73話

「あははは! 戦闘服? ここはアイドルのライブ会場かよ! あははは!!」


「ほ~ら、笑われた……」


 武司はガックリと肩を落としながら、誠実と健に呆れた様子でいう。

 しかし、誠実と健の表情に恥ずかしさなどは無く、ただヤンキーたちを睨んで動かなかった。


「……なぁ、もう一回聞いても良いか? お前は山瀬さんの事、どう思ってんだ?」


 誠実は駿に向かってそう尋ねる、すると駿は、笑みを浮かべながら一言口にした。


「騙しやすい女」


「……恋愛感情とかは無かったのかよ…」


「あるわけねーだろ? 女なんてみんな同じだ、金持ってれば、尻尾振って寄ってくる。あの女だって同じさ、俺にとって女はただの遊び道具、ただそれだけだ」


 誠実は、怒りで拳を震わせていた。

 こんな男に綺凛を渡したくなかった。

 例え、自分に何も返ってこなくても、誠実は綺凛にいつまでも笑っていてほしかった。

 しかし、駿では綺凛を笑顔にできないと、誠実は確信した。

 街ですれ違った時の駿のあの笑顔も、演技だとすれば、綺凛が駿に見せていた笑顔も本物ではない。

 本来、決めるのは誠実ではなく、綺凛かもしれない。

 でも、誠実は駿にだけは綺凛を渡したくなかった。


「……よくわかった。何か理由があって、こんな事してるかと思ったけど……これで存分ににお前をボコれる!」


「おぉ~カッコいいね~、でもこっちは10人だぜ?」


 誠実たちが入って来た入り口から、先ほどまでいり口に居た4人のヤンキーが工場内に入って来た。


「それがどうした? 数だけ揃えても、俺たち勝てる保証なんてないぞ?」


「お、おい……健も誠実もわかってる? 俺らピンチなんだぜ?」


 学校ではあれだけ大きな口を叩いていた武司も、実際の状況にビビッて居た。

 しかし、健と誠実は落ち着いた様子でペンライト握りしめ、駿を睨む。


「武司、忘れたか? 誠実は山瀬の為なら、なんでもするってことを……」


「そ、それがなんだっていうんだよ? 10対3なんだぞ?」


「お前も見てきたはずだ、山瀬の為に行動する誠実は……最強だ」


 健が言いかけたところで誠実は飛び出し、駿に向かっていく。

 そこにすかさず駿の取り巻きのヤンキーが壁になり行く手を遮る。

 誠実は、そのヤンキーに手加減なしで腹に拳をぶつける。


「ぐぁ……う、うぅ……」


 ヤンキーはその場にうずくまる。

 誠実はそのヤンキーを無視して、再び駿に近づいていく。


「……何、仲間に守られてんだよ……さっさと来いよ、おぼちゃんよぉ!」


 誠実はそのまま勢いに任せて、駿の取り巻きと殴り合いになった。

 4対1なのにも関わらず、誠実はヤンキーたちを圧倒する。


「な、なんだこいつ……前はただの雑魚だったのに!」


「おい! 加勢に行くぞ!」


「加勢? 俺たちを無視してか?」


 健は丁度自分たちの後ろに居た、工場入口側のヤンキーに向かってそういうと、ペンライトを握りなおし、ペンライトのスイッチを入れ、ゆっくり近づいていく。


「言っておくが、お前らの敵は誠実だけじゃない、俺たち3人だってことを……忘れるな!」


 健はそういうと、持っていたペンライトでヤンキーたちを攻撃し始める。

 相手のみぞおちに重たい一撃を加える。

 攻撃を受けたヤンキーは、息が詰まるような感覚を味わい、みぞおちを押さえてその場にうずくまる。


「なめるなよ、ドルオタを……」


「そうだった……健ってハイスペックイケメンオタクだった……」


 武司はどや顔でスタイリッシュな立ち姿をする健に対して、肩を落としてそういう。

 一人で焦っていた自分が、バカらしく思えてしまうほど、誠実と健は強かった。

 そもそも喧嘩などというこういうを基本的にしない誠実たちにとって、いくら付き合いが長いとは言え、実際に喧嘩が強いかどうかなんてわからない。

 武司は、始めて見る友人の喧嘩に、思わず言葉を漏らす。


「なんなんだよ、こいつら………全く最高だぜ」


 武司はにやりと口元を歪ませると、誠実の方に向かって走って行き、誠実の腕をつかんでいるヤンキーに向かって顔面パンチをお見舞いしてやる。


「誠実! お前ほんとに山瀬さん好きだな! あんなののどこが良いのか、俺は分かんねーけどよ! お前がそうしたいなら、俺はお前とバカやってやるぜ!」


「あんなのとはなんだ! あの人はもう……天使だろ!」


「あぁ…ハイハイ。良いから、さっさと雑魚倒して、ボス戦にいこうぜ」


 誠実と武司は、お互いに助け合いながら、5人のヤンキーを相手にし、健は4人のヤンキーをペンライトだけで圧倒していた。


「おいおい、健強すぎだろ? ドルオタのくせに」


「誠実、お前も山瀬さんの為だと十分強くなってるよ、もしかして柔道部の主将に勝ったのも、山瀬さんの為だったからか?」


「そうだよ、まぁ主将の方が足を滑らせて、勝手に自爆してくれたってのもあるけど」


 誠実と武司は、話をしながらヤンキーを相手していた。

 それほどまでに、武司と誠実は強かった。

 しかし、それは単純な強さだけではなかった。

 誠実は綺凛の為、武司は友人の為とお互いに誰かの為に戦っているという強い思いがあり、気分が高揚し体中からアドレナリンが出ていた。


「な、なんだこいつら……はっぴのくせに強い…」


「オタクみてーな奴に……負けるなんて……」


「この格好じゃなかったら、相当カッコいいのにな……」


 倒れながら言葉を残すヤンキーたちに向かって、武司は顔を引きつらせながら言う。


「よっしゃ! 次はどい…ぐあ!」


「武司!」


 武司は突然言葉の途中で倒れた。

 誠実は、慌てて武司の方を見る、そこには駿が武司を見下ろして笑っている姿があった。


「あ~あ、一発で伸びちゃったか……」


「おまえぇぇ!」


 武司の頭からは少量ではあるが、血が出ていた。

 それをみた誠実は、さらに駿に怒りを覚える。

 武司は、苦痛の表情を浮かべながら、頭を押さえて地面にうずくまる。


「まじで使えね~な~お前ら……」


「しゅ、駿さん……すいません」


「いいよ、寝てろ。邪魔だ」


 駿はそういうと、誠実の元に近づいていき、またしても不敵な笑みを浮かべながら誠実に言う。


「本当にバカだな、お前」


「バカで結構だよ、クズ野郎」


 お互いに言い終えた後、誠実と駿は互いの顔を目がけて拳を振るう。

 拳は、ほぼ同時にお互いの頬に直撃する。


「ぐはっ!!」


 しかし、倒れたのは誠実だけだった。

 駿は誠実の拳に耐え、立ったままだった。

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