99話



 誠実が美沙と話をしていると、またしても不機嫌そうに美奈穂がやってくる。


「おにぃ、随分デレデレしてるね」


「べ、別にデレデレなんてしてねーよ!」


 誠実をジーッと見ながら、美奈穂は言う。

 そんな美奈穂の言葉を否定する誠実だったが、内心ではいつもと違う美沙と美奈穂にドキドキしていた。


「おぉ~、やっぱり美奈穂ちゃん可愛い~、私の妹にならない?」


「お断りします」


「残念、でも可愛いなぁ~うりうり~」


「や、やめてください……」


 美奈穂の頬をつついて遊ぶ美沙。

 迷惑そうな顔をしながら、美奈穂は美沙の手をどける。

 しかし、美沙は美奈穂を気に入っているらしく、嫌がれても美奈穂に抱きつき美沙は美奈穂の頬をつついて遊ぶ。


「おいおい、妹が嫌がってるからやめてくれないか」


「えー可愛いのに~」


「心なしか美奈穂がげっそりしてるんだよ」


 美奈穂は美沙の対応に疲れたのか、あまり元気そうではなかった。

 

「誠実君! 私この子欲しい!」


「やらねーよ、何をわけわかねーことを言ってんだ……」


 馬鹿な発言をする美沙に、誠実は呆れた様子で言う。 

 美奈穂も限界だったらしく、美沙の拘束から逃れ、誠実の後ろに隠れる。


「あぁ~、なんか私いけない何かに目覚めそう……」


「おい、妹に手を出すなよ、変態女」


「失礼だな~、ちゃんと異性に対してしか、性的な興奮は覚えないよ!」


「言わんで良い!!」


 そうこうしている間に、撮影は終了し、美奈穂と美沙は着替えをして、元の服に戻った。

 結局撮影は夕方までかかり、午後はあまり勉強の出来なかった誠実は、明日こそは一人で勉強しようと心に決めた。


「はぁ~なんか疲れたな……」


「私は楽しかったな~、どうだった? 私?」


 ニコニコしながら、隣を歩く美沙が誠実に尋ねる。

 現在は美沙と一緒に帰り道を歩いている誠実。

 美奈穂は事務所に戻った後に家に帰るらしく、そのば分かれた。


「あぁ、美奈穂の方が可愛かった」


「うわ、シスコン…」


「何とでも言いやがれ、まぁ……でも……」


「ん?」


「お前も悪くなかった……」


 そう誠実に言われた瞬間、美沙はうれしいのやら恥ずかしいのが入り交じった複雑な感情になり、上手い返しが思いつかず黙ってしまった。


「え……あ、その……あはは」


 顔を真っ赤にしながら、美沙はやっと愛想笑いをする。

 そんな空気に耐えきれなかったのか、誠実が急に大声を上げる。


「あぁー! もう、あれだ! お前も似合ってたよ! これでこの話は終わりだ! さっさと帰るぞ!!」


 そう言って誠実は、ズンズンと帰りの道を進んでいく。

 そんな誠実を後ろに美沙が続く。


「……やっぱり……好きだなぁ」


 誠実の背中を見ながら、そうつぶやく美沙の顔はほんのりと赤くなっていた。





 日曜日、誠実はどこにも出かけずに家で勉強すると決めたのだが、やはり色々な誘惑が多く、なかなか集中出来ないでいた。

 息抜きと言って読み出した漫画が面白く、そのまま1時間も読み入ってしまったり、スマホのアプリで遊んでしまったりと、勉強に集中出来ない。


「やっぱり、場所を変えるか……」


 誠実は勉強に集中する為に、また一人で出かける。

 今日こそは一人で集中出来るところで勉強しようと、誠実は意気揚々と出かけた。


「やっぱりファミレスかな? ドリンクバーでも頼んで勉強してよう」


 誠実は駅前のファミレスに向かって歩みを進める。

 鞄には問題集や教科書を詰め込み、誠実の鞄はいつもより重たくなっていた。

 早く落ち着いて勉強がしたいと思いながら、誠実は炎天下の中ファミレスに向かう。


「以外に居るもんだなぁ~」


 お昼を過ぎ、今は午後の二時半。

 意外にもお客さんは多く、ファミレス内は少しざわざわしていた。

 窓際の席に座り、誠実は早速勉強を開始する。

 周りの騒音を気にしないように、誠実は持ってきたイヤホン耳につける。


「よし、始めるか」


 誠実は意気揚々と勉強を開始する。

 運良く知り合いと会うこともなく、誠実は勉強に集中することが出来た。

 勉強開始から二時間が経とうとした頃、誠実は小休止をしようと、イヤホンを外し伸びをする。


「うーん! やっぱり外の方が集中出来るな」


 ドリンクバーで飲み物を持ってこようと、席を立ち誠実はドリンクバーのコーナーに向かった。

 コーラでも飲もうかと、機械にグラスをセットしようとした瞬間、誠実以外のグラスが反対側から伸びてきた。


「あ、すいません……」


「いえいえ、お先にどう……お、お前!!」


「え? あ! えっと……誰だっけ?」


「なんで覚えてねーんだよ!!」


「いや、出来事は覚え手るんだけど、名前が……純? ジョン?」


「駿だ! ジョンって外人の名前だろ!」


 ドリンクバーのコーナーで誠実が出会ったのは、先週の月曜日に殴り合いの喧嘩をした日御駿(ひお しゅん)だった。

 すっかり喧嘩の傷は治ったらしく、初めて会った時と同様、センスの良い服を着て、何も知らない人から見たら、普通のイケメンだった。


「んで……なんでこうなんだよ!」


「まぁまぁ、良いじゃないか、俺と駿の仲じゃないか」


「どんな仲だ! 大体俺はお前より年上なんだぞ! 少しは敬語とかをだな……」


「あれだけの事をした人を先輩とはよばないなー」


「……ち、むかつくな……相変わらず」


 誠実はが駿の席に来たのには理由があった。

 一つはなぜ約束を破ったのかだ。

 幸いいつもの取り巻きはおらず、駿は一人だった。


「俺、言ったよな? もしも約束を破ったら……この画像を……」


「好きにしろ、俺は負けたんだ、文句は言わねーよ。約束だしな……」


「……なぁ、教えてくれよ……なんで……俺はお前も俺と同じで山瀬さんの事が本心では好きだからと思って!」


「……馬鹿かお前は」


「は……」


「俺は言ったはずだ、お前みたいな奴も、綺凜みたいな奴も大っ嫌いだってなぁ、そんな奴らとの約束を守るとでも?」


「くっ……お前!」


「悔しかったら! お前が綺凜を幸せにしてみせろよ」


「……は?」


 興奮気味の誠実とは対照的に、駿は落ち着いた様子で話す。

 周りが騒がしい為、少し大きな声でも周りに話しが聞こえる事が無い。


「今頃、綺凜はショックで落ち込んでんだろ? ざまーみろだ! 俺の当初の目的達成だぜ」


「ふざけんな! 山瀬さんがお前の事を……」


「じゃあ、聞くがあのまま何も知らないままで、綺凜本人の為になったのか?」


「そ、それは……」


 正直、誠実にはなんと応えて良いのかわからなかった。

 駿の言うことも最もだった、しかし駿の言葉を認めてしまうと言うことは、駿のやった事が正しかったと認めてしまうことになってしまう。

 

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