってたし、普通にお兄さんからの差しれっぽかったよ？　『美奈穂と仲良くしてくれてありがとう』って言われたし」

「え……」

　その言葉に美奈穂は驚く。

　少し離れたところで聞いていた中村もそんな事をしていたのかと驚いた。

「優しい人だと私は思ったけどなぁ～」

「あんなお兄さんだったら欲しいかもね、うちの兄貴なんてそんな事絶対しないし」

「……そうなんだ」

　照れているのか、それとも少し言い過ぎたと反省しているのか、美奈穂うつむいてしまう。

「まぁ、ヤキモチ焼くのもわかるけどさ、そこは多めに見てあげたら？」

「は、はぁ？　な、あんで私がヤキモチなんて！」

　ヤキモチと言うワードに反応し、美奈穂は勢いよく顔を上げて否定する。

　モデル仲間の女の子達は、やれやれと言った表情で、美奈穂に言う。

「いや、バレバレでしょ？」

「撮影中もお兄さんと恵理さんのことガン見だし」

「機嫌も悪いしね」

　図星をつかれ、美奈穂はう～っと唸りながら黙ってしまう。

　モデル仲間の女の子達は、前から美奈穂が誠実を好いている事を知っていた。

　話す内容の節々に誠実が出てくる上に、今回の美奈穂の言動で納得がいったのだ。

「それにしても、美奈穂がお兄ちゃん子だって知った時はびっくりしたな～」

「だから！　別に私は！」

「はいはい、わかったわかった。でも、仲の良い兄妹ってのも珍しくないから良いんじゃない？　仲良くて悪い事なんて無いでしょ？」

「それはそうだけど……」

「いいなぁ～、私の兄貴と交換してよ。私も優しいお兄ちゃんが欲しい～」

「嫌よ、アンタのお兄さんの方がスペック高いわよ、俳優なんでしょ？」

「うん、でもすっごい腹黒いし意地悪」

「それ聞いたらファンが泣きそうね……」

　美奈穂は皆に言われ、少し言い過ぎだったかなと反省する。

　そんな様子を遠目で見ていた中村も、この様子なら近いうちに仲直りするだろうと、一安心し自分も昼の休憩に入ろうとする。

「心配しなくても良かったかもね」

　そんな事をつぶやきながら、中村は弁当とお茶を持ってスタッフ達が昼飯を食べている場所に向かう。

　すると、そこには先ほどまで撮影をしていた恵理が、昼休憩に戻って来ていた。

　しかも隣には、誠実が居る。

　その光景に、中村はまたしても嫌な予感がした。

「え、恵理ちゃん？」

「あ、中村さん。どうかしましたか？」

「いえ大した事じゃないの、誠実君と随分仲良いなと思ってね」

「俺ですか？　いや、ただ単に俺の話し相手になってくれてるだけですよ。俺は完全にここじゃよそ者ですから」

「そうだね～、お姉さんの事をエロい目で見る誠実君はよそ者だね～」

「関係なくないですか？　それにそんな目で見てません」

「ふ～ん、じゃあお姉さんの体は魅力が無いと～？」

「だからそんな事言ってませんって！！」

　誠実をからかう恵理と、そんな恵理に笑いながら答える誠実。

　中村はそんな二人を見て、この場に美奈穂が居なくて本当に良かったと感じる。

　しかし、中村の嫌な予感はあろう事か当たってしまう。

「あ、美奈穂ちゃん」

「えぇ！！」

「なんで中村さんが驚くんですか？」

　恵理が、こちらにやってくる美奈穂を見つけた瞬間、中村は声を上げて驚く。

　そんな中村を恵理は不思議そうに見つめ、誠実はおどおどした感じで美奈穂を見つめる。

　そして美奈穂はと言うと、やっぱりどこか不機嫌そうに誠実達の方にやってくる。

「恵理さん、気をつけた方が良いですよ？　そこの獣(ケダモノ)に何されるかわからないんで」

「お前、だからあれは……」

「そうなの？　誠実君、ちょっとお姉さんから離れようか」

「恵理さんまで！！　さっき説明したじゃないですか！！」

「あはは、冗談冗談！　誠実君は本当に弄りがいがあるなぁ～」

　相変わらず仲の良い恵理と誠実。

　そんな二人を見て、中村は背中から汗が噴き出すのを感じ、美奈穂は更に機嫌を悪くする。