120話

「いやぁ~流石だな、料理も豪華で上手そうだわ」


 そんなところに、料理を持って誠実が帰って来た。

 豪華な料理にうきうきしながら、誠実はうれしそうに席に着く。


「ん? おいどうした美奈穂、顔赤くないか?」


「そんな事ないわよ」


「じゃあ、なぜ顔をそらす……」


 誠実から顔をそらし、一向に誠実の方を向かない美奈穂。

 そんな美奈穂と誠実を見ながら、恵理は笑みを浮かべる。

 美奈穂の行動に若干の疑問は抱きつつも、誠実は美奈穂と恵理と共に食事を続ける。


「そういえば、誠実君は彼女とか居ないの?」


「え、い…いや……」


 最近振られたり、告白されたりした誠実にとって、この質問はとても答えにくかった。


「あ、でも入学したばっかりだと、そういうことってまだ無いかな?」


「そ、そうですね……あはは」


 恵理の言葉に、誠実は引きつった笑顔で答える。

 これならこれ以上ツッコンだ事は聞かれなさそうだと、誠実が安心していると、やっと前を向いた美奈穂が恵理に言う。


「うちの兄は、夏休み前に失恋しましたよ?」


「おい! なんで言うんだよ!」


「嘘はダメじゃない?」


「こう言う嘘は良くない?!」


 平然とした態度で、誠実の恋愛事情をバラす美奈穂に、誠実は勢いよく言う。

 そんな誠実に、恵理は口元を両手で押さえ、驚きの表情でフォローを入れる。


「だ、大丈夫よ! 高校生なんてこれからじゃない? それに夏休みの間に良い出会いとかあるし……」


「あぁ、それならご心配無く。もう良い出会いなら十分過ぎるほど合ったみたいですから」


「え? それって……?」


「お、おい……お前まさか……」


 誠実は美奈穂が話し出すたびに、何を言うのかとドキドキした。

 そして美奈穂は誠実の予想通り、誠実の最近の恋愛事情をバラす。


「告白されて、今は保留中なんです。しかも二人」


「だから、なんで言うんだよ!」


「嘘は良くないでしょ?」


「美奈穂……俺なんかお前にしたっけ……」


 最近の自分の恋愛事情を知られ、がくっと肩を落とす誠実。

 そんな話しを聞いた恵理は、先ほどまでん笑みとは違い、小悪魔のような悪戯っぽい笑みを浮かべながら、誠実に話す。


「へぇ~モテるんだね、誠実君。やるねぇ~」


「い、いや…そんな事無いですよ。むしろ、この二人からの告白が人生の記念すべき一回目と二回目でして……」


「人生で告白って、そこまでされないと思うけどね~。お姉さん良いこと聞いちゃったなぁ~」


「なんで俺のこの話が良いことなんですか……」


 先ほどからニコニコとからかうように笑う恵理に、誠実は肩を落としてがっくりしながら答える。


「記念すべき三回目は誰だろうね~」


 そう言いながら、恵理はちらりと美奈穂を見る。

 見られた、美奈穂は恵理の視線に気がつき、咄嗟に目をそらした。


「いや、多分もうないですよ。俺は基本モテないですし、今はちょっとモテ期なだけですよ」


 苦笑いをしながら誠実は恵理にそう言う。

 そんな誠実に、恵理はニコニコしながら言う。


「じゃあ、私が三回目になろうかしら」


「え!?」


「はい?!」


 美奈穂、誠実の順で驚きの声を上げる。

 告白同然の発言に、驚く誠実と美奈穂だったが、すぐに恵理の冗談だと気がつき、誠実は恵理に笑顔で言う。


「からかわないでくださいよ、モテない男は一瞬っでも本気にしちゃうじゃないですか」


「あら酷い、私が誠実君をからかっているとでも?」


「実際そうじゃないですか……そんな事より、そろそろ部屋に戻らないと、明日も撮影なんですし」


「うふふ、そうね。じゃあ行きましょうか」


 そんな会話をして、誠実達の食事はお開きになった。

 しかし、美奈穂だけがどこか険しい表情のまま、去って行く恵理を見つめていた。


「美奈穂?」


「え……あ、ごめん。行きましょう」


 誠実に声を掛けられ、美奈穂はやっと動き出した。

 二人はそろって同じ部屋に戻って行く。


「明日は、何時からだって?」


「予定見てないの? 朝の9時に一階のロビーに集合して撮影開始よ」


「あぁ、そっか。じゃあ大分ゆっくり出来るな」


「そうね……」


 ほんのり顔を赤くして答える美奈穂に、誠実は笑いながら続ける。


「しっかし、お前と同じ部屋で寝るなんて、何年ぶりだろうな」


「知らないわよ……全く、変な事しないでよね」


「するか! まぁ、でも偶には良いかもな、兄妹水入らずってのも……」


「最近は良く二人で居るでしょ?」


「あ、考えて見ればそうか……」


 そんな話しをしているうちに誠実達は、部屋に到着した。

 部屋に入ると、誠実はベッドに飛び込み、一気にだらける。


「あ~疲れた……」


「何だらけてるのよ、まったく……」


「仕方ないだろ、気を張って疲れちまってさぁ~」


 ベッドの上に寝たまま、誠実は動かなくなる。

 美奈穂は、椅子に座ってお茶を飲みながら、スマホを操作する。

 やっと訪れた、安らぎの時間。

 しかし、そんな二人の時間を部屋の呼び鈴が壊した。


「ん、誰だ?」


「おにぃ出て」


「は? お前が出ろよ」


「私は今忙しいの」


「スマホ弄ってるだけじゃん……」


 そう言いながらも、誠実は起き上がり、部屋のドアを開ける。

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