第13話 情報集め

「君が学校へ行ってる間は、俺とスティアさんが情報を集めるから」

「お願いします」

(行ってらっしゃい)

 スティアはゼティスを助けるまで、しばらくアトリエにとどまることになった。

 まだゼティスに関する情報はなく、スティアも逃げるのに必死で彼(であろう)の行方はわからないと言った。学校があるハウウェルは、日中の街での情報収集はバルハラとスティアに任せ、自分は学園内でそれを行うことにした。


 学園に着くなり、ハウウェルは鞄の中から紙を一枚取り出した。そこには、少しいびつな翼の生えた獅子の絵に、

【グリフォンを捜しています!目撃者はハウウェル・グランフェリデまで アトリエ・シルフィより】

という文章が添えられていた。

「これで……よしっと」

 それはゼティスの行方を尋ねる貼り紙であった。

 目撃者がいるかどうかもわからない状況だが、これに賭けるほかはなかった。


「おはよー!」

 教室に入るとすぐにシルヴァンの無邪気な笑顔が見えた。ノルエは教科書を広げて席についていたが、こちらに気付いたらしく「おはよう」と片手を上げた。ハウウェルも彼らに挨拶を返すと、自分の席へ向かった。

「ちょっとハウウェル!」

 机の上に鞄を置いた時、少女の騒がしい声が教室に響いた。しかしいつものことなので、誰も気にしない。

「……何、メルチェイ」

「あんた今、グリフォンを捜してるんでしょ?」

 ふんと鼻を鳴らしたメルチェイの発言に、ハウウェルは驚いて彼女を凝視した。

 あの場には、スティアと会話をした境の森には自分と師とスティア以外、誰もいなかった筈だ。

 ハウウェルは凍りついた口を無理矢理動かし、疑問を口にした。

「何で知ってるの」

「聞いてたのよ。あたし、箒で飛んでる【太陽の魔道士】を見つけて追いかけたの。でも見失っちゃったから、追跡魔法を使ったわ」

 メルチェイは何故か得意気に胸を張って言った。

 ……以前もこのようなことがなかっただろうか。彼女は自分とバルハラを見つけると(多分彼女の目にはバルハラしか映っていないだろうが)、どこへでもついてくるのではないか。ハウウェルは内心ため息を吐いた。

「あたしもついてくからね」

「駄目だよ。今度は人との戦いになるかもしれないから」

 ハウウェルは自分でそう言いながら、今回のグリフォン救出の依頼は、本当に狩人たちと戦うことになるかもしれないと改めて思った。自分たちもスティアを連れている。そのため、狩人たちに矢を向けられしつこく追い回されると思うと、恐怖が押し寄せてきた。

 メルチェイは落ちこぼれであるハウウェルに断られたのが悔しいのか、頬を膨らませ、不満げな表情だ。

「落ちこぼれのくせにあたしに指図しないでよ。あんたの方が【太陽の魔道士】にとって足手まといになるんじゃないの?」

「……それはっ…………そう、だけど……」

「ほーらみなさい!」

 メルチェイは腕を組んでそっぽを向いた。彼女の言うことが正論で、何も言い返せない。自分はあの【太陽の魔道士】にくっついているだけの落ちこぼれで、彼がいなくなればアトリエに依頼は来なくなるだろう。

「メル、そこまでだ」

 長身の金髪頭がメルチェイの頭に軽く手を乗せた。ノルエである。

「ハウくん大丈夫……?」

 暗い顔をしていたハウウェルのもとへシルヴァンが駆け寄ってきた。自分よりも悲しそうな顔をする彼に、ハウウェルは「大丈夫だよ」と優しく言った。


「杖を通して水の精霊リームと会話して。そうすれば精霊は力を貸してくれる筈です。目を閉じて、リームの姿が見えたら間違いなく発動します」

 魔法は、どれも精霊と通じる必要がある。そのやり方は、魔道書を通すものや、今回の雫魔法のようにそれぞれが持つ杖を使うものなど様々だ。

 今回の授業は、与えられたコップに雫魔法で召喚した水を注ぐというものだった。

 バルハラがくれたこの杖ならば、自分のシルフを最大限に引き出してくれる。不発で失敗ということはないだろう。故に、ハウウェルは杖を使う魔法の時は幾分か気が楽だった。

「どうせあんたには無理よ」

 水の入ったコップを持ったメルチェイの笑い声を無視して、精神を集中させる。

(水の精霊リーム……僕の声に応えて!)

ほのかな光が杖を包んだ。そして閉じた瞼の裏に、授業で習った通りの水の精霊・リームの姿が映った。

「きゃああっ!」

 ハウウェルが成功を確信したときだった。ハウウェルは、自分の隣で悲鳴と何かが割れる音が聞こえた。

「……ハウウェル、あんた……!」

 何故か頭から水を被ったようにびしょびしょに濡れたメルチェイが、自分を睨みつけている。その足元にある割れたガラスは、さっきまで彼女が持っていたコップの破片だろうか。ハウウェルは、何故彼女が濡れているのか、自分に怒っているのかわからなかった。

「メルちゃん大丈夫?」

 マギィがタオルを持ってきて彼女の頭や身体を拭こうとするが、メルチェイはそれをひったくり、自分で顔を拭いた。

「魔法を人にぶつけるとか正気なの?ばっかじゃないの!?濡れちゃったじゃない!」

「え?魔法を、人に?」

 メルチェイの言葉に、ハウウェルははっとして自分の持つコップを見た。すると、成功していたら水が入っている筈なのに、その中は空だった。コップを見たと同時に、ハウウェルは自分のしでかしたことを悟った。

「ごめん!…………成功したと思ったんだけどなぁ……」

 確かにリームの姿が見えた。先生もリームの姿が見えたら成功と言っていた。しっかり手順通りにやっている自分が失敗した原因が全くわかならいこともいつものことだった。

「落ちこぼれが出来るわけないでしょ。これでユニコーンの依頼についてくのにも文句は言わせないわよ」

 今度ばかりは自分が悪い。依頼についてくることを断ることも出来ず、ハウウェルは重いため息を吐いた。

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