92話
「あの……なぜそんなに不機嫌なんでしょうか?」
「別に不機嫌じゃないし」
と言いつつも昨日よりも明らかに機嫌の悪い妹に、誠実は頭を悩ませていた。
もしかして学校で何かあって、自分に八つ当たりでもしているのだろうかと思う誠実。
ならば、兄としてここは何があったのかを聞くべきかと思い、美奈穂に尋ねる。
「なぁ、なにかあったなら俺に言ってみろよ。こんな兄貴でも話ぐらいは聞いてやれるぜ」
「……そうね、じゃあ聞きたいんだけどテスト勉強って誰とやってるの? 健さんと武司さんと? そんな分けないよね? 正直に言ってみて」
「ん? なんでそんな事を? まぁ別に良いけどよ。まぁそう言っても毎日メンバーは減っててな、今日なんかは沙耶香と二人だった」
「へ~、なんの勉強したの? 保険体育の実技?」
「なんでだよ!! 普通にテスト勉強だよ!」
一体どんなテスト勉強を想像していたのかと、誠実は妹想像力が心配になってしまった。
しかし、そんな事を聞いたのか、誠実は美奈穂の質問の意図がつかめなかった。
「ま、そう言っても明日からテストだからな、テスト勉強は今日までだ」
「……そうなんだ」
「おう、土日挟んで月曜と火曜もあるけど、とりあえずは教えてもらったからな、それに沙耶香だって自分の勉強があるだろうし」
そこまで沙耶香に頼みっきりではいられないと思い、誠実は勉強会は今日までと前もって沙耶香に言っていた。
優しい沙耶香は、最後まで付き合うと言ってくれたのだが、それで沙耶香の成績が下がっては申し訳ないので、低調にお断りをした。
多少は自分だけの力で勉強をしなければ、身にならないとも思っていた事もあり、土日は町の図書館で勉強でもしようと考えていた。
「ふ、ふーん……じゃあ、土日は勉強してるんだ……」
「おう、図書館で勉強でもしてくる」
「一人で?」
「まぁそうだろうな、健や武司を誘うと完全に遊びになるし」
「そっか……ならいいや……」
「ん? なんか言ったか?」
「なんにも! せいぜい赤点取らないようにね」
そう言うと美奈穂は階段を上がって自分の部屋に戻って行った。
「何だったんだ?」
結局美奈穂がなぜ怒っていたのいかわからない誠実。
まぁ、機嫌も治ったようなので良しとしようと誠実も自室に戻って行く。
部屋に戻った誠実は、直ぐに勉強を開始する。
「明日……大丈夫なのか?」
問題を解きながら、誠実はどんどん不安になっていった。
そしてあっという間に次の日となり、テスト当日を迎えた。
「あぁ……なんか解けるイメージがわかない……」
自信があまり無いまま、誠実は学校に登校した。
教室に入ると健と武司が先に来ていた。
クラスのみんなはテストの為の最後の悪あがきをしており、みんな机に向かって勉強していた。
もちろんそれは健や武司も例外ではない。
「よ、おはよ」
「あぁ、誠実かおはよう」
「健、なんで昨日は直ぐに帰ったんだ? もしかして……島崎か?」
「その名を呼ぶな! あの……あのおんなは……」
鈴の名前を言っただけで、健は小刻みに震えだし怯えだした。
こんなに何かに怯える健の姿など見たことの無い誠実は、一体何があったのかと心配になってしまった。
「ま、まぁなにかあるなら言えよ…」
「……ね、猫耳………お、お嬢様……」
相当な恐怖だったのか、あるいは屈辱だったのか、健はうわごとを口にしながらまた震え出す。
放っておけばそのうち元に戻るだろうと、誠実はひとまず健を放って、自分もテスト勉強を開始する。
そんな事をしている間に、あっという間にホームルームが終わり、テストの時間がやってくる。
「よし、はじめ!」
先生のかけ声と同時に、テストが始まった。
*
「と、とりあえず……一日目終わった……」
一日目の教科がすべて終了し、誠実は机の上に突っ伏す。
そんなさなか、武司は直ぐに帰り支度を済ませ、教室を後にしていく。
「誠実、健、また明日な」
「お、おう……じゃあな……」
帰り際に武司は誠実と健に別れを告げ、早足で教室を後にしていった。
「あいつ…マジだな」
「あぁ、本気で80点取るきだな、まぁ陰ながら応援してやろう」
健と誠実がそんな話をしていると、たった今武司が出て行ったところから、満面の笑みで鈴が登場した。
「け~ん~く~ん~」
「ひっ! 誠実、悪いが俺も先に帰る!」
誠実に別れ告げ、健は昨日と同様に目にも止まらぬ早さで教室を出て行った。
「あ! まってよ! 今日も勉強するんでしょ~!」
健を追いかけて、鈴ももの凄い勢いで走り去って行った。
「あの二人に一体なにが……」
一体健と鈴は一体どんな勉強をしているのか不思議に思う誠実。
最近は健や武司と帰宅することがなく、なんだか違和感を感じていた。
「はぁ……とりあえず明日は休みだし……とりあえず家に帰って寝よう……」
最近はいつもより勉強を頑張っているせいか、体が疲れているように感じる誠実。
一人で教室を出て帰宅する。
廊下を一人で歩いていると、誠実は見知った人物と出会った。
「あ、先輩」
「え…せ、誠実君!」
向かいから栞がやって来たのだ。
栞は誠実に気がついていないらしく、誠実は声を掛ける。
誠実に声を掛けられた栞は、誠実の顔を見て驚き顔を赤くする。
そういえば、この前の電話で怒らせてしまったと思い、そのことを謝ろうと思って声を掛けたのだ。
「この前はすいません…電話で変なこと言ってしまって……」
「い、いえ…全然気にしてなんか……いませんから……」
更に顔を赤くしながら応える栞。
まだ怒っているのかと思った誠実は、とりあえず謝っておく。
「いや、本当にすいません! あんな事、好きでもない男から言われたら不快ですよね?」
「そ、そそ……そんな事はありません!!」
顔を真っ赤にしたまま、興奮した様子で応える栞を見た誠実は、栞がまだ怒っているものだと思い、とりあえず必死で頭を下げる。
温厚で優しく、いつも冷静な栞がここまで興奮するという事は、相当怒っているのだろうと、誠実は必死に頭を下げる。
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