114話

「大丈夫よ、部として成立させるのは夏休み明けの二学期から、夏休みの間はその準備をするわ」


「準備?」


 誠実は不思議そうに暁美に尋ねる。

 暁美はホワイトボードになにやら書き始めた。

 その様子を誠実達ただ見ていた。


「まずは、第一に伊敷君には蓬清さんと付き合ってもらいます」


「あぁ、なるほど……ってはいぃ?!」


 いきなりとんでもない事を言われ、誠実は驚き声を上げる。

 何を言っているのか、意味がわからず、誠実は激しく暁美に抗議する。


「一体何を言ってるんですか! 俺と栞先輩が付き合う?? そんなの無理に決まってるじゃないですか! しかも意味がわかんないですよ!」


 そう言う誠実を武司と健はなぜか呆れた様子で見守る。

 そんな誠実に暁美は説明を始めた。


「何も直ぐに告白して来いって言う訳じゃないわ、まずは蓬清さんを落とす為に夏休みを使うのよ」


「いや、そう言われても無理です。あの人と俺じゃ月とスッポンじゃないですか……」


「何いってるのよ、あんなに仲良いくせに」


「別に普通ですよ。なぁ、お前ら?」


 同意を求めようと、健と武司に話しを振る誠実だったが、聞かれた武司と健はため息交じりに誠実に言う。


「「アァーソウダネ」」


「なんで棒読みなんだよ……」


「別に~、まぁお前の鈍感さもここまで来るとな…」


「誠実、少しは周囲に気を配れ」


「なんで俺怒られてるの?」


 同意を求めたはずなのに、なぜか説教じみた事を言われ、誠実は首をかしげる。

 暁美は、そんな誠実に説明を続ける。


「でも仲は良いでしょ?」


「確かに最近は仲良くさせてもらってますけど……」


「じゃあ、夏休み中に一発お願い」


「何を?!」


「良いから、アンタは蓬清さんを落として来なさい!」


「だから、それと新聞部の再建がどう結びつくんだよ!!」


「恋人になったアンタが蓬清さんに頼むのよ、新聞部を復活させてくれって、それで万事解決よ」


「そんな上手くいくわけねーだろ! それに俺はそんな理由であの人の心を弄ぶような真似はしたくない!」


 きっぱりとやらないと言い切る誠実。

 あんな事があった後なので、人一倍そういう事には敏感になっていた誠実。

 どんな褒美を用意されようと、人の思いを弄ぶような事はしたくなかった。

 その気持ちは健と武司も同じようで、誠実に続いて暁美の作戦に対して物申す。


「確かに誠実の言うとおりだ、上手くいかないだろ? 作戦がザルすぎる」


「そうだな、もっと他の作戦はないのか?」


「無いわよ」


(((この人ダメだ……)))


 暁美の返答に、誠実達は全員がそう思った。

 なんでこんな先輩に協力する事になってしまったのだろうかと、誠実達は愚かな自分達を恨む。


「普通に部員集めて部として認めてもらった方が早やいんじゃないっすか?」


「だよな? 新聞部って言ったら結構集まりそうだと思うけど……」


「チラシでも作ってばらまくか?」


「それって学校に許可がいるだろ? 確か……教頭だったかな?」


「どのみち来週から夏休みだし、夏休み中に色々準備して宣伝すれば、3人位ならすぐなんじゃない?」


「あ、あんたら急にやる気出してるわね……まぁ、こっちは良いけど……」


 暁美を置いて、どうやって新聞部を部として認めてもらうかを検討し始める誠実達に、暁美は若干驚く。


「ま、報酬の為ですし」


「誤解も解きたいしね」


「プレミアチケット!」


 誠実達も報酬があるので、そのために頑張ろうと決めていた。

 とりあえずは、夏休み中に何度か集まってチラシを作ったり、必要な書類を用意したりする段取りをする事を決定する。


「ま、そんなとこですかね?」


「時間はあるんですし、気長に行きましょうや」


「なにも50人も集めて来いと言っている訳ではない、出来ない事ではないね」


 意外にも頼りになるなと関心しながら、暁美は三人の提案を了承した。

 そして夏休みの集まる日時を決め、その日は解散となった。


「あーなんか、面倒な事になったな……」


「結構楽しそうだったじゃん、武司」


「馬鹿野郎、俺はその先の報酬の為に頑張るだけだ!」


「そんなに彼女欲しいんだ……」


「あぁ、夏は過ぎてしまうが、上手くいけばクリスマス前には!」


 拳を握りしめ、やる気を出す武司。

 誠実達は現在、学校を後にし帰宅の途中だった。


「俺もあのプレミアチケットは是非とも欲しい、そのためなら何でもする覚悟だ」


「健もアイドルってなると人変わるよね?」


 いつものように話しをしながら帰る三人。

 そんな時、突然武司が話題を変えて誠実に尋ねてきた。


「そういえば、山瀬さんとはどうだったんだ?」


「え……あぁ、えっと……」


 突然そんな事を聞かれ、誠実は顔をニヤニヤと歪ませる。

 そんな誠実の表情を見て、健と武司は何かを察する。


「何があったんだよ、気持ちわりぃなぁ~」


「まぁ、誤解は解けたんだろうな」


「うん、友達になった」


 誠実は今日の綺凜とのやりとりを武司と健に伝えた。


「なんか順序がめちゃくちゃだな」


「だが、本人達がそれで良いならいいだろ?」


 笑いながらからかうように話す健と武司。

 

「あぁ、これでひとまず大きな問題は片付いたよ。それにこれからは普通に山瀬さんと話したり出来ると思うと……俺は……俺は……」


「泣くなよ! よく考えろ、お前フラれてんだぞ? しかも99回!」


「武司放っておけ、本人がそれで良いなら良いだろ?」


 誠実達はいつものようにワーワーと声を上げながら、帰宅していく。

 テストも大丈夫そうで、心配ごとも片付き、誠実は機嫌がよかった。


「なんか食ってくか?」


「いいな! 腹減ったし、たこ焼きなんてどうだ?」


「激しく賛成だ」


「じゃ、たこ焼き食いに行くか! 誠実のおごりで……」


「なんでだよ!!」


「誠実、お前は良い奴だ」


「健もやめろ! 俺も金欠なんだよ…」


 財布を除きながら二人に話す誠実。

 そこで誠実は思い出した、朝の美奈穂の言っていた高給なバイトの事を。


(そういえばどんな内容なのか聞いてないな……)


 帰ったら聞いても見ようと思いながら、誠実は健と武司と共にたこ焼き屋に向かう。

 そして、誠実の財布は空になった。

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