84話

 モヤモヤした気持ちの中、誠実は授業を受けていた。

 武司と健の言っていることは正しいと心の中で意識していても、結局誠実はわからなくなっていた。


「俺……何がしたかったんだろ……」


 結局自分は何をした気でいたのか、誠実はわからなくなっていた。

 ただ好きな人に泣いて欲しくなかった。

 それだけのことなのに、なぜこんなにも難しいのか、誠実にはわからなかった。


「誠実君」


「ん? どうかしたの沙耶香?」


 ぼーっと考える誠実の元にやってきたのは、沙耶香だった。

 心配そうな表情で誠実を見つめ、優しく話し始める。


「大丈夫? なんだか朝より元気ないよ?」


「あぁ、大丈夫だよ、そんなの気のせい気のせい! それより、次の授業ってなんだっけ?」


 これ以上沙耶香に心配させたくないと、誠実はわざとらしく笑って見せる。

 しかし、沙耶香も数ヶ月ではあるが、ずっと誠実を見てきたのだ、誠実の作り笑いくらいには気がつくようになっていた。

 誠実が無理をしていることに気がついた沙耶香は、更に表情を曇らせる。


「やっぱり……女の私より………武田君とか、古沢君の方がいいよね……」


「沙耶香、噂信じてなかったんじゃないの?」


 沙耶香の言葉を誠実は全力で否定し、なんとか安心させようと誠実は話し続ける。


「そんな心配すんなって! それよりも今週からテストだろ? 勉強教えてくれよ!」


 話を変えて沙耶香に頼む誠実。

 誠実の言葉に、沙耶香はピクリと反応し、顔をほんのり赤くしながら誠実に尋ねる。


「そ、それって……二人っきりで?」


 その言葉に、誠実は間違った考えを働かせてしまう。

 二人で勉強するより、みんなで勉強した方が教え合いがスムーズに出来て良いのではないかと考えた誠実。


「いや、みんなにも声かけてさ! 二人よりも大勢の方が教え合いとか出来……」


 そこまで言ったところで、沙耶香が口を膨らませてあからさまに不機嫌になる。

 誠実は、変なことを言っただろうか? と自分の言ったことを振り返るが、わからなかった。


「あ、あの…沙耶香さん……どうかなさいました?」


「……二人っきりじゃないんだもん」


「い、いや…あの…だって大勢の方がはかどるかと思って……」


 プイっとそっぽを向く沙耶香に、誠実は困り果ててしまう。

 何が気に入らなかったのか、誠実はわからず、改めて自分の提案を振り返る。


「誠実君、学年一位だし、大丈夫なんじゃない?」


「い、いや、あのときは頑張れるきっかっけがあったからで……俺は基本馬鹿だし……」


 沙耶香は少し困らせてやろうと、意地悪をしていた。

 元気のない誠実に元気になって欲しかったのもあるが、少しは自分に興味を持って欲しかったのだ。

 そろそろ、勘弁してやるか。

 沙耶香はそう思って、誠実の方に笑顔で振り返る。


「冗談だよ、ごめんね、誠実君が私と二人っきりは嫌なのかと思って!」


「そ、そんなことねーよ! 今回は人数が多い方が良いと本気で思ったから……」


「うふふ、なら良いよ。私も声かけて見るね、でも次のテスト勉強の時は二人っきりが良いな……」


 顔を真っ赤にしながら、恥ずかしそうに言う沙耶香に、誠実も思わず顔を赤らめる。

 そんな沙耶香の表情や態度を見て、誠実は改めて思う。

 沙耶香もすごく可愛くて優しい美少女なのだと。


「あ、あともう一つだけ!」


「ん? どうかしたか?」


「二回目の告白って……誰からされたの?」


 誠実と沙耶香の間には、先ほどまでの和やかな空気はない。

 今あるのは、凍り付いてしまうようなぐらい冷たい空気だった。





 誠実が沙耶香に美沙のことを説明した後、誠実は午後の授業を受け終え、現在は放課後だった。

 午後の授業中、すさまじい視線を沙耶香から受けた誠実は、見られているという緊張状態が続いた為、いつも以上に疲れていた。


「あぁ~なんかいつも以上に疲れた……」


「なんか、前橋からガン見されてたけど、なんかあったのか?」


「まぁ……いろいろ……」


 帰り支度を済ませた武司は、誠実の机の元にやってきて尋ねる。

 誠実の疲れた様子を見た武司は誠実の肩に手を置き、温かい目で誠実を見る。


「とりあえず、結果は結果だ、今更あがいたって何も変わらん、今はテストに集中しようぜ」


「あぁ………あ、そういえばテストのことで相談何だけどよ、テスト勉強沙耶香とかの勉強出来る連中に教えてもらおうぜ」


「それは良いけどよ、前橋以外のメンバーは誰なんだ?」


「俺と、健、武司、あとは料理部の誰かじゃないかな? あの部頭良さそうな子が多いし」


「そうか? どっちかって言うと、俺らと同類が多そうだと思うんだが……」


 武司と誠実がテストについて話していると、健が欠伸をしながら二人のところにやってきた。


「何の話をしてるんだ?」


「いや、テストのことでな……」


 誠実は健に武司と話していた話を伝える。

 すると健は、無表情のままピクリと眉を動かし、拳を握りしめて言う。


「それは面白……いや、頼もしいな」


「面白いっていった? お前、今面白いって言った?」


「気のせいだ誠実。そんなことよりも今はテストだ」


「絶対言ったよな? 俺の目を見て絶対言ったよな?」


 沙耶香と一緒にと言った瞬間、健は目を輝かせたことを誠実は知っていた。

 健と武司は、誠実と沙耶香の関係がどうなるか常日頃から気になっている。

 それを知っている誠実は、この二人が何か余計なことをするのではないかと不安だった。


「んで、いつからなんだ? 今日はもう火曜だぞ?」


「あぁ、一応図書室で今日の放課後からってことにしてる。まぁ、これる人だけって話だから、そこまで集まらないだろうけど」


 急な提案であった為、誠実は武司と健、それに沙耶香位のメンツだと考えていた。

 誠実たちは約束通り、学校の図書室に向かう。

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