123話

「なんでこいつが……」


 誠実自信も若干寝ぼけて居たが、美奈穂の登場で一気に目を覚ました。

 時刻を確認すると、まだ夜中の三時だった。

 起きるには早すぎると思い、誠実は隣のベッドに移動し、再度睡眠を取ろうとする。

 しかし、ここで一つ問題が発生した。


「ん? お、おい離せよ……」


 美奈穂が誠実のTシャツを掴んで離さないのだ。

 誠実はなんとか、引きはがそうとするが、がっちりつかまれ離れない。

 誠実はしょうがないので、Tシャツを脱ぎ、隣のベッドに移動しようとTシャツを脱ぎ始める。


「……ん、う~ん……なに?」


「あ……」


 不運にもTシャツを脱いだところで、美奈穂が目を覚ました。

 数秒の間、誠実と美奈穂は見つめ合い、その後誠実はどんどん汗をかき、美奈穂は顔を赤く染めて行く。

 そして……。


「きゃぁぁぁぁ!!」


 真夜中のホテルに、美奈穂の悲鳴が響き渡った。





「み、美奈穂さ~ん、そろそろ朝食に……」


「一人で行けば、変態……」


「いや、だから違うんだって!!」


 朝になり、美奈穂は布団にくるまったまま出てこない。

 夜の一件で、美奈穂は色々と勘違いをしており、誠実を一通り罵倒した後、布団に包まってふて寝していた。


「何度も説明しただろ? それに兄妹だし、そんな変な気なんて起こさないって」


「じゃあなんで上脱いでたのよ!」


「お前がTシャツ引っ張るからだろうが!!」


 朝から兄妹喧嘩をする二人。

 何度謝っても許してくれない、美奈穂に誠実はだんだん腹が立ってきていた。


「大体、お前見たいな貧相な体に興味なんかねーよ!」


「何よ! 悪かったわね貧相で!!」


 そんな調子のまま、二日目の撮影は始まった。

 誠実は前日同様に雑務をこなし、美奈穂は海での撮影に励む。

 そんな様子に最初に気がついたのは、中村だった。


「どうしたの? ぴりぴりして」


「別になんでもないです」


「なんでも無いわけ無いでしょ? そんなにピリピリして……おにぃさんと何かあった?」


「……別に……なんでもないです」


「あったのね……」


 美奈穂の態度で、なんとなく察しがつく中村。

 このままでは撮影に支障が出るかもしれないと、中村はなんとか二人に仲直りしてもらおうと、二人の話を聞くことにする。

 まずは誠実から、事の経緯を聞こうとしたのだが……。


「あ、あの……なんでしょうか」


「なんでそんなに離れるのかしら?」


 誠実は昨日の一件があり、あまり中村に近づこうとしない。

 中村は酔っていて、そこら辺の記憶がなく、誠実がなぜ自分から距離を取っているのかはわからない。 


「まぁ良いけど、昨日何かあった?」


「な、中村さんとの間には、何もありません!」


「いや、私じゃなくて、妹ちゃんとよ……」


「あ、そっちですか……」


 海の家近くの自販機で、誠実は昨日あった事を中村に話す。


「てな訳で、あいつが誤解したまま俺の話を聞いてくれないんですよ」


「なるほどね……ちなみに本当になにもする気は無かったの?」


「全くないですね、兄妹ですし」


 何の迷いもなく、瞬時に答える誠実。

 そんな誠実の話しを聞き、中村は大きなため息をつく。


「はぁ~、それは美奈穂ちゃんが大げさね……」


「でしょう?! 兄妹なんだし、そんな間違いなんてありえませんよ!」


「なら、私に任せてちょうだい。上手く美奈穂ちゃんに言ってみるわ」


「ありがとうございます!」


 誠実の話しを聞き、中村は続いて美奈穂の方に話しを聞きに向かった。


「美奈穂ちゃん」


「どうしたんですか?」


「昨日の事なんだけどね……」


「あぁ、別に私に実害はなかったんで大丈夫ですよ。兄はトラウマになりかけてましたけど」


「ねぇ、一体私は昨晩何をしたの? そっちの方が気になってきたわ」


 兄妹そろって、自分の身に覚えのない話しをするので、中村昨晩の自分の行動の方が気になって来ていた。

 しかし、今の目的は誠実と美奈穂の仲を修復すること。

 中村は誠実と同様に、美奈穂に昨晩何があったのかを聞いてみる。


「そうなの……」


「はい、なんか恵理さんにデレデレしっぱなしだし、夜は私の事を襲おうとするし!」


「でも、それは誤解なんじゃない? お兄さんだって常識くらいわきまえてるでしょ?」


「昨晩あんな事しに、部屋に来た貴方にそんな事を言われたくありません」


「え、私そんなにやばい事したの?!」


「主に兄にですが」


 誠実達の事よりも、自分の酒癖の悪さの方が心配になって来た中村。

 美奈穂に話しを聞いた感じだと、どうやら美奈穂は誠実が恵理と仲良くしている事に嫉妬している様子だった。

 つまり、ベッドの上での出来事は美奈穂自信にはそこまで問題ではなく、ただ端に誠実が他の女と仲良くしている事が気に食わない様子で、ベッドの上での出来事はただのきっかけに過ぎなかったようだ。

 そう考えると、女性の心を持ち、美奈穂の気持ちを知る中村(男)にとって、この場合は……。


「それはお兄さんが悪いわね」


「そうですよ! バイトの為に来てるのに、他のモデルの子にデレデレして……」


「任せなさい、私がなんとかして、お兄さんに謝罪するように言ってみるわ!」


「中村さん……ありがとうございます」


 中村は意気揚々と美奈穂の元を離れ、海の見える堤防に上り、一人で思う。


(いろいろとミスったぁぁぁ!!)


 誠実にも味方をするような発言をし、美奈穂には誠実に謝らせさせると言ってしまった中村。

 これではどちらにも味方する形になってしまい、どうしようもない。

 中村は自分が男の心と女の心、二つを持っている事をこれほど面倒だと思った事は今までなかった。

 二人の話を聞き、どちらの気持ちもよくわかる為、どちらにも同情してしまったのだ。


「どうしたものかしら……このままじゃ、これからの撮影、美奈穂ちゃんにも影響が……」


 美奈穂は機嫌が悪いと、同時にカメラ写りも悪くなる。

 それを知る中村は、どうにかして美奈穂の機嫌だけでも良くしようと考える。

 しかし、美奈穂の機嫌だけが直ったとしても意味は無い。

 誠実がも納得しなければ、美奈穂の機嫌は直らない。


「はぁ……どうしようかしら?」


 中村は一人、堤防の上に座りながら考え込む。

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