113話
「まぁ、その気にしないでよ! やっぱり好き嫌いはあるし!」
彼は私の表情を伺い、慌ててそんな事を言う。
どうやら、彼は本当に私の事を諦めたのだと、私は気がついた。
ほっとすれば良いのか、悲しめば良いのか、よくわからない感情が私の中にはあった。
そして彼は、私に続けて言う。
「だからさ……その……友達にはなれないかな? 俺たち」
「え?」
突然の彼の提案に、私は顔を上げて彼を見る。
照れくさそうな顔で彼は笑いながら、私に向かって話しを続ける。
「いや……もう俺たちってその……他人とは呼べない関係って言うか……俺たちの関係って 説明するのが難しいじゃん? だから、改めて友達になりたいなって……」
それは告白前になっておく関係ではないのだろうか? などと思った私だったが、全然嫌な感じはしなかった。
今まで、彼には迷惑を掛けっぱなしだった。
その借りを今度は友人として少しづつでも返せればと、私は考えていた。
しかし、私は彼に一つ確認して置かなければならない事があった。
「伊敷君は良いの? その……私は貴方をなんども振ってるし、それに貴方の私にへの想いを踏みにじったのよ? それでも貴方は私と友達になりたいの?」
私がそう言うと、彼はやっぱり笑顔で私に返答してきた。
「俺はもっと山瀬さんと仲良くなりたいかな? 確かに振られちゃったけど、それで今までの関係を忘れて、他人として過ごすのもなんか嫌だし、どうせなら友達になりたいなって……」
本当に彼は優しい、そう改めて私は思った。
普通は、あんな事をした人間とはもう話しもしたくないはずだ。
なのに彼は、いつもと変わらない笑顔で私にそんな話しをしてくる。
「え! ちょっ! 山瀬さん?!」
気がつくと私の目からは涙があふれていた。
今までの人生でここまで他人に思われた事があっただろうか?
そう考えると、私はいままで彼にしてきた事を思い出し、酷く後悔した。
なんでこんなに優しい人に、あんな事をしてしまったのだろう、なんであんな酷いことを言ってしまったのだろう、なぜ彼を信じなかったのだろう。
そんな事をばかり考えてしまう。
気がつくと、彼が私にハンカチを渡してくれた。
「そ、その……あの……そんなに嫌なら……嫌って言ってくれれば……」
どうやら勘違いをしているらしい彼。
私以上に涙を流している。
ハンカチが必要なのは、彼ではないか? なんて思いながら、私は笑顔で彼の誤解を解く。
「私で良いなら喜んで」
彼はそう言った私の顔を見た瞬間、どこかほっとした様子で、床に座り込む。
「はぁ~よかったぁ~……また気持ち悪がられたかと思って、ひやひやしたぁ~」
私は彼から受け取ったハンカチで、涙を拭く。
そして安心する彼を見て、私は強く思った。
彼に少しづつでも償っていこうと、彼の為に出来る事を探そうと。
私は床に座る彼に手を差し出す。
「私、結構面倒くさいよ?」
「大丈夫! 俺も面倒くさいから!」
そう言って彼は私の手を握って立ち上がる。
もっと早くに彼とこうなりたかった。
本音を言えばそうだが、私はこうも思った。
今からでも遅くはないと…。
「で、早速なんだけどさ」
「どうかしたの?」
「美沙の事教えてくれません?」
彼は今現在、美沙に告白されて返事を保留している。
きっとアドバイスが欲しいのだろう。
しかし、私も美沙と出会ったのは高校に入学してからなので、正直そこまで力になれるかわからない。
「私に出来る事なら、協力するよ」
「マジですか、お願いします! 正直あいつがからかってるのか、本気なのかもよくわからなくて……」
「美沙はそういうところあるからね、でも……良い子だよ?」
「悪い奴ではないんだろうけど……う~ん……」
こんな感じで、私たちは友達としての関係を始めた。
*
誠実は上機嫌で新聞部の部室に向かっていた。
「いや~よかったよかった!」
今までモヤモヤしていた事に決着がついたのと、綺凜と友達になれた事が誠実はうれしかった。
まだまだ解決していない問題も多いが、それでも一番の問題が解決し、誠実は内心ほっとしていた。
鼻歌を歌いながら、誠実は新聞部の部室の扉を勢いよく開ける。
「遅れてすんませーん!」
そして扉を開けた誠実は、一瞬のうちに元気がなくなり、目の前の状況を見て言葉を失う。
「ど、どうしたんだ! お前ら!!」
床に倒れる健と武司。
顔色は真っ青で、泡を吹いて倒れていた。
一体何があったのか、誠実は周囲を確認する。
「そういえば、吉田先輩は!?」
「ここにいるわよ」
暁美はまど際で椅子に座って写真を眺めていた。
「こ、これは一体!」
「あぁ、伊敷君が来る間、私が撮ったスクープ写真を見せてたんだけど……ちょっと刺激的過ぎるものがあってね」
「な、何だと! 一体どんな写真なんだ……」
「見る? 正直伊敷君もこの二人みたいになるわよ?」
正直健と武司のようにはなりたくない誠実、しかし写真一枚で人が気絶して泡を吹くなんてありえあない。
逆にどんな写真なんだと興味が勝ってしまった。
誠実は暁美の元まで行き、写真を受け取りおそるおそる写真に目をやる。
そして……
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
誠実は泡を吹いて倒れた。
「あーあ、だから注意したのに」
誠実が見せられた写真には、現代社会の教師である富美登米子(ふみ とめこ)先生63歳が、臨海学校の時に着た、ビキニ写真が写っていた。
年齢的にも相当無理があり、その年の臨海学校で男子生徒は皆元気がなかったらしい。
それからしばらくして、誠実達は意識を取り戻した。
「あぁ~、死ぬかと思ったぜ」
「年を考えて欲しいものだ」
「ビキニって、着る人によっては兵器になるんだな……」
三人が若干トラウマを刻まれたところで、暁美は本題に入る。
「良く集まってくれたわ! それじゃあ、新聞部再建の作戦会議を始めましょうか!」
「「「うぃー」」」
「あんたらやる気出しなさいよ?」
不抜けた声で返事をする三人に、暁美は口元をぴくぴくさせながら言う。
「んな事言われてもなぁ~来週から夏休みだし」
「時間がなさ過ぎる」
ホワイトボードの前に用意された椅子に並んで座る、誠実達三人。
その前で立って話しをする暁美に、健と武司は力なく言う。
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