86話
自分に好意を向けてくれていた相手を裏切り、その挙げ句に罵倒し傷つけた。
しかし、その誠実は最後の最後まで綺凜のために動き、ボロボロになりながら綺凜の幸せを願った。
それを知った綺凜は、罪悪感と懺悔の気持ちで今はいっぱいだった。
自分が馬鹿だったと気がつくの遅かった。
駿は綺凜にすべての真実を告げると、婚約の約束を破棄し、綺凜の目の前から消えた。
去り際に駿は綺凜に対してこう告げた。
『お前、男を見る目がないな。あいつみたいな使えるやつを振るなんて……』
駿はきっと、自分よりも誠実を選ぶべきだったなと言いたかったのだろうと、綺凜はとらえていた。
結果的にそうだったかもしれない、しかし綺凜は駿を選んだことに後悔などしてはいなかった。
自分で自覚なんて無かった。
しかし、いなくなった今だから、よくわかる、自分がどれだけ駿に好意を抱いていたのかを……。
「頭……痛いな……」
何もかもを失った気分だった。
きっとバチが当たったのだろうと綺凜は思っていた。
人の好意を踏みにじり、自分の好意を正当化しようとしたバチが当たったのだと。
ピンポーン
そんなことを考えていると、家のチャイムが鳴った。
綺凜はベッドから起き上がり、リビングのインターホンを見る。
「はい、山瀬ですが?」
『あ、綺凜? 私、美沙。お見舞いに来たよ!』
画面の向こうにいたのは、笑顔の美沙だった。
制服姿のところを見ると、学校帰りの様子だった。
綺凜はオートロックを外し、美沙を部屋に招いた。
「いやー相変わらず凄いとこすんでるよね~。あ、これお見舞い! ミカンゼリー」
「ありがとう……ごめんね心配かけて……」
「大丈夫だって! 友達でしょ? それに……今は一人でいない方が良いよ…」
美沙はリビングで、綺凜の隣に座ると優しくそう言った。
どんな結果になったのかを綺凜は美沙には一切話していないはずだった、しかし、美沙は綺凜の状態を見て、何かを察し、綺凜を元気付けに来たのだ。
「……美沙。あなたは凄く見る目があるね……ほんとに……彼はいい人だった……」
「伊敷君のこと?」
「えぇ、彼に私はずっと助けられてた、なのに……私は……」
工場での出来事や駿の話を綺凜は美沙にすべて話した。
美沙はその話を真剣に聞いた。
「そっか……やっぱり誠実君……綺凜の為に……あぁ~良いなぁ~、私もそんな風に言われてみたいな~」
「美沙は私が憎くないの? 私はあなたの好きな人を……」
「なんで? 人の好き嫌いなんて、人それぞれじゃない? それに、綺凜は友達だからね!」
綺凜は疑問だった。
なぜ誠実が自分を好きなのか、なぜ美沙や沙耶香のような良い子に好意を持たれているのに、自分を選んだのか。
「美沙は優しいね……」
「そうかな? 友達を心配するのは当然でしょ? それに誰にだって間違いはあるよ、重要なのは間違った後に何をするかだよ」
「間違えた……後……」
「うん、綺凜。あなたはどうするの?」
美沙は綺凜の顔を覗きながら尋ねる。
綺凜は何をすべきか考える。
このまま後悔だけをしていても仕方ない、綺凜は行動することを決めた。
「美沙……私は……」
「うん、大丈夫。ちゃんとわかってるなら、綺凜は大丈夫。綺凜には私がいるから、だから安心して自分がやるべきことをすると良いよ」
「美沙……ありがとう」
美沙が綺凜を安心させる為に抱きしめる。
綺凜は瞳から涙をこぼす。
たった数ヶ月の付き合いだが、美沙には何度も助けられた。
美沙が友人で良かったと、綺凜はこのとき思った。
*
「……で、ここにこの数字を代入すれば……」
「おぉ! 解けた! なるほど、これはこの数式を応用するのか……」
「そうそう! 伊敷君、前回学年一位だけあって、少し教えただけで全然大丈夫だね」
勉強会が始まり一時間が経とうとしていた。
誠実は問題なく、問題の解き方を理解し少しづつテストの対策が整い始めていた。
「んで、ここをこうするの、わかった?」
「なるほど……島崎は教え方が上手いな……よくわかった」
「えへへ~そうかなぁ? じゃあはい! 約束通り、お願いします!」
「鈴、何余所見してるんだ? 俺だけを見てろといったはずだが?」
「はぅ~、イケメンの俺様発言! あぁ~死んでもいい……」
健と鈴のペアも勉強の方は問題なさそうだが、何か変なプレイをしており誠実は若干二人の関係が心配になり始めていた。
「武田君! 何でここがこうなるの!」
「知るかよ! 教えられた通りにしたら、こうなったんだよ!!」
問題は武司だった。
先ほどから志保に教えられ、問題を解いていた武司だったが、さきほどから一向に解けている様子がない。
「大体、古賀の教え方もいまいち良くわかんねーんだよ……」
「な……武田君が理解出来ないだけでしょ!」
「じゃあ、なんで解説バーンとかズゴーンとか、効果音が出てくるんだよ! そもそもそこが謎だろうが!!」
話を聞いていると、教えている志保にも問題がありそうだと思う誠実。
武司は赤点を回避出来るのだろうかと心配しつつも、自分の成績もかかっているので人の心配をしていられない誠実。
「志保、少し休憩しよ。もう一時間ずっと勉強してるし、飲み物でも飲んで休もうよ」
「武司もだ、イライラしていては頭に知識が入ってこない」
沙耶香が志保を落ち着かせ、健が武司を落ち着かせる。
武司と志保は言われた通りに休憩を始める。
「はぁ……なんか疲れた…」
「いつも勉強なんてしないからな、しかしこの調子なら赤点は回避出来そうだ」
「お前らは良いよなぁ~、先生が良いからよぉ……古賀の説明聞いてみろよ、訳わかんねーから」
誠実達男子三名は、図書室から出てすぐにある自販機で飲み物を飲みながら少し休憩をしていた。
「武司、せっかく教えてくれているんだ、そんな言い方をしては失礼だぞ」
「そうだけどよぉ……あの教え方は文句を言いたくなるっての……」
「そんなにか? なら今度は俺と席を交換するか?」
「良いのか?」
「あぁ、それに沙耶香は教え方が上手い、お前でも理解出来るだろ」
「それは親切なの? それとも俺を馬鹿にしてるの?」
話し合いの結果、誠実が志保から教えてもらい、武司が沙耶香から教えてもらうやり方になった。
沙耶香も誠実の頼みとあって、快く了承し志保も若干不満そうではあったが、納得した。
そして、勉強再会となり、誠実は志保から勉強を教えてもらっていた。
「……古賀、ちょっと良いか? ここなんだが」
「あぁ、そこはここをバーンとして、この4をドカンとぶち込めば答えが出るわ」
「………なんて?」
武司の言っていたことがなんとなくわかった誠実であった。
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