108話

「もうこの話はおしまい!! カラオケに来たんだから、歌うわよ!」


 志保はそう言うと、機械を操作にて曲を選び、マイクを持って立ち上がる。


「良い! みんなあんまりこの事は口外しない事! 特にそこの三人!」


 志保は伊智、和波、鈴を指差し注意する。

 言われた三人は、不満のそうに頬を膨らませ志保に抗議する。


「それってどういう意味よー」


「私たちが口外するとでも!?」


「えー言っちゃダメなの~?」


「あんたら三人が一番危ないのよ! 特に鈴!」


 志保が三人に釘を刺し終えると、曲のイントロが始まる。

 志保が選んだ曲は、春に上映していた恋愛映画の主題歌だ。


「あー! 最近色々あってこっちは疲れてんのよ! あんたらこれ以上私を疲れさせないで!」


 志保はそう言い終えると、曲を熱唱し始める。

 しかも志保の歌唱力は高く、普通に上手い。

 その場の全員が、志保の歌声に耳を傾けていた。





 女性陣がカラオケで女子会をしている丁度その頃、誠実達もカラオケ店に向かっていた。

 噂の元である新聞部に行ったは良かったのだが、良いように言いくるめられ、なぜか三人は新聞愛好会を新聞部に戻す手伝いをする羽目になってしまった。


「……んで、どうするよ?」


「う~ん、とりあえず先輩に聞いてみる?」


「蓬清先輩か? そういえば誠実は知り合いだったな」


 歩きながら三人はこれからの作戦を立てる。

 新聞愛好会の部員は現在一名、本来部として認めてもらうには、あと三人の部員と顧問の先生、そして活動内容を明確に示した書類が必要らしい。

 しかし、元々部だった場合は少数でも活動できる事を明確にすれば部として認めてくれるらしい、しかしそれでも部員は最低三人は必要だ。


「ざっくり生徒手帳を読んで見て思ったんだが……先輩に俺が頼んでも、結局部員不足で部として成り立たないんじゃね?」


「そこは明日以降に吉田先輩に聞いてみれば良いだろ? 今日はとりあえず帰れって言われたし……明日から本格的に…」


「そうは行っても、直ぐに夏休みだぞ?」


「「あっ」」


 テストが終わり、明日と明後日でテストはすべて返され、金曜日には終了式。

 時間がとても足りない。


「うーむ、詳しい事は明日話すと言われたが……この少ない時間で何を……」


「だぁー! もうやめようぜ! 明日になればわかる事だ、それよりも今はテストから解放された訳だし! カラオケで歌おうぜ!」


「やけに元気だな、武司は」


「あいつ、最近人が変わったみたいに勉強してたからな……」


 一人ハイテンションな武司を見ながら、誠実と健は静かに後に続く。

 しかし、勉強から解放されてうれしいのは武司だけではない、誠実も健ももちろんうれしいのは確かで、カラオケが楽しみだったりする。


「うわ、すっげー人……誰か予約取ったのか?」


「安心しろ誠実! 俺が既に取ってある」


「流石言い出しっぺだな、じゃあさっさと受け付け済ませて歌おうぜ」


 誠実達はさっさと受付を済ませ、指定された部屋に入って行く。


「さて、何を歌おうかな~」


 武司が曲を選んでいる間、誠実はスマホで通知の確認をしていた。

 何件かメッセージが来ており、誠実は一つ一つ確認する。

 一件目は誠実の父忠志からだった。


(親父? 一体何が……)


『父さんの書類知らんか?』


(いや、なんで俺が知ってると思ったんだよ!)


 誠実は「知るわけ無い」と返信する。

 次のメッセージは美奈穂だった。


(美奈穂? 最近なんか機嫌悪いんだよな……なんだろ?)


『海とか行きたい?』


(は? 急になんだ? 海か……行きたいっちゃ行きたいな……)


 誠実は「行きたい」と返信し、首をかしげる。

 一体どういう意図で、そんなメッセージを美奈穂sが送って来たのか、それが謎だった。

 そして、最後のメッセージは美沙からだった。


(美沙か……どうせいつものどうでも良い連絡だろ?)


 なんてことを考えながら、誠実はメッセージをチェックする。


『ライバルとカラオケNOW』


(………は? ………はぁぁぁぁぁぁ!!!!!!)


 送られてきたのはメッセージだけではなく、写真も一緒に送られて来ていた。

 その写真には、どういう訳か仲良く? 二人でデュエットをする美沙と沙耶香が写っていた。

 誠実はその写真を見た瞬間、背中から汗が噴き出すのを感じた。


(な、何やってんだあの女! なんで沙耶香と?!)


 誠実は現在、美沙と沙耶香から交際を申し込まれて居る。

 しかし、誠実はまだ二人にハッキリとどうするかを伝えては居なかった。

 最初は沙耶香に、考える時間をくれと言ったが、状況が変わり美沙からも告白されてしまった。

 そのことについては沙耶香に説明したが、美沙の告白をにどう答えるかまでは話していない。

 そんなふわふわした感じの状況で、絶対に顔を合わせない方が良い二人が顔を合わせてしまった。

 誠実にとってこの状況は最悪だった。


(や、やばい! テストが終わってから、美沙に話しをしようと思って居たのに……ややこしい事に!!)


 きっと明日は、沙耶香から美沙との関係を問い詰められるんだと思うと、肩が重たくなった。

 浮気をしていないのに、なんだか浮気をしている気分になり、誠実は大きなため息をつく。

「はぁ~……」


「おい、どうした誠実? そんな世界の終わりみたいな顔して」


「何かあったか?」


「あぁ…ちょっと明日修羅場になりそうでな……」


 誠実がそう言うと、武司と健はなんとなく察し、それ以上は何も聞かなかった。


「まぁ、今は歌って忘れよう! 今日は声が出なくなるまで歌うぞ!」


「フ、俺も新しい曲のPVが見たかったところだ、今日は存分に歌おう!」


「そうだな! とりあえず明日考えれば良いよな!? よっしゃ! うたうぞぉ!」


 そう言って誠実達三人はカラオケを開始した。

 三人でひとしきり騒いで歌い、一時間が経過し、少しの休憩に入る。


「ん、そういえば武司に聞きたい事があったんだが」


「ん? 何だよ健?」

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