74話
体力的な差もあったのだろう、誠実は最初の取っ組み合いのダメージと疲労で限界が近く、駿の攻撃がトドメになってしまった。
「本当にバカだな~、聞いてるぜ、お前綺凛に利用されてたんだろ? わかんねーなぁ~、なんでここまでする?」
「……うっせぇ……」
誠実は息を切らせながら、自分を見下ろす駿を睨みつける。
一方で、健は一人で四人の相手をしているため、誠実の加勢に行けず、武司は頭部を殴られまだ立ち上がることが出来ない。
「誠実……!」
健は何とか誠実の元に加勢に行こうとするが、ヤンキーに囲まれその場を動けない。
一人を倒しても、また次がやってくる。
一人、また一人と倒しているうちに、最初に倒したヤンキーがまた立ち上がってくる。
いくら健が強くても、この繰り返しでは、その場から動けない。
しかも、健も誠実と同じく体力の限界が近づいていた。
「邪魔だ……」
健は一気にケリをつけようとするが、疲労で体が思うように動かない。
最初は圧倒していた健も次第に押され始める。
「く……まずいな……」
状況が厳しくなりつつある誠実達。
そんな誠実達を見ながら、駿は顔をゆがめ、怒りの表情を誠実に向けて話す。
「わかんねーな、あんな女の為になんでここまでできる。女はな、みんな一緒だ、裏切るし、平気で嘘をつく。なのに、お前はなんで俺に向かって来る?」
「……確かにお前の言う通りかもしれない……でも、そんな女ばっかりじゃない!」
「はっ! やっぱり馬鹿だな、良いか! 人類の歴史の中で女が裏切らなかった歴史は存在しない! 男はいつも騙される側さ! どんなに愛していても、どんなに好きでもな!!」
感情的になって話しをする駿。
誠実はその話方に違和感を感じた。
まるで自分も裏切らたような感じの言い回し、そして女に対する大きな憎しみ。
誠実は駿がここまで女性を憎んでいるのか、気になった。
「なんで……お前は、そこまで……」
「決まってんだろ……俺もお前と同じバカだったって事だよ」
「どういう意味だ!」
「……同じバカのよしみだ、話してやるよ」
そういうと、駿は近くの廃材に座り話始めた。
「俺は裕福な家に生まれ、何不自由なく生活をしていた。優しい母さん、それに親父……でも、何もかも……あの女が……母さんがぶち壊した!!」
駿は怒りに顔を歪めながら、誠実に話す。
誠実は駿の表情から、強い憎しみを感じた。
「母さんは、家の財産の半分以上を持って逃げた! 他に男を作ってな! あの優しさは、ただの演技だった!! そして、去り際にあの女は俺に言った!」
『あんたのおもりから解放されると思うと、本当に幸せ』
駿は拳を握りしめながら、さらに顔を歪める。
誠実は、その話を黙って聞いて居た。
「その時思ったよ、あの優しい母さんは偽物だったって、結局俺に母さんなんていなかったって……居たのはただの泥棒女だけだって」
「だからって、女の人を憎む理由にはならない……」
駿は深く息を吐き、少し落ち着きを取り戻し、誠実の方を見て笑いながら言う。
「もちろんそれだけじゃない、最初は悪いのはあの女であって、世のすべての女性を憎むのは違うとわかっていた。だが、気が付いた…結局女なんてみんな一緒だ。嘘をつき、男を騙し、利用する! お前だって利用された側だろ?」
駿の言葉からは嘘を感じられなかった。
本当に女が嫌いで、憎んでいる。
ならなぜ、綺凛との婚約を受けることにしたのか、誠実はそれが疑問だった。
「じゃあ、婚約なんてしなきゃよかっただろ……」
「仕方ねーだろ、親父のメンツもあるからな。俺は親父には感謝してる、男で一つで、こんなひねくれた俺を育ててくれた。綺凛との婚約は、金目当てで婚約してくる馬鹿女に少し痛い目を見てもらおう思って婚約したんだよ。どうせ俺は女が嫌いだからな」
その言葉を聞いて背実は安心した。
駿の話を聞き、同情しかけていた誠実だったが、やっぱり駿はクソ野郎だと気が付いた。
「……なら、安心だ……俺はお前を存分に殴れる!」
誠実はゆらゆらと立ちあ上がると、駿を睨んで拳を構える。
「お前は何もわかってない、いや……向き合おうとしていないんだ、女性と!」
「何言ってんだ、向き合った結果、俺はこうして女を憎んでんだよ!」
「笑わせんな、全然向き合えてねーよ! 山瀬さんがどうして俺を利用したと思う? お前の為だろうが!!」
言われた駿は誠実が何を言っているのか意味を理解していない様子で肩をすくめる。
「何言ってんだ、そんなのお前の妄想だよ。綺凛を綺麗に見すぎてんだよ。あの女は自分の保身の為に、お前を利用したんだ」
「違う! 山瀬さんは言ってた……お前に迷惑をかけたくないって……あの人は優しいからって……だから俺を利用してまで、お前を守りたかったんだよ!」
「あほか、それがゆくゆくは自分の為になるから、綺凛はそうしたんだよ! 結局は自分の為さ!」
「じゃあ、なんであの人は俺に怒ったんだ!」
「は?……それは……」
「あの人は、俺がお前を襲ったって聞いて、俺を呼び出して怒ったんだよ……あの人にだけは迷惑をかけないでって、自分の事しか考えてない人間が、なんで他の人の事で怒れる!」
「言ってんだろ! それは全部自分の…」
「お前こそ、そう思い込んでいるだけだ! あの人は、そんな人じゃない!」
誠実の気迫に、次第に駿が押され始めていた。
誠実は駿にゆっくりと近づきながら、言葉を続ける。
「町でお前を見かけたとき……あの人は、俺には絶対に向けてはくれない笑顔をお前に向けていた!」
「そ、それがなんだ!」
「あの人のあんな顔! 俺は入学してから一度も見た事ない! 毎日のように付きまとっていた俺でさえ!」
栞と一緒に街に行ったときに、誠実が見た綺凛の笑顔。
誠実はそれが忘れられなかった。
「なんでお前なんだ、なんで俺じゃないんだって、俺はずっと思ってた! 正直に言うよ、俺はお前が羨ましい、どんなに願っても、どんなに頑張っても、俺が手にれられないものをお前は持ってるんだから……」
誠実は涙を浮かべながら、駿にそう言い、駿の目の前まで歩みを進めた。
そして、誠実は顔を上が腕を振りかぶり、駿に向かって拳を振るう。
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