122話
「残念ながら、良い出会いが無くてね。お姉さんは彼氏居ない歴は年齢と一緒なんだよ……」
「な、なんかすいません……」
「全くだよ、モデルって言っても全員リア充って訳じゃないんだからね」
「いや、普通にモテるんだろうなと思って……」
まさかの回答に、誠実は恵理に謝罪する。
年上だからといって、そう言う経験が必ずあるわけではない。
聞いてはいけない事を聞いたのではないかと、誠実は焦ってしまう。
「まぁ、あんまり欲しいって思ったこともないんだけどね」
「そうなんですか?」
笑いながら答える恵理に、誠実は尋ねる。
「だって、彼氏よりも今は遊びたいし、若い今しか出来ない事ってあると思うし、それに彼氏なんて絶対作らなきゃいけないものでもないしね」
「それってただの強が……」
「何か言った?」
「いえ、何も……」
彼氏が出来ないだけのただの強がりでは無いのかと思う誠実だったが、考えて見ると不思議だった。
なんで恵理のような綺麗な女性に彼氏がいないのだろうかと。
正直、求めればいくらでも寄って来そうな気がするものなのだがと誠実は思ったが、あえて口には出さなかった。
これ以上この話しはしない方が良いと思い、誠実は話題を別のものにすり替える。
「そ、そういえば明日は温泉宿に行くって聞いたんですけど、どんなところなんですか?」
「山を越えたところにある旅館だよ。周りも山に囲まれてて、景色が綺麗なんだ~」
「へぇ~そうなんですか、楽しみだなぁ~」
「話し反らしたね?」
「……はい」
この人には勝てそうにないと感じた誠実であった。
*
ロビーで誠実と恵理は別れ、誠実は一人部屋に戻る。
急な事だったので、スマホを部屋に置きっ放しにしてしまったので、美奈穂には何も連絡をしていない。
時刻は23時、明日の日程に少し余裕があるとはいえ、流石に寝てしまったかと思い、誠実は静かに部屋に入って行く。
部屋の中は真っ暗だった。
やはり寝てしまったかと、思い誠実は静かに部屋の中に入って行く。
美奈穂を起こさないようにと、テーブルの上に置かれた小さいライトだけを付ける。
「お帰り」
「うわっ! お前起きてのか……」
電気を付けた瞬間、ベッドに座っていた美奈穂が誠実に声を掛ける。
起きているならと、誠実は遠慮無く部屋の電気を付け、室内を明るくする。
「何してたの? おねえちゃんになったの?」
「ならねーよ! この薄情者! 助けてくれてもいいだろ!」
「まぁ、何もなかったんだし良いじゃない? それより、コンビニ行ってきたの? アイスでも買って来てもらえばよかったな~」
「安心しろ、そう言うと思って、お前の分も買ってある」
「お、気が利くね~」
「うるせぇよ。全く、恵理さんは助けてくれたってのに……」
誠実が恵理の名前を出した瞬間、美奈穂の手が止まった。
「恵理さんと居たの?」
「あぁ、二人でコンビニにな。やっぱりあの人いい人だよなぁ~、気が合うわ」
誠実の言葉に、美奈穂は機嫌を悪くし、誠実からアイスを奪い取って、乱暴に食べ始める。
「お、おい! いきなりどうしたんだよ!」
「別に!! ~~~!!」
「あーあ、言わんこっちゃ無い」
急にアイスを一気に食べてしまい、美奈穂は頭にキーンと来る痛みを覚える。
頭を叩きながら、美奈穂はそれでもアイスを食し続ける。
(どんだけアイス食いたいんだよ……)
誠実は美奈穂の様子を眺めながら、そう思う。
しばらくしてアイスを食べ終わり、美奈穂の機嫌も若干は直っていたが、未だにご機嫌斜めだった。
「あ、俺シャワー浴びるわ。お前は浴びたの?」
「もうとっくに、だから部屋着なのよ」
「あ、そうか。えっと……部屋着部屋着……」
誠実は自分の持ってきた荷物の中から部屋着を探し始める。
なかなか見つからず、ベッドの上に荷物を広げて確認しようとベッドに向かうと、なぜか少し暖かった。
「ん? 美奈穂、お前こっちで少し寝てたか?」
「は、はぁ? そ、そんな訳ないでしょ」
「じゃあ、なぜ視線をそらす。まぁ、良いんだけどよ、こっちの方が寝心地良かったなら、ベッド変えるか?」
「別に大丈夫よ! さっさとシャワー行ってきたら!」
「ん? あ、あぁ……」
なんであんなにご機嫌斜めなのだろうと、誠実は疑問に思いながら、シャワーを浴びる。
ささっとシャワーを浴び、誠実はベッドに戻って行く。
すると、なぜか誠実の方のベッドの上で美奈穂が爆睡していた。
「だから、なんなんだよ……」
ため息を吐きながら、美奈穂に布団を掛ける。
寝顔も綺麗だなと思いながら、誠実は明日の着替えを準備し、反対側のベッドに横になる。 誠実も一日の疲れが出て居たのか、直ぐにまぶたが重くなり、眠りの中に落ちていった。
その日、誠実は珍しく夢を見た。
夢と言っても過去のフラッシュバックのようなもので、昔にあった出来事を見ていた。
『親父……それって……』
『……本当だ……』
『母さんも知ってる……よな』
『えぇ、だからこうしてアンタにも言ったのよ。もうすぐ高校生だしね』
『……そっか……わかったよ。俺は……』
家のリビングだった、誠実は両親から何か話しを聞かされて居た。
その内容を話す前に、誠実は夢から覚めた。
「夢か……」
窓の外はまだ真っ暗だった。
時間を確認しようと、誠実は枕の側に置いたスマホを探す。
しかし、予想外の柔らかい感触が誠実の手の平に伝わる。
「ん? なんだ……柔らかい」
「……ん、や……」
「え……」
何かが隣に居る。
誠実はそう感じ、すぐさま状態を起こし隣の何かを確認する。
「え……なんで?」
そこに居たのは、隣のベッドで寝ていたはずの美奈穂だった。
なぜか誠実の眠るベッドに移動してきており、誠実は一瞬困惑する。
そして誠実がスマホを探そうとして掴んだ柔らかいもの、それは美奈穂の胸だった。
「あ……やばいやばい……」
美奈穂が起きていたら、思いっきり殴られるんだろうなと、誠実は考えながら、手を胸からどける。
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