109話

「お前、最近古賀と仲良いのか?」


「はぁ? 急に何だよ?」


「誠実が言っていたんだ、お前が古賀と仲良く勉強しているところを見たと」


 健は武司に尋ねる。

 武司は特に慌てる様子もなく、いつも通りの様子で健に笑いながら答える。


「あぁ~この前の休みか、なんだよ誠実。声かけてくれれば良かったのに」


「いや、デートかと思って……」


「はぁ? 俺と古賀が? ないない、ただ勉強教えてもらってただけだよ」


 笑いながら答える武司に、誠実と健は本当に何もないのか疑問に思う。

 

「でも、勉強会の時はあんなに仲悪かったじゃん?」


「あぁ……いや、なんか俺も言い過ぎたって言うか……後から仲直りしたっていうか…それにあいつが頭良いのは確かだからな、俺一人じゃテスト勉強も限界あったし……」


 何かを思い出しながら話す武司を見ながら、誠実と健はやっぱり何かあったのではないかと思う。


「それで……恋愛感情的なものは……」


「だから無いっての! 確かに見てくれは良いけどよ、なんか初めて会った時から、どっちかって言うと良い友達って感じでさ、付き合うとか考えられねーんだ」


「あんなに彼女ほしがってたのに?」


「それは欲しいけどよ、古賀はなんか違う気がする」


 武司の言葉から本当に恋愛感情がない事を察する誠実と健。

 誠実は、美沙の言葉を思い出し「全然ちがうじゃねーか」などと思っていた。


「まぁ、それよりも大事なのは誠実の今後だろ?」


「確かにそうだな、結局まだ笹原に対しては何も返答していないのだろう?」


「あぁ……明日にでも言おうとは思ってるんだけど……なんて言えば良いか」


 誠実が美沙への告白の返事を悩んでいる事を伝えると、健がスマホを弄りながら誠実に言う。


「確かに、前橋の事は考えて、笹原の事を考えないなんて言うのはおかしな話しだな」


「あぁ、多分断っても美沙は納得しないだろうから……」


「てか、誠実は実際どっちか好きなのか?」


「いや、正直まだ恋愛感情は……」


「まぁ、前橋の事もあるだろうけど、そこら辺ちゃんと言えばわかってくれるんじゃねーの?」


 武司にしてはもっともな事を言うなと思いながら、誠実は武司の言葉にうなずく。


「それに、中途半端な気持ちで付き合うのは男として失礼だろ?」


「偶にはまともな事を言うんだな……」


「誠実、偶には余計だ」


「アダルトサイトの運営のくせに」


「だから違うって言ってんだろ!」


 とりあえず、武司の言うとおり、誠実は今の気持ちを素直に美沙に伝える事を決める。


「お、次は俺だな、良し今日こそ90点台を目指すぜ!」


「80点も行ってないだろ」


「う……良いんだよ! 目標は高い方が!」


「じゃあ、俺はこの間にトイレに……」


 武司が歌い始めたところで、誠実は部屋を出てトイレに向かう。

 テストが終わったばかりという事もあってか、店内は学生で一杯だった。

 中には見知った顔もちらほら見かけ、声を掛けられたりもした。


「やっぱり皆考える事は一緒だな……」


 誠実はそんな事をつぶやきながら、トイレで用を済まし誠実は自分達の部屋に戻ろうとする。

 そんな時、急に視界が暗くなった。


「だ~れだ?」


 背中から最近よく聞く声が聞こえて来た。

 誠実は息を一つ吐き、呆れたような感じで声の主の名前を呼ぶ。


「何してるんだ? 美沙」


「おぉ~正解正解! ご褒美にハグしてあげよう~」


「要らん、それよりお前に聞きたい事がある!」


 誠実は先ほどの美沙からのメッセージを思い出し、近くに沙耶香が居ないかを確認する。


「聞きたい事? あぁ~あの写真のこと?」


「そうだ! なんで一緒にカラオケに来てるんだよ! しかも俺らと同じ店かよ!」


「いや~なんか成り行きで? それに別に昼ドラみたいな女の醜い争いはしてないから安心して~」


 笑いながら言う美沙に誠実は「醜い争いってなんだよ」と思いながらため息を吐く。

 しかし、いつまでもこうして話している訳にもいかない事に気がつく誠実。

 こんな事をしている間に、沙耶香までここにやって来たら色々と面倒臭い事になってしまう。

 一刻も早くこの場を立ち去るのと同時に、この店からも退散する事を誠実は考えていた。


「悪いが、これ以上状況がややこしくなるのも困るから、俺はここから退散する」


 そう言ってその場を去ろうとする誠実を美沙が肩を掴んで止める。

 

「まぁまぁ、そう言わずに沙耶香にも会っていきなって」


「人の話聞いてた?」

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